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第43話 熱

部屋の中ってこんなに静かだったっけ・・・。


マユミは目の前にいるタカヤに溺れている。頬に触れるたびにその暖かさが指

先から心臓まで到達して、今もう全部終わっていい、なんて気にもなっている

まだ先は長いはずなのに、気持ちばかりが逸っている。


『・・・マユミ君。』

耳元で声がしてマユミの体がぴくりと動いた。


『・・・はい。』

『俺、用意してないけど・・・マユミ君・・・あるの?』


困った顔のキスが落ちてきて、ふと、用意の意味を考える。アレはあるけ

ど・・・ああ。


『ごめんなさい。何も・・・。』

そうか、と肩にかかる息に笑い声が混じる。タカヤは体を起こすと息を吐いた


『・・・また・・・お預けだ。ごめんね。』


名残惜しくて手を伸ばすも頭ではとりあえず理解は出来た。が、欲望には忠実

な自分もいてマユミは前かがみになる。


『・・・はい。』

さっきから触れたくて、触れられたくて仕方がない。


冷静にと考えても目の前のタカヤの話す唇が見えるたびに、どうしようもない

感情が下から這い上がってくる。


タカヤの指が頬に触れた。

『・・・覚えてる?』


親指が唇に触れて、歯に当たると舌先に触れた。


『あの日もこんなだった。』

あの日?マユミはただ瞳で答える。それにタカヤの目が笑う。


『初めてこんな風に抱き合った時・・・覚えてる?』


口内を侵されてマユミはただ頷く。

『あの日、俺が言ったこと・・・覚えてる?』


ゆっくりと指が引き抜かれて吐息が漏れた。


『先生・・・。』

タカヤはマユミの目を捉えたまま離さない。


『・・・先生じゃないよ?』


するっと足元に彼の手が触れて、マユミは背筋を伸ばした。頭の中が爆発しそ

うになっている。


恥ずかしくて、して欲しくて、たまらない。

先生じゃない、その言葉の意味は多分。


マユミは初めて会った時を思い出す。あの時は先生じゃなかった。ただのサー

ファーで格好良くて、優しくて。


『マユミ。』


心臓がどくんと鳴った。


『タカヤさん。』

声にしてみたら嬉しさが弾けた。でもそれ以上に彼の顔が微笑む。


『うん。ご褒美が欲しい?』


彼の手がぎゅっと握られて、指先で遊ばれる。


『・・・はい。』

『おねだりしてごらん?』


喉がからからで頭が熱い。視界が滲んで小さく頷いた。


『だめ、ちゃんと。』


片手で彼から顔を隠してマユミは声を絞り出す。

小さな声だったけど静かな部屋ではよく聞こえた。


『もう一回。』


タカヤの息が近づいて、マユミは観念したように息を吐く。


『・・・して欲しい。』


堪えきれない涙が頬を伝った時、柔らかな感触に全身が総毛立つ。かすかな水

音と熱に犯されながら、マユミは自分の手の甲を噛んだ。

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