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第30話 叶えるとき

目が覚めた時、腕の中でカナエが眠っていた。

マユミは体を起こすと二人の服装を確認する。

昨日のままだ。

大きく息を吐くとまだ眠っているカナエの隣を抜けて風呂場へと向かった。

シャワーを浴びて着替えるとキッチンへ向かう。

流しには昨日カナエが食べた食器が片付けられていた。

髪をタオルで拭きながらお湯を沸かす。

コーヒーを用意しお湯を注いでいるとカナエがキッチンに入ってきた。


『マユ・・・おはよう。』

『おはよう、何か食べる?』

カナエは首を横に振る。

『じゃあコーヒーは?』

『貰う。』

まだ寝ぼけているのか目を擦ってあくびをした。

昨日も思ったけど本当に猫みたいだ。

リビングに戻り、二人でコーヒーを飲む。

マユミはスケジュールの確認をして時計を見た。

『マユ、今日は仕事あるの?』

ふうふうとマグを吹きながらカナエが言う。

『うん、もう少ししたら出るかな。カナエ君はどうする?一人で帰れる?』

『帰れるけど・・・マユ、一つお願いしてもいい?』

『なに?』

『マユがモデルしてるとこ見たい。』



スタジオの中は忙しなく人が動いている。

マユミはカメラの前に立って指示通りに動くと隅で見学しているカナエを見た。

静かに真面目に観察している。

カシャカシャ鳴るシャッター音に踊りながら、ジャケットを脱ぐ。

ちょうど椅子に座ったところでカメラマンが笑った。

『いいね。マユ君、あの子友達?なんか見たことある子だ。』

『ああ・・・そうですっけ。』

ふと視線をさっきカナエがいた場所に向けるもいない。

『あれ?』

カメラマンも振り返ると、ああと指差した。


『メイクルームじゃない?さっきサカザキさんと話してたよ。』

撮影が無事終了し、メイクルームへ向かう。

鏡の前にはサカザキとカナエがいた。

『お疲れ様。』

『お疲れ様です・・・ん?カナエ君?』

目の前のカナエは朝よりも髪が短かい。

ツンツンとしたアレンジにされて彼の雰囲気に合っている。

『似合うわよねえ、ちょっと切らせてもらっちゃった。』

サカザキはカナエの髪を整えて、カガミ越しにマユミに笑う。

カナエは照れくさそうにしていたがマユミの顔をじっと見ていた。

『どう?マユ・・・似合う?』


今朝はロングコートの猫だった。

今はショートヘアの猫だ。

『うん、似合う。格好いいね。』

『そうでしょ!』

サカザキの笑顔にカナエは目を丸くするとマユミを見る。

その顔はどこか困った顔で、サカザキのような人には会ったことがなかったんだろう。

『あんな長ったらしい前髪とか、顔綺麗なのにもったいないわよ。やだやだ。』

外から呼ばれてサカザキが退散すると、二人は顔を見合わせて笑った。

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