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第22話 父との思い出


第三者side


「ん〜!帰ってきた〜!」


空港でキャリーケースを携えた1人の女性が体を伸ばしながらそう言った。

その女性の手には写真があった。

写っているのは一組の夫婦と赤ん坊。


「ただいま、透馬」


─────────────────────────────────────


「次の授業は……」

「体育です」


体操服の入ったナップサックを手に取り、莉乃は答える。


「なんか、気合い入ってない?」

「当たり前です。何せ剣道ですよ?」

「あ、ああ……」

「鍛錬が出来ます」

「……そっか」

「七瀬さんは通常運転だなぁ」


公人は苦笑しながらそう言う。


─────────────────────────────────────


剣道場。


「さ、今日から剣道の授業だ!寒いと思うが、靴下を脱げよ〜!」


体育教師の言葉に全員が靴下を脱いで裸足になる。


「冷たっ!」

「さむ〜!」

「なんで裸足なの〜!」


女子たちは軽く足踏みしながら言う。


「うおおおっ!頑張るぞ〜!」

「剣道楽しみだったんだよな〜!」


それに対して男子たちはかなりの熱量を持っている。


「じゃあ、まずは剣道部主将!」

「はいっ!」


言われて主将が前に出る。


「防具を着けろ」

「わかりました」


主将はそう言って防具をつける。


「今から、軽いゲームをする!主将から一本を取れたら勝ち!取られたら負け!主将、寸止めしろよ?」

「当たり前です!」

「剣道の型に囚われる必要はない!好きなように打ち込んでやれ!」


先生がそう言うと順番に並び、ゲームが始まる。

主将は対峙する者全員を一瞬で制圧する。

そして、莉乃の順番がやってきた。


「次!」

「はい」


莉乃は前に出て竹刀を構える。

それは普段となんら変わりのない持ち方。

これまでの生徒は見様見真似で竹刀を両手で構えていたが、莉乃は片手で持っているのである。


「始め!」


その掛け声と同時に、主将が振りかぶる。

莉乃はそれに反応し、振り下された竹刀に自身の竹刀を合わせて受け止める。


「なっ!?」

「ふっ!」


そのまま、主将の竹刀を巻き上げ、弾く。


「はああっ!!」


そして、そのまま主将に2連撃を叩き込んだ。


「それまで!」

「ありがとうございました」


剣道場が静まりかえる。

そして、数刻後。


「「「うおおおおおおっ!!」」」


すごい盛り上がりを見せる。


「七瀬さん、強い!」

「片手持ちとかふざけてんのかと思ったけどすげぇじゃん!」


クラスメイトはそう言って莉乃を囲む。


「ありがとうございます」


莉乃は少し困惑したように言った。

そんな様子を颯斗は見ていた。


「いいのか、行かなくて」

「……ああ」


颯斗はゲームに負けていた。


「(俺ももっと強くならないと……大切な人を…莉乃を守れない)」


颯斗はギュッと拳を握った。


─────────────────────────────────────

学校が終わり、莉乃は喫茶店の手伝いをしていた。


「いらっしゃいませ」

「大きくなったね!莉乃ちゃん!」


来店したサングラスをかけ、キャリーケース携えた女性は莉乃を見るなりそう言った。


「どちら様でしょうか?」


莉乃はノータイムで聞き返した。

「覚えてないか〜!まぁ、莉乃ちゃんが2歳くらいの時にしか会ってないからしょうがないか〜!」

「(な、なんですかこの方は……)」


莉乃は彼女のテンションについていけそうになかった。


「改めて、私の名前は七瀬 春香!莉乃ちゃんのお父さんのお姉さんなのだよ!まぁ、莉乃ちゃんからしたら伯母かな!」

「お父さんの……」


莉乃の動きがピタリと止まった。


「それで、透馬と鈴ちゃんは?」


春香の問いに莉乃は目を伏せて。


「そっか…透馬は死んだんだ……」


莉乃の様子だけを見て春香はだいたいのことを察した。


「ん?」


春香は莉乃の手首を見る。


「どうかしましたか?」

「莉乃ちゃん……なったんだ…オムニバスに」

「はい」

「そっか……」

「………………………」

「………………………」


2人の間には気まずい空気が流れる。


「莉乃ちゃん、後は私に任せて!」

「……わかりました。春香さん、とりあえずうちに行きましょう」


莉乃の言葉に春香は頷いた。


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「どうぞ」


居間に移動し、莉乃は春香にお茶を出す。


「ありがと〜!」


春香はニカッと笑ってそう言う。


「なぜ、今ここに?」

「私、海外で働いてたんだよね〜」

「そうだったんですか」

「大変だったんだよ!?スマホぶっ壊れちゃったから連絡も取れなかったし……唯一の手掛かりはこれだったの」


そう言って春香が取り出したのは一通の手紙と写真であった。


「お父さんとお母さんと…私、ですか?」

「そ!」


そこに写っていたのは幼稚園くらいの莉乃であった。


「……最後の写真かもしれません」

「え?」

「お父さんとお母さんは私が小学校に上がる前に死んだんですよ」

「そう、だったんだ……」


春香は湯呑みを置いて。


「ごめんね。すぐに帰ってこなくて」

「いえ、春香さんが悪いわけじゃないですよ」

「私が能天気に海外で暮らしてたから……莉乃ちゃんが辛い時、莉乃ちゃんを助けられなかった……」


春香が涙を溢し、拳をギュッと握って言う。


「私はもう大丈夫ですよ」

「よし!私が一緒に住む!」

「え?」

「高校生の一人暮らしは危ないよ!それに…もう莉乃ちゃんを1人にしたくないから」

「春香さん……」

「じゃあそういうことで!」

「わかりました。これからよろしくお願いします」


莉乃と春香は共同生活を開始した。


─────────────────────────────────────


数時間後。


「ああ!焦げちゃった!」


バリーン!


「お皿が!」


ドテッ!


