車の中でハンドルに突っ伏して、タカヤは口元を抑えた。路肩に止まったままで、カナエの様子を見守っていたが、まさかデートの相手がマユミだなんて。
嬉しそうに走ってゆくカナエの背中に嫉妬で気が狂いそうだったのに、マユミの姿を捉えてからは彼に目を奪われていた。
ビルの前で二人は何か楽しそうに話してる。遠目で表情までは見えないが、カナエの様子からも話が弾んでいるようだ。
ぐっと拳を握るとハンドルを軽く叩いた。
どんなつもりでカナエと会っているのか・・・マユミはカナエが好きなのか?
頻繁に携帯を触っていたのもマユミと連絡を取っていたからか。
行き場のない感情に胸元の煙草を取り出すと火をつけた。
『・・・マユミ君。』
あの日以来会えてない。会いたくないわけじゃない、会いたいに決まってる。
今すぐにでもカナエから引き剥がして、マユミを攫ってしまいたい気分だ。
あの笑顔を自分に向けさせたい、声を聞きたい。その感情を抑えるのに必死だ。
二人が歩き出すのが見えて、タカヤはそれを見て瞼を閉じた。
マユミは手を繋いでいる。しかしカナエの笑顔が見えて傷ついている自分がいる。
・・・俺は誰に嫉妬してる?俺は誰が好きなんだ?カナエか?マユミか?
煙草を持つ指が震えている。
答えのでない問答を繰り返しているタカヤの胸で携帯が着信した。気持ちを落ち着かせて電話に出る。
『はい。タカヤ。』
スピーカーから聞こえてくる声は、仕事先の人間だ。タカヤは頭を切り替えるために煙草を吸うと、それを灰皿でもみ消した。
仕事の内容を確認して手帳にそれを落とす。
『はい・・・今から向かいます。』
電話を切って大きく息を吐くとエンジンをかけた。ゆっくりと車を動かして流れに沿うとスピードを上げていく。
・・・もし俺が事故ったら、マユミは心配してくれるか?カナエは心配してくれるんだろうか?
シートにもたれこんで瞬きを繰り返す。
信号の点滅にブレーキをゆっくりと踏み込むと、少し窓を開けた。大きく息を吐いて鞄から眼鏡を取り出すとそれをかけた。クリアになる景色の中で、自分の存在を確かめながら、信号が変わるのを待ってまたアクセルを踏み込んだ。