早朝、ベットで目を覚ましたタカヤはキッチンで水を飲み、玄関へと向かう。
靴がないことからカナエはまだ帰っていない。苛立ちながらカナエの部屋に行
く。まだ学生らしく窓辺に置かれた勉強机には教材が乗っている。
タカヤは目に付いたクリアファイルを手に取ると、中の紙を取り出した。
『ん?・・・ああ。』
学校からの卒業の便りだ。机のカレンダーを見てタカヤはうな垂れる。
そういえばそうだ・・・忙しくしていたから日程の確認をしていなかった。
『保護者失格だな・・・。』
片手で額を押さえて息を吐く。
けれど、じゃあ今何処に?もしかしてまた・・・。脳内に嫌な想像が浮かんで慌
ててかき消した。タカヤに会ってからはそんな頻繁ではなくなっている。
ベットの傍に貼られたポスターに目を向けた。マユだ。
このポスターは雑誌のページをカナエがわざわざ大きくしたものだ。ぐっと睨
みつけるマユミの瞳にタカヤは手を伸ばしかけて止めた。
カナエを心配しているのに、マユミに惹かれている。もうぐちゃぐちゃだ。
『・・・俺はどうしたいんだろう・・・。』
部屋を出て自室に戻る。ベットに座り煙草に火をつけた。
マユミを思っているのにカナエを抱いている。きっとカナエが誰かのものにな
りたいと願ってしまったら、タカヤは引き止めてしまうだろう。
初めて会った時から大切な存在なのだ。寂しそうな瞳、全身で愛して欲しいと
願っている姿、こんなに綺麗なのに、自身を傷つけようとする。
だからつなぎとめたくて傍に置いている。
どうしたらいい?どうしたら・・・いい?
タカヤは頭を抱えてうな垂れた。
『・・・どうしたの?』
不意に声が聞こえてタカヤは顔をあげた。開いたドアの先にはカナエが立って
いる。学生服のままで片手には花束を抱えている。
『カナエ・・・。』
『あ、ごめん・・・。心配したよね?ただいま。』
『おかえり。』
タカヤはそう言うと笑ってはみせたが、情けなくて俯いた。両手が震えている
。そんなタカヤに気付いたカナエは部屋の外に荷物を置くと、中に入りタカヤ
の前に跪き、手を握った。
『先生?どうしたの?』
心配そうにタカヤの顔を覗きこむカナエの目は揺れている。
『・・・。』
言葉に出来ずにカナエの手を握った。
『・・・怖いんだ。』
『どうして?』
『お前がいなくなる気がして。』
『・・・ここにいるよ。』そう言って優しく微笑むカナエ。
ぐっと腕を掴んで抱き寄せた。
『・・・先生?』
しがみつくように背中を抱き寄せて腕の中で閉じ込める。
『・・・カナエ、ここにいてくれ。』
耳元でカナエの泣き出しそうな声がした。
どうしてもっと俺はうまく出来ないんだろう?
『ここにいて。』
懇願に近い言葉にカナエは瞼を伏せる。
答えられない言葉なのは分かっている、きっとタカヤから離れていくんだろう
。けれど言わずにいられない。
『ここにいて欲しい。カナエ。』
カナエは体を離すとタカヤの顔を見つめた。
そして一言呟くとキスをした。