「うあっ!」

「…………………………」


料理を焦がし、お皿を落とし、躓いて転ぶ。

そんな様子を莉乃はジト目で見ていた。


「はぁ……」


莉乃はため息を吐いた。


「春香さん、どうやって生活してたんですか……」

「りょ、料理は久しぶりで……」

「わかりました。座っててください。私が作ります」


莉乃はエプロンをつけてそう言った。

それから、莉乃は慣れた手つきで料理を始める。


「ごめんねぇ……」

「気にしないでください」


そして数十分後、料理は完成した。


「どうぞ」

「これは……」

「“肉じゃが”です。……お母さんの」


春香は少し目を見開き、肉じゃがを口に運ぶ。


「……鈴ちゃんの味だ」


春香は涙を溢しながら言う。


「よかったです」

「(ああ…やっぱり、鈴ちゃんの娘なんだなぁ……)」


春香はそう思いながら肉じゃがを噛み締めた。


─────────────────────────────────────


それから数日後。


「おはようございます」

「ああ、おはよう!」


普段と変わらず颯斗と挨拶を交わす。


「ああ〜、今日はちょっと緊急の集会があるから、1時間目はちょっと短縮な〜!」


普段よりも少し早めにやってきた担任が言う。


「緊急の集会?」

「何かあったんでしょうか」


2人は顔を見合わせた。


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「今日から新しく先生として働く、七瀬 春香で〜す!」

「……………………………」


莉乃はジト目で春香を見ていた。


「おい、莉乃。七瀬って……」

「お父さんのお姉さんです」

「えっ」

「お父さんのお姉さんなんですよ。最近、こちらに帰ってきて一緒に暮らしているんです」

「そ、そうか……」


すると春香は莉乃を見つけ、手を振ってくる。


「公私は分けてくださいよ……」


莉乃は顔を引き攣らせながら、手を振り返した。


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「七瀬!あの人と知り合いか!?」

「苗字同じだし、お前に手を振ってたし!」

「すげぇ美人じゃん!」

「七瀬先生のこと教えてくれよ!」


集会が終わり、教室に戻ると莉乃は一瞬で男子生徒に囲まれ、質問責めにあっていた。


「えっとですね……」

「こらこら〜!男子達!莉乃っちが困ってるじゃん!」

「それに七瀬先生にもプライベートがあるんだし、七瀬さんは答えにくいと思うよ?」


すかさず公人と瑞稀が割って入る。


「おいおい!気分上がりすぎだろ?」


担任が呆れたように入ってくる。

それに続いて入ってきたのは春香だった。


「春香さん……」

「あ〜!莉乃ちゃん?ここは学校だから“七瀬先生”でしょ?」

「七瀬先生こそ、公私の区別がついていないですよ」

「七瀬先生だなんてそんな他人行儀な……」

「何ショック受けてるんですか。さっき自分で言ったんじゃないですか」


自由奔放な春香に莉乃はため息を吐く。


「ということで、彼女は今日から副担任としてこのクラスに入ってもらうことになった!」

「改めて、七瀬 春香で〜す!よろしくお願いしま〜す!」


春香はギャルピースをしてそう言った。


「これから大丈夫でしょうか……」


莉乃は不安そうにそう言った。

そんな時だった。

ドゴーンという轟音が響いたのは。


「……っ!」


莉乃は慌てて外を見る。


「莉乃」

「はい」


2人は教室から飛び出した。


「おい!」

「私が追います!」


春香はそう言って2人を追った。


─────────────────────────────────────


2人は走りながらカードをスキャンする。


『リアクター!』

『ナイト!』


『UFO!』

『マジシャン!』


「「オムニバスチェンジ!」」


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』

『未確認の手品師!UFOマジシャン!』


「来たか」


グラウンドに到着すれば、ダークエイドヴァルキリーが待ち構えていた。


