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第23話 事情

ショッピングモールから少し離れた場所に、タカヤの家はあった。

二階建ての一軒家で外には洒落しゃれた門がついている、車を駐車場に止めると門を開いて家の鍵を開けた。

『この家はね、祖母の家なんだ。もう死んでしまったけどね。』

タカヤはそう言ってマユミを招き入れる。

玄関で靴を脱ぐと、上がりがまちからすぐ廊下を抜けて居間に入る。

居間は部屋の中央に大きなテーブルと座椅子が置かれていた。


『ここで待ってて、何か飲み物を持ってくる。』

マユミは泣きつかれて喉がカラカラだった。

小さく頷いて居間のテーブルの傍に座ると周りを見渡す。

綺麗に掃除されているが一人では不安を感じる広さだ。

とりあえず鞄を下ろして眼鏡を外した。

ウィッグも取ってしまいたかったけど、なんとなく取れずに俯いた。

さっきの質問にはまだ答えをもらっていなかった。

どうして何も言わずに・・・それだけでも知りたいと思うけど、知りたくない気持ちもある。


『マユミ君、どうぞ。』

タカヤはグラスを手渡した。

氷が入ってその上で炭酸がはじけている。

『ありがとうございます。』

『マユミ君、それウィッグだよね?この間と違う。』

『うん・・・マユってばれると色々あるから・・・。』

『ああ、取ってくれる?』

目の前に座ったタカヤに頷いてマユミはウィッグを外した。

ネットも外すと柔らかい髪がぐちゃぐちゃだったのか、タカヤは手を伸ばして髪を整える。

『うん、こっちのがらしい。』


『なんか・・・恥ずかしい。』

『さっきの話の続き、しようか?』

テーブルに置いたタカヤのグラスを彼は一口飲む。

『ここは祖母の家だって言ったよね。あの日、俺はここに帰ってきた。教師になるっていうのはその通りだったんだ。実際それに向かって動いていたからね。祖母はね、結構名のある人でさ。一つ孤児院を経営してたんだ。そこにいたのがカナエ。頭の良い子だったけど、家庭環境が最悪で孤児院にいたんだよ。で、祖母に言われて彼の勉強を見ることになった。所謂家庭教師みたいなやつね。けどなんだかんだやってるうちに祖母が死んでしまったんだよ。で、教師の道は頓挫とんざして、今は祖母の代わりをしてる。』


『・・・大変だったんですね。』

『まあね、俺としては教師になってマユミ君とちゃんと向き合って、そんなことを考えてたから、いきなり足をすくわれた気分だったよ。』

マユミが俯くとタカヤはその顎を指で持ち上げた。

『ちゃんとこっち向いて。顔が見ていたい・・・本当に我慢ばっかりで・・・君にも会えない、きっと嘘をついたことになってる、そんな罪悪感がいっぱいだったよ。それでも君のことは色んな伝手で聞いていた。ちゃんと卒業して大学に行った事、モデルになった事、でもこの街に住んでるってのは微妙だった・・・。』

『微妙?』


『どっちみち会いにもいけない。・・・どんな顔して会えばいいのかわからなかったよ。それに君はもう忘れてしまってる、そんな気もしていたし。』

『・・・そんなことは。』

『うん。だから嬉しかった。あの日、カナエが本屋に行きたいと言って、あの子が君を見つけなければ会えなかった。でもあの子が君に告白するなんて考えもしなかったけどね。』

ああ、とマユミが苦笑するとタカヤはマユミを睨みつける。

『笑いごとじゃない。本当に油断もすきもない。』

『・・・でも先生、車の中でカナエ君はまだ未成年だって言ってましたよ。』

『そう、だから問題。マユミ君と年が近いのはカナエだ。あっちのが有利だからな。』

タカヤは胡坐あぐらをかくと、頬杖をついて溜息を吐く。

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