第三者side
それから数日が経ったある日。
「いらっしゃいませ」
「久しぶり、莉乃ちゃん」
「お久しぶりです。伊達さん」
「もう大丈夫なの?」
「はい。京子さんも手伝ってくれていますし、それに友達がいるので」
莉乃はそう言って柔らかく微笑む。
「そっか!それならよかった!じゃ、コーヒーとカステラをもらおうかな」
「私はカフェオレを」
「承りました。少々お待ちください」
莉乃はそう言って踵を返した。
「なんだよ穂乃果」
「残念だったね?」
「何が」
「心の支えになってあげられなくて」
「冗談はよせ。相手は高校生だぞ?」
「好きじゃなかったの?」
「恋愛的な好きはないよ。それに、莉乃ちゃんには別に居るだろうしね」
「へぇ?伊達も気づいてたんだ」
「鈍感なつもりはないからね。でも、あの感じじゃまだ自覚してなさそうだけど」
「だよね〜……」
2人は莉乃に聞こえないくらい小さな声で会話していた。
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「ねぇ、莉乃ちゃん」
「なんでしょうか」
カステラを切り分けていた京子は隣でカフェオレを淹れている莉乃に話しかけた。
「来週の土曜日、ここでパーティーしてもいいかしら?」
「パーティー?急ですね」
「だって来週は颯斗の誕生日よ?いっぱい祝ってあげなきゃ!」
「そうなんですか?」
「えっ!?もしかして知らなかったの?」
「ええ。特に聞いていませんね」
「あの子ったら……」
京子はブツブツと呟く。
「やはり、誕生日プレゼントは用意すべきですかね?何がいいんでしょうか……私、こういうのには疎くて」
「愛があればいいのよ♬」
「漠然としすぎじゃないですか?」
莉乃は京子の言葉に苦笑した。
「そうよ!莉乃ちゃん、思い立ったが吉日!後は私がやるからプレゼント選んできたら?」
「ですが……」
「ここからの時間、お客さんの数もそんなに増えないし、私1人で大丈夫よ!ほら!行ってらっしゃい!」
「そこまで言うならお任せします」
莉乃はエプロンを外し、ショルダーバックを持ってバイクで出かけた。
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莉乃side
「とりあえずでここに来てみましたが……」
私はバイクを走らせ、大型ショッピングモールに1人で来ていた。
「きっと何かあるはずです」
私はバイクを駐輪場に停めて、中へと入っていった。
「ひ、広いですね……」
水着を買いに来た場所よりも遥かに大きい場所に困惑していた。
私は案内掲示板を見て、頭を悩ませていた。
「颯斗君はどういうのが好みなんでしょうか……」
『愛があればいいのよ♬』
京子さんの言葉が脳裏を過ぎる。
いやいや……愛があればいいとは言っても不要なものを貰って喜んでもらえるものなのでしょうか……
“う〜ん”と頭を悩ませていると。
「七瀬さん?」
「え?」
振り返るとそこには久我さんがいた。
「久我さん!」
「どうしたの?こんなところで会うなんて珍しいこともあるものだね」
久我さんはにこやかにそう言ってくる。
「実はですね……颯斗君の誕生日プレゼントを選ぼうと思って今日は来たんですよ」
「颯斗の?」
「はい。それで颯斗君はどういったものを好むのかがいまいちわからなくて……」
「苦戦していると?」
久我さんの言葉に頷く。
「ははは!」
「な、何で笑うんですか」
「いやはや、何とも七瀬さんらしい悩みだと思ってね」
「私らしい……?」
「ああ。とても七瀬さんらしい。そういう堅く考えているところとか」
「か、堅いですかね……?」
「ま、そういうところも七瀬さんらしくていいと思うよ」
久我さんはそう言ってサムズアップする。
「ありがとうございます……?」
「でも、アイツなら七瀬さんがくれるものならなんでも喜ぶと思うけどなぁ?」
「そうでしょうか……友達の誕生日を祝うのも初めてでわからなくて……」
「ま、1番大事なのは“気持ち”だよ。“祝いたい”、“喜んで欲しい”…そんな気持ちが嬉しいんだよ」
「なるほど……」
私は久我さんの言葉にうんうんと頷く。
私は少し堅く考えすぎていたのかもしれない。
「私、頑張ってみます」
「おう。頑張れよ」
久我さんは私の肩をポンと叩いてそう言った。
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久我さんと別れた私は1人、ショッピングモールの中を彷徨っていた。
「結局何がいいんでしょうか……」
久我さんからプレゼントがどういったものかと教えてもらったはいいが、それ以外の要素が皆無である。
私としては気持ちもしっかりと込めつつ、出来れば普段使いできるようなものがいいと思っているのだが、なかなかそういうものには出会えない。
タオルでもいいかと思ったが、颯斗君のことですし、あまり使ってくれなさそうだと思ってしまう。
「ん〜……」
そんなことを考えていると、ふとある物が目に入った。
「これは……!」
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第三者side
颯斗の誕生日会当日。
「「「誕生日おめでと〜〜!!」」」
喫茶キトゥンは貸切である。
「はいこれ!誕プレね!」
「俺からはこれだ」
「私からも」
「私はこれだよ〜!」
公人達は颯斗に誕生日プレゼントを渡す。
靴やらコップやら万年筆やらかなり豪華なものだ。
「(これかなり高い万年筆だぞ……?流石は警視総監の娘といったところか……)」
みのりから貰った万年筆を興味深そうに見ていた颯斗に莉乃が声を掛ける。
「お誕生日、おめでとうございます」
みんなよりも一足遅く、普段と変わらないペースで告げる。
「これ、プレゼントです」
