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第21話 カラオケ大勝負


第三者side

冬季休暇も終わり、学校も3学期が始まった。

莉乃達は学年集会のため、体育館に来ていた。


「さみぃ〜!なんで上履きだめなんだよ……」


男子の1人が文句を言う。


「お前が忘れたのが悪い」


そんな文句に颯斗がピシャリと言う。


「それはそうだけど……」

「ほら、学年集会が始まるわよ!何ボサッとしてんの!」


美香は颯斗の背中を思いっきり叩く。


「いってぇ!おい!お前なぁ!?」


颯斗は美香に一言文句を言おうとするが、すでに美香の姿はなかった。


「はぁ〜……」


颯斗は肩を落とし、素直に整列して座った。


「え〜、今日から2年生の3学期ということでね。皆さん、来年は受験です。謂わば、ここからが3年生のスタート、3年0学期と言えるでしょう」

「「「(うわ、自称進かよ)」」」


生徒のほとんどがそう思った。


─────────────────────────────────────

学年集会が終わり、教室に戻った。


「3年0学期とか、自称進学校がよく言う謳い文句じゃねぇかよ」


颯斗は机にだらんと倒れながら言う。


「どこかしこも言うとは限らないけどね……」


公人は苦笑しながら言う。


「自称進学校、ですか?」


莉乃は首を傾げてそう言う。


「ええっと…“教員達が自分たちの学校を進学校って言ってるけど、その実、それに値しない”って感じかな」

「なるほど……」

「うちの場合はどちらかと言うと自称進っぽい進学校なんだけどね?」

「え?」

「この学校、去年は国公立なら東大やら京大やらに、私立なら早稲田とか慶應とかに行く人が学年の半分くらいはいたんだ。まぁ、残りの半分もMARCHくらいの人が多かったかな」

「すごいですね」


莉乃は感心したように声を上げる。


「そういえば莉乃はどこに進学するか決めてるのか?」

「いえ……ですが、行くとすれば国公立でしょうか」

「そうなのか?」

「ええ。両親もおばさんも死んで、おじさんは敵になって私1人ですから、私立に行けるほどお金があるわけじゃないので」

「悪い…無神経なことを言った」

「気にしないでください。事実ですから」


莉乃はオムニバスチェンジャーにそっと触れてそう呟いた。

3人の中で重い空気が流れる。

そんな空気を打破するかのように瑞稀が話しかける。


「莉乃っち!」

「瑞稀ちゃん?なんでしょうか?」

「今日の放課後暇?」

「お店の手伝いがあります」

「……会長に押し付ければ」

「俺!?」

「だって、莉乃っち初詣とか会長の誕生日パーティーとか以外じゃ全然遊んでくれないもん!」

「それはお店が忙しいからで……」

「そもそもお前が莉乃にキトゥンの公式Twitter作らせたからだろ」


お店が忙しくなった理由の確信を突く一言に瑞稀は目を見開く。


「それとこれとは話が別ですぅ!それにその公式Twitterを運営してるのは莉乃っちですぅ!」

「その言い方だと莉乃が悪くなるぞ」

「なぁ!?」


逃げ道を塞がれ、瑞稀はムッとした表情を浮かべる。


「ねぇ、キトゥンの公式Twitter何してるの?」


公人が笑いを堪えた表情で言う。


「え?」


2人は喫茶キトゥンの公式Twitterへと飛ぶ。


「り、莉乃っち?」

「なにこれ」


そこにはブレブレの自撮り写真が載っていた。

そこに添えられた文は“友達に自撮りするといいと教えてもらったので自撮りしました。難しかったです”。


「何って瑞稀ちゃんに自撮り写真を載せるといいと言われたので載せただけですけど」

「お前…すげぇな……」

「万バズしてるし……」

「8万いいねって……」

「リプ欄すごいことになってるぞ」

「ええっとなになに?……“ブレてるけど可愛い”、“この子、SNS慣れしてないの最高”、“公式がふざけ倒してるの草”、“この子、真面目にやってるんですよ”……」


そのほかにも莉乃を褒めちぎるリプが多くあった。


「Twitterとは思えないほど平和なリプ欄だ」

「え?いつもこんな感じじゃないんですか?」


莉乃のキョトンとした感じに3人は他のツイートも漁ってみる。


「“友達に質問コーナーをしてみるのもいいかもねと言われたので質問コーナーをします”……“質問です!おすすめのメニューはなんですか?”、“値段はどれくらい?”、“駐車場の広さは?”……マ、マトモすぎる!!」

