静かな部屋の中、ただタカヤがマユミを見つめている。
『有利なんですか?』
カチカチと部屋の片隅に置かれた振り子時計が、時を刻んでいる。
『有利だよ。どうあっても若さには勝てない・・・近ければ近いほどに話は合うし心理的には付き合いやすくなるものだ。』
タカヤはグラスを取ると炭酸水を飲み干した。
『俺は始めから不利なんだ。君と出会った時は逃げられて、二度目は生徒だった。三度目は君を泣かせた。』
『・・・先生、気にしてたんですか?』
『勿論、ずっと気にする。だって君のことなんだから。』
タカヤの言葉はまっすぐにマユミに届いた。
じんと胸に響いて涙が出そうになる。
どうしてだろうか?
マユミは両手でグラスを持つと口をつけた。
まだ冷たいそれは喉を冷やしていく。
『マユミ君は・・・素敵になったね。』
すっと頬に触れられてマユミは首を傾げる。
『そ・・・そうですか?』
指先が頬を撫でて耳元から顎先へと移動する。
唇に優しく触れるとタカヤが近づいた。
『・・・してもいい?』
『何を?』
顔が近づいて唇が触れる。
その瞬間、教室でのキスが蘇った。
あの時は何もわからずにただされるがままだったが今ならわかる。
マユミはタカヤの背に手をまわした。
唇が離れるたびにほんの少し言葉が漏れる。
『上手になった。』
『うん。』
柔らかい感触と暖かい息が漏れて、つい背中に回したシャツを強く掴んでしまう。
それに応じてキスも激しくなっていく。
『ま・・・。』
キスに溺れて一瞬を探す。
息継ぎをするように水面に上がってもまた水の中だ。
どぷんと浸かって遠くにある光を見つめている。
もがいてももがいても波は続いている。
肌蹴たシャツの下の鎖骨から首筋を上がって、強い眼差しを見る。
ずっと恋焦がれていたのはこの人だった。
置いていったくせに、何も言わなかったくせに、なのに今はこうして目の前にいる。
途切れたキスにマユミは畳の上で呟く。
『先生・・・もう置いていかない?』
『しないよ。』
『本当に?先生嘘つきじゃん。』
タカヤは笑うとマユミの首元に腕を回した。
『もうつかないよ。』
嘘は嫌だ、けれどこの人の嘘は許してしまう気がする。
『約束してくれる?』
頷いたタカヤはマユミを抱き上げると、シャツの隙間から手を滑らせた。
『約束。』