莉乃は綺麗に包まれた箱を差し出す。
颯斗は少し驚いた顔をする。
「ありがとな、莉乃」
すぐに笑顔で答えた。
「開けてもいいか?」
「もちろんです」
颯斗はゆっくりと包装を台無しにしないよう丁寧に開ける。
「マジかよ……」
颯斗の表情がかなり引き攣っていた。
「な、七瀬さん?なんでそれを……?」
「ちょうど見つけたんですよ。ショッピングモールで」
『これは……』
莉乃の視界に入ったのは名前を刻めるマグカップであった。
颯斗が開けた箱の中には白を基調とし、青色のラインが入り、側面には颯斗のイニシャルである“H.H.”が刻まれたマグカップが入っていた。
「すっごくいいでしょう?」
「……これ、もう一個あるんじゃないか?」
「すごいですね。その通りなんですよ」
莉乃は奥に言って青いラインがピンクのものになっているマグカップを持ってくる。
もちろん側面には莉乃のイニシャルである“R.N.”が刻まれている。
「店員さんに男性への誕生日プレゼントだと言ったら2個入りをお勧めされまして……2個あっても困るかなと思い、勝手ながらもう片方は私の名前を刻んでもらって私の物にしてしましました」
「マ、マジか……」
「もしかして2つ欲しかったですか?」
「えっ!?いや、別にそんなことないぞ!?」
颯斗は少し焦ったように言う。
そんな2人を周囲の生暖かく見守っていた。
1人を除いて。
「(ズルい!!ペアマグカップなんてズルい!!私も莉乃っちとお揃いしたいっ!!)」
瑞稀は心の中でそう叫んだ。
「(や、やはり勝手に自分の物にしたのはマズかったでしょうか……後でどうお詫びすれば……)」
莉乃は自責し。
「(ぺ、ぺぺ、ペアマグカップ……!?俺たち別に恋人じゃないのに!?……落ち着け、俺。莉乃のことだ。どうせわからないまま買ったに決まっている。これで意図的なのであれば、もうそういうことだ。うん。……でも、やっぱ嬉しいよぉ!!考えてみろ!好きな子から偶然とはいえ、ペアの物を貰ったんだぞ!?嬉しくないわけがない!!あ゛〜っ゛!最高か!?)」
颯斗は平静を保ちつつも内心は爆発していた。
そんな時だった。
莉乃の携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
『莉乃ちゃん、遅れてすまない』
「いえ、まだまだ盛り上がっているところなので大丈夫ですよ」
電話の相手は誠である。
誠は忙しく、すぐには来られないと言っていた。
だが、必ず来るとも言っており、それを待っていた時に莉乃に電話が来たのである。
「どうかしたんですか?」
『オミナスが現れた』
「場所はどこですか?」
『庵原ショッピングモールだ』
「わかりました。すぐに向かいます」
そう言って電話を切った。
「どうかしたのか?」
「氷室刑事から連絡がありました。庵原ショッピングモールにオミナスが現れました」
「行くぞ!」
「はい」
莉乃は颯斗をバイクの後ろに乗せ、現場へと向かった。
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現着すれば、ショッピングモールからは人が逃げ出しており、砂埃が舞っていた。
「随分な暴れようだ」
「颯斗君、手加減は無しで行きましょう」
「ああ!」
2人はバイクから降りてカードをスキャンする。
『ブラックホール!』
『フェニックス!』
『オーロラ!』
『Tレックス!』
「「オムニバスチェンジ!」」
2人はチェンジャーの外側を回転させた。
『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!』
『北極の暴君!オーロラレックス!』
2人はショッピングモールの中へと飛び込んでいった。
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「ウオオオオッ!!」
ショッピングモールに入れば、巨大なオミナスがドラミングしていた。
「ゴリラオミナスか!」
「どうやらそのようですね」
「せっかくの誕生日パーティー…邪魔しないでもらおうか!」
するとゴリラオミナスが2人に気付き、襲いかかってくる。
「来るぞ!」
「はい」
莉乃はブラックホールを作り、それを介してゴリラオミナスの背後に移動する。
「はあああっ!!」
颯斗が右手を突き出せば、オーロラの壁によって、ゴリラオミナスは弾かれる。
「はああああっ!!」
ゴリラオミナスが後退すれば、背後にいた莉乃が炎を纏った蹴りでゴリラオミナスを上空に蹴り飛ばす。
「颯斗君、決めましょう」
「ああ!」
2人はチェンジャーを回転させる。
『ブラックフェニックス!』
『オーロラレックス!』
莉乃は空へと飛び立ち、ゴリラオミナスの上に移動する。
『『フィニッシュ!』』
「「はあああああっ!」」
莉乃はフェニックスの形をした炎を纏い、突進し、地上では颯斗がTレックスのオーラを纏ったパンツを放つ。
2人の攻撃に挟まれたゴリラオミナスは爆散した。
「なかなかやるなぁ」
そんな様子をメガネをかけた1人の男が見ていた。
「まぁ、お前達の相手はまた今度だ」
そう言って男が姿を消した。
「颯斗君、早く帰ってパーティーの続きをしましょう」
「そうだな!」
2人は喫茶キトゥンへと戻った。
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「どうだった?」
「なかなか強そうだったぞ?ゲイル」
男はゲイルと対面していた。
「それは何よりだ。ヴィテレ」
ヴィテレと呼ばれた男が姿を変える。
それはシャチのような姿だった。
「これで全員集合だな」
ゲイルの言葉にリットとダークエイドヴァルキリーも現れる。
「今日が我々“パンデモニウム”の夜明けだ」
To be continue……