『お邪魔します。』
『どうぞ。』
卒業式が終わった後、マユは食事に誘ってくれた。
外でと言うのかと思ったら、連れて来られたのはマユの部屋。
この間と変わらず整頓されて綺麗にしている。
カナエは荷物を部屋の隅に置くと、ジャケットを脱ぐマユを見た。
『もしかして・・・ご馳走作ってくれたり?』
『そのつもりだけど・・・ね。』
キッチンと部屋を往復する彼の手には簡単な料理がある。小さなケーキ、暖かいスープ、テーブルに揃うとカナエを呼んだ。
『・・・ありがと。』
お祝いというのはこんな感じなんだろうか・・・
あまりしてもらったことがないからよくわからない。
目の前のグラスに手をつけると席についたマユが微笑む。
『ごめんね、簡単なものしかできなくて。連絡貰ったのが急だったから、朝にできるものだけ作って・・・間にあってよかった。』
『・・・あ・・・。』
テーブルの上の料理はわざわざ作ってくれたのか・・・、それが分かってカナエは唇を噛んだ。
胸にじわっと温かさを感じる。
・・・嬉しい。
食事は一通り終わり、冷たい飲み物が欲しくなって冷蔵庫を開けた。
中には缶が幾つか入っている。
二つ取り出すと一つをマユに差し出した。
プルタブを開けて口をつけると、シュワシュワした液体が喉を通っていく。
ふと、見下ろすとマユが缶を前にじっと見つめていた。
『どしたの?』
『・・・うん、お酒か。』
マユに手渡したのは少し強めの酒。
といっても冷蔵庫の中にあるものの中で一番弱いやつ。
『あ、マユって酒弱かったっけ?』
ジュースの缶を見せながらカナエがマユの隣に座った。
『・・・そうでもないんだけどね。なんか、記憶飛んじゃうことがあって。』
『記憶が?』
『そう・・・前に付き合ってた女の子が、その後から・・・そのやたらと・・・。』
マユが顔を赤くして俯いた。
『ん?』
『僕は・・・覚えてないから・・・わかんないんだけどね。』
彼の言葉の意味を図りきれずに、カナエは首を傾げる。
どっちの意味?
いつもきちんとしてるマユがだらしなくなるとか?
それとも当時の彼女がたまらなくなるくらいに格好良くなっちゃうとか?
でも酔う・・・だから、寝ちゃう・・・が多いと思うけど。
『・・・まあ、あんまり気にしなくていいんじゃない?俺、ジュース飲んでるし、マユが寝ちゃったらそれはそれで。』
『・・・そう?』
『ほら、貸して。』
マユの手から缶を取り上げてプルタブを開ける。
彼は小さく頷くとそれをごくりと飲んだ。
『あ、やっぱり美味しい。ねえ、カナエ君。』
『ん?』
『カナエ君が成人したら、一緒に飲もうね。』
屈託なく笑うマユにカナエはドキリとしながらも、頷いた。