「これホントにTwitter!?」

「莉乃っち…すごい……」


3人は感心していたが莉乃はなんのことかさっぱりであった。


─────────────────────────────────────


始業式が終わり、莉乃は家に戻ってきていた。


「ねぇ、莉乃ちゃん?」

「はい。なんでしょうか?」


京子はエプロンを着けている莉乃の声をかけた。


「友達と遊ばなくていいの?」

「今の時間帯は1番忙しいですから」

「……じゃあ、颯斗に変わってもらいましょう!」

「えっ」


コーヒーを飲んでいた颯斗が苦い顔をする。


「ほら!莉乃ちゃんは遊んできなさい!」

「で、ですが……」


京子にエプロンを脱がされ、押し出されていく。

そんな莉乃の両腕を美香と瑞稀ががっしりと掴んだ。


「ちょっ、待ってください!私が店長ですよ!?」

「莉乃っちに選択権はありませ〜ん!」

「せ、せめて鞄を……」

「今日くらい奢るわよ」

「ちょっ、ちょっと!?」


莉乃はそのまま引きずられて行った。


「行っちゃったね」

「はぁ〜……仕方ねぇな」


颯斗は残っていたコーヒーを飲み干し、エプロンを着けた。


「やるからには徹底的にやってやる!」

「さすが我が息子!」


袖を捲る颯斗に京子は軽く拍手をしながらそう言った。


─────────────────────────────────────


莉乃が2人に引き摺られて来たのは。


「カラオケ、ですか……」

「そう!一緒に来てみたかったんだよね〜!」


そう言って莉乃は2人に連れられて中へと入って行った。

そんな様子を見ていたのはヴィテレだった。


「さぁ、ゲームの始まりだ」


そう言ってニヤリと笑っていた。


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「中はこんな感じなんですね……」


莉乃は案内された部屋をぐるりと見回してそう言った。


「莉乃はカラオケも初めて?」

「はい。来たことはないですね」

「やった!莉乃っちの初めてをもらっちゃった!」

「瑞稀、言い方」

「ごめんごめん!」


すると、ガチャッという音がした。


「ん?」


莉乃はその音に気付き、部屋の外を確認しようとすると。


「開かない……!?」

「莉乃?どうしたの?」

「扉が開かないのですが。見た感じ鍵は無さそうですけど」

「そんなはずは……」


美香もドアを開けようと試みるが、開かない。


「閉じ込められた……?」


瑞稀が呟くと。


『お見事、正解だ』


テレビの画面が急に切り替わり、怪人態のヴィテレが映し出される。


「何者ですか!」

『俺の名はヴィテレ。ゲイルの仲間さ』

「ということは幹部ですか……!」

『これまた正解だ。今お前達はそのカラオケルームに閉じ込められている。言うなれば、その部屋が怪人、カラオケオミナスってことだ』

「だったら破壊するまでです」


『リアクター!』

『ナイト!』


「オムニバスチェンジ」


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』


「はあああああっ!!」


莉乃はオムニバスブレードを振りかざす。

しかし、弾かれる。


「弾かれた…!?」

『そこから出るためにはある条件を満たす必要がある』

「条件?」

『ああ。その条件は……』

「条件は……?」

『カラオケで100点を取ることだ!』

「「「はぁ?」」」


3人の息が揃った。


『ということで検討を祈る』


そう言って画面は通常状態に戻った。


「もう意味わかんない……」

「何がしたいんでしょうか……」

「ま、100点出せば出られるんでしょ?任せて!」


瑞稀はそう言って立ち上がり、曲を入れた。


─────────────────────────────────────


歌い終わり、点数が表示される。


『84点』


「微妙ね」

「微妙ですね」

「ぬあんでよおお!!」


するとどこからか、ブッブーという音が聞こえて来て。


「いったぁ!?」


瑞稀の頭の上にタライが落ちて来た。


「ちょっ、何するの!?」


瑞稀が抗議すると、またヴィテレの声が聞こえて。


『言い忘れていたが、達成出来なければ罰ゲームがあるぞ』

「聞いてないっ!!」

「美香ちゃん、喉乾きましたね」

「そうね。飲み物は頼めるのかしら」

「呑気にメニュー表見ないで!?」

『飲み物は飲み放題だ』

「そうなんですね」

「何ナチュラルに会話してんの!?」

『食べ物は別途料金がかかるから気をつけてくれ』

「わかったわ」

「もうわけわかんない……」


ツッコミ疲れた瑞稀は力無く、座った。


「なんですか、これ!?」


莉乃が驚いた声を上げる。


「今度は何!?」

「飲み物の種類が……喉に優しいものしかないじゃないですか……!!」


そこには蜂蜜レモン系の飲み物や、紅茶、ココアなど喉に優しい飲み物がズラッと並んでいた。


「なんでそこ配慮されてるの!?」


瑞稀は頭を抱えた。


─────────────────────────────────────


『88点』


「いたあっ!?」


『87点』


「いたっ!」


