偶然なんて当たり前にあるものじゃない。
振り返ったマユミの前にはタカヤが立っている。
以前と変わらない笑顔がそこにあるが、それはマユミに向けられたものじゃない。
『カナエ君。だめじゃないか・・・何してるの?』
タカヤはマユミに気付く様子もなく、金髪の男カナエの両手を掴む。
どうやら知り合いらしくカナエはタカヤの顔を見るとホッとした顔で笑った。
『先生、マユ!マユだよ。』
『マユ?ああ、カナエ君の好きな?』
二人に置いてけぼりにされながら、マユミは飛び出したい衝動に足を踏ん張っていた。
目の前のタカヤを今すぐ抱きしめたい、名前を呼んでキスしたい。
けれど今のこの状況では許されない。
どうして?
何してたの?
どこにいたの?
どうして僕を置いていったの?
そんなことばかりが頭をめぐっていて二人の会話なんて聞こえていなかった。
タカヤが顔を覗きこんだ時、やっと自分が上の空だったのに気付いてマユミはハッとした。
『すいません、マユ・・・さん?』
『あ、はい。』
久しぶりのタカヤの声にマユミの胸が揺れる。
けれど彼の目にはマユミは映っていない、タカヤはモデルのマユと話している。
『すいません、うちの子が失礼をしました。申し訳ありません。』
『・・・いえ。ええと。』
『ああ、彼、カナエ君は私の教え子なんです。あなたのことは彼から聞いています、今日も雑誌の表紙になったからと買いに来たんですが、見失ってしまって。』
そう言うとタカヤはカナエのほうを見て微笑む。
それにマユミの胸の奥がじんと痛んだ。
『・・・そう。』
『それで・・・。』
タカヤとカナエがマユミを挟んで会話を始めたが、マユミはもう限界に近かった。
上の空でなんとか相槌を打つも、タカヤがマユミをマユとしてしか見ないこと、自分がそれだけ変わってしまって彼には気付いてもらえないことに、ただ耐えるしかなかった。
目の前のタカヤはあの日とは違って健康的な白さだ。
髪は整えられていて前髪がはらりと落ちている。
少し薄い色の睫毛に端整な顔立ちにカナエと話している唇が・・・。
『マユ?』
カナエがマユミの服を掴んだので、驚いて彼を押してしまった。
タカヤはカナエを抱きとめるも、怒ることなくマユミの顔を驚いた顔で見つめている。
『・・・マユさん、大丈夫?』
『え?』
俯いたと同時にぽたぽたと涙が頬を伝った。
マユミは両手で顔を覆う。
何?
泣いてた?
何で?
どうして?
取り
『あれ・・・目にゴミが入ったかな?・・・アハハ。おかしいな。』
ふとタカヤが何か言いかけたがマユミの言葉に黙り込む。
『すいません、僕少し調子が悪いみたいだから・・・これで。カナエ君だっけ、いつも応援してくれてありがとう。じゃあまた。さよなら。』
マユミはその場を駆け出した。