二階への階段には点々と服が落ちている。
廊下の先の部屋のドアは開きっぱなしで、もう長いこと小さな吐息とベットのきしむ音が響いている。
後ろから抱かれてカナエは枕に突っ伏すと短い息を吐く。大きな手が口をこじ開けて指先が舌に触れた。
『痛くない?』
優しい声に頷くも声が出せるだけで、言葉になるわけじゃない。
お前が悪い、と言いながら最後にはこうして固い畳の上じゃなく、ベットの上なのだからタカヤは優しい男なのだと思う。
無理矢理抱いたりはしない。
意地悪なことを言っても扱う手は優しい。
『カナエ・・・。』
耳元で吐息まじりに名前を呼ばれて胸が熱くなる。
・・・ああ、この人のこと好きだ。
なんでこんなに好きなんだろう。
タカヤと初めて会った頃のカナエは荒れていた。
愛されたくて愛したくて、誰でもいいから抱きしめて欲しくて、声をかけてきた金持ちのオヤジと寝た。
まだ子供で金もなくて丁度良かったと言えばそうかもしれない。
そのオヤジがパトロンになって、その紹介で次の奴がやってくる。
金にはなるけど、どこか心が磨り減ってた。
そんな時に孤児院の婆ちゃんが死んで、その孫とかいう男がやってきた。
教師だと言ったが、そんな雰囲気はなくて、格好良くて好きになりそうだったから遠ざけた。
散々意地悪を言って出掛けようとしたらタカヤに止められた。
むかついて『じゃあ愛してくれんの?』と喧嘩を売ったら彼は言った。
『抱かれたいなら抱いてやる。』って。
あの後のことは無茶苦茶だったと思う。
どうしてだか泣いてしまって、タカヤの胸にすがりついて。
金をくれるオヤジたちとは違う触り方で、セックスが痛いものじゃない、気持ち良いものだって教えてくれたのはこの人だ。
ごろんと仰向けにされてタカヤの顔が降ってくる。
優しいキスが触れるたびに胸の中が満たされていく。
『好きだよ、カナエ。』
多分、この言葉は真実。
でもこの人の好きなのはマユ。
自分のものにしたいけど、カナエもマユに会ってしまった。マユはカナエにとっても手に入れるべき存在だ。
あの人に愛されたい。
ようやく果てたタカヤの体がずっしりともたれかかると、カナエは彼の頭を撫でた。
『ごめん、大丈夫?』
長くなった時、いつもこうして体を労わる言葉をくれる。カナエは頷くと彼の耳たぶを噛む。
『あっ・・・カナエ。』
『本当にさ、先生優しすぎるよ。マユにもこんなことすんの?』
タカヤは体を起こすと隣に寝転んだ。
『・・・まさか・・・まだ出来ないよ。』
『へえ?オクテだったんだ。』
『そうじゃない・・・ただ、傷つけたくないだけだよ。マユミは俺とは違うから。』
『違うって?』
体を起こしてタカヤの胸に手を触れさせた。
まだ心臓がドキドキと鳴っている。
『嫉妬してる?』
優しい顔をしてタカヤはカナエの頬に触れる。
指先で唇に触れられてカナエはその指にキスを落とす。
『してないよ。だって俺、マユが好きだから。』
『宣戦布告だな。』