美香も莉乃も挑戦するが、なかなか思うようにいかず、タライを喰らっていた。


「次、何にしようかしら……」

「迷いますね……」


美香と莉乃は真剣な表情でデンモクを見ている。


「(え?これ私がおかしいの?なんでこの2人めちゃくちゃ馴染んでるの?意味がわからなさすぎるんだけど……電波はないから連絡しようにも出来ないし……)」

「次はこれにします」

「じゃあ私はこれにするわ」


2人は再び曲を入れる。


「では、参ります」


莉乃はマイクを握りしめてそう言った。


「(何してんだろ……)」


瑞稀はボケーッとしながらレモネードを飲んだ。


「瑞稀?どうかしたの?」

「いや、楽しそうだなって」

「そうね。莉乃がこんなの楽しそうなのは初めて見たわ」


美香はそう言って莉乃の方に視線を向ける。

莉乃は一生懸命に楽しそうに歌っていた。


「ここ最近、色んなことがあったからね……莉乃にとっては辛いこともたくさん」

「いい息抜きになったかな?」

「そうね。なってると思うわ」

「よかった。……いや、そうじゃなくて!」

「え?」

「なんで2人ともナチュラルに楽しんでんの!?普通にピンチだよ!?」

「そうね」


美香はそう言ってココアを飲む。


「でも、焦ったところで何も出来ないでしょう?」

「そうだけどさぁ……」


『90点』


「いたっ!?」


2人が会話している間に莉乃は歌い終えたが結果は100点には及ばずだった。


「またダメでした……」


莉乃は自分の頭をさすりながらそう呟く。


「次は私ね」


美香はそう言ってマイクを持って立ち上がった。


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『92点』


「いたあっ!?」

「惜しいですね……」

「はぁ……仕方ない!私もやるぞ〜!!」


瑞稀はそう言って曲を入れる。


「私の十八番!行くよ〜!」


瑞稀はそう言って歌い始めた。


「おぉ〜!」

「十八番なだけあって上手ですね……」

「そうね!」


そうして歌い終わった。


「どうだ!?」


『100点!CONGRATULATIONS!』


「っしゃあ!!」

「やったわね!」

「すごいです!瑞稀ちゃん!」


するろガチャッという音がしてドアが開いた。


「私はオミナスの方を追います」


莉乃の言葉に2人が頷き、彼女は駆け出した。


─────────────────────────────────────


カラオケを出て脇にある公園に行けば、カラオケオミナスとヴィテレがいた。


「おっ?来たか」

「ヴィテレ、ですね?」

「ああ、そうさ。ゲームは楽しんでくれたかな?」

「ええ。楽しかったですよ?でも、ここで終わらせます」


莉乃はそう言ってカードをスキャンする。


『ジュエル!』

『ハンマーヘッドシャーク!』


「オムニバスチェンジ」


『絢爛の狩人!ジュエルシャーク!』


ジュエルシャークフォームに変身した莉乃はカラオケオミナスに殴りかかった。


「カラッ!?」

「はあああっ!!」


ハンマーで殴りつけられたカラオケオミナスは地面にめり込む。


「ふっ!」


更に回し蹴りでカラオケオミナスは蹴り飛ばされる。


「お次はこれです!」


『蒼空の糸使い!ジェットスパイダー!』


莉乃は高速で移動しながら、糸でカラオケオミナスを拘束していく。


「カラッ!?オケッ……!!」


カラオケオミナスは動きを縛られる。


『3つ首の土人形!クレイベロス!』


莉乃は更にチェンジャーを回転させる。


『クレイベロス!フィニッシュ!』


「はあああっ!!」


莉乃はケルベロス三頭を放つ。

ケルベロスはカラオケオミナスを攻撃する。


「これで決めます」


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』


莉乃はオムニバスブレードにカードをスキャンして、柄頭を引く。


『リアクター!』

『リアクター!ブースター!』


「はああああっ!!」


莉乃は横一線に剣を振り、斬撃を放つ。


「カラッ…オケ……!!」


カラオケオミナスは爆散した。


「ふぅ……」


莉乃は息を吐き、ヴィテレを見る。


「おおっと、お前の相手はまた今度だ。じゃあな」


そう言ってヴィテレは姿を消した。


─────────────────────────────────────


「ただいま帰りました」


その後、2人と合流し、少し歌った後、莉乃は帰宅した。


「おかえりなさい!莉乃ちゃん!」


京子はニコッと笑って出迎えた。


「楽しかった?」

「はい。とても楽しかったです」

「そっか!よかった!」

「つ、疲れた〜……」

「颯斗君もお疲れ様です」


莉乃はそう言って颯斗の頭を撫でた。


「ちょっ!?」

「あらあら!」

「え?なんですか?」

「あんまりこういうことはしない方がいいぞ……!」

「ええ。颯斗君以外にはやりませんよ?」


ケロッとそんなことを言ってくる莉乃に颯斗は頭を抱えるのであった。


           To be continue……



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