サクラガオカ高校、正門前。
卒業式の文字が飾られ、その隣を保護者、生徒たちが中へと進んでいく。
卒業生たちは教室でそれぞれの身支度を整えながら、最後になるかも知れない会話を楽しんでいる。
教室の隅に座ったカナエも同じだった。
目の前にはクラスメイトが輪を作っている。
『カナエ君、本当にイメチェンだよね。格好良いね。』
女子の一人が笑うと、輪の中にいた生徒達も頷く。
『本当に。』
『でも・・・なんで?頑なに切ってなかった感じなかった?』
『あったね。先生と揉めてたよね。あれって・・・なんだったの?』
さあ、とカナエは笑う。
男子生徒の中では随分と長かった髪にケチをつけた教師がいたが、カナエと職員室で揉めたときに騒ぎを聞きつけた生徒指導と教頭がその場を納めてくれた。
二人ともカナエの客だったが、そんなこと此処で言えるわけもない。
『ねえ!ねえ!』
教室に飛び込んできた女子生徒が真っ赤な顔をして言った。
『すごい格好良い人が来てるって!誰かの父兄だと思うんだけど、モデルのマユに似てるんだって!!』
『え!まじ!』
教室中が騒がしくなる。
カナエは目を閉じるとふうと息を吐いた。
・・・来てくれた。
実は昨日マユに電話をして、卒業式に父兄として来てくれないかと打診していた。
彼はいいよと軽く返事をしてくれたが、もしかしたら用事が入れば行けないとも話していたから、彼らの話が本当だとすると、マユは来てくれているらしい。
担任教師が生徒達を呼びにくると廊下に並び、式場へと向かう。
順番に入っていくとカナエは保護者席へ視線を向けた。
ざわつく保護者席の視線を集めているその先にマユはいた。
ダークカラーのスーツに身を包み、髪は後ろへ流して少しだけ前髪を下ろしている。
銀縁の眼鏡に手には可愛らしい花束が持たれていて、マユだけがまるで撮影しているように見えた。
マユはふと視線を上げてカナエを見つけると、微笑み軽く手を振る。
生徒たちはそれに舞い上がって声を上げるも、保護者席も盛り上がっていた。
式は無事に終了し、カナエはクラスメイトたちに別れを告げた後、急いで教室を出た。
中庭にあるベンチでマユは座っている。
彼から距離を置くようにして多くの視線が集まっていた。
カナエは彼らの目を振り切り、マユの前に立つ。
『来てくれたんだ。ありがとう。』
『うん、カナエ君、卒業おめでとうございます。』
すっと立ち上がりマユはベンチに置いていた花束を取るとカナエに差し出した。
『可愛い花束・・・マユが選んでくれたの?』
『うん、花屋でカナエ君に似合いそうな花を選んで作ってもらった。気に入った?』
花は赤、白、薄い水色。中にはメッセージカードで、卒業おめでとうの文字。
『うん。すごく。』
『なんか懐かしかった。卒業式・・・そういえば今日はタカヤ先生、見てないけど。』
カナエはベンチに座るとぽんと足を組む。
『言ってない。それに先生忙しいし・・・。あ、だからってマユにってわけじゃないよ?・・・俺、マユにお祝いして欲しくて・・・。』
隣に座ったマユの顔を見上げると、カナエは眉根を寄せた。
『本当に・・・代わりとかじゃ・・・ないよ?』
マユは頷くと優しく笑った。