「なんなの……!?」


春香は驚いたように言う。


「春香さんは下がってください。私が守ります」

「う、うん」


莉乃の言葉に春香は下がる。


「エイドヴァルキリー……ッ!!」


ダークエイドヴァルキリーは莉乃に飛びかかる。


「……っ!」


莉乃はブレードでダークオムニバスブレードを受け止める。


「なぜ、どんなに私を憎むんですか……っ!」

「お前が憎いからだ!!」


そう言ってダークエイドヴァルキリーは莉乃を蹴り飛ばす。


「きゃあああっ!」


莉乃は地面を転がる。


「莉乃!」


颯斗はダークエイドヴァルキリーに蹴りかかる。


「お前の相手はコイツらだ」


すると大量のオミナスが現れる。


「行け、ソルジャーオミナス」

「チッ!」


颯斗は舌打ちしながらも、ソルジャーオミナスと戦闘する。


「はああああっ!」


ダークエイドヴァルキリーはそのまま莉乃に斬りかかる。


『ジュエル!』

『ジュエル!ブースター!』


「はああっ!」


莉乃はジュエルカードの力で宝石のバリアを作り、攻撃を防ぐ。


『3つ首の土人形!クレイベロス!』


「ふっ!」


クレイベロスフォームに切り替え、ダークエイドヴァルキリーの腹部を殴り飛ばす。


「ぐっ……!」


『3つ首の暗黒土人形!ダーククレイベロス!』


『クレイベロス!フィニッシュ!』

『ダーククレイベロス!フィニッシュ!』


「「はああああっ!!」」


2人のケルベロスのエネルギー波が激突した。


─────────────────────────────────────


「おっ、と!なかなかやりやがる」


『ミラー!』

『コブラ!』

『反射の毒蛇!ミラーコブラ!』


「行くぜ!」


ミラーコブラフォームにチェンジした颯斗は、コブラでソルジャーオミナスを巻き付ける。


「はあああっ!」


そして生成した鏡で太陽光を反射し、オミナスを焼き尽くす。


「お次はこれだ」


『プラネット!』

『フォックス!』

『宇宙の化け狐!プラネットフォックス!』


「はぁ〜っ、はあああっ!」


惑星の球体を生成し、それらをソルジャーオミナスにぶつけて、爆散させる。

するとソルジャーオミナスは合体し、巨大化する。


「巨大化は負けフラグだぜ」


颯斗はそう言ってチェンジャーを回転させる。


『プラネットフォックス!フィニッシュ!』


「はああああっ!」


颯斗の蹴りにより、ソルジャーオミナスは爆散した。


─────────────────────────────────────


「「うあああっ!」」


互いのその余波で弾き飛ばされる。


「だったらこれです」


『ブラックホール!』

『フェニックス!』

『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!』


「それならこっちだって」


『ブラックホール!』

『フェニックス!』

『超暗黒の不死鳥!ダークブラックフェニックス!』


「あなたも持っているんですか……!!」

「私はお前と同じ力を持っているからだ!!」


2人は炎を纏い、殴り合う。


「お前を倒せば、ゲイル様がお喜びになる!!邪魔なんだよ!!」

「……っ!!」


莉乃に一瞬隙が生まれ、吹き飛ばされる。


「うあああっ!!」

「莉乃ちゃん!!」


春香は莉乃に駆け寄る。


「お前が居なければ誰もが幸せだった!!」

「私が……居なければ……」

「そんなことない!!」

「えっ?」

「そんなのはあなた達の詭弁よ!!莉乃ちゃんがいて…透馬や鈴ちゃん、私は幸せだよ!!それに莉乃ちゃんにはたくさんの友達がいる!!友達も莉乃ちゃんが居てくれて幸せなはずだよ!!」

「……ありがとうございます」


莉乃はそう言って立ち上がる。


「私はお父さんから貰ったこの力で、世界を救済します!!」


莉乃はチェンジャーを回す。


『ブラックフェニックス!フィニッシュ!』


助走をつけて、そのまま低空飛び蹴りを放つ。


『ダークブラックフェニックス!フィニッシュ!』


「はああああああっ!!」


それに対し、ダークエイドヴァルキリーはパンチを放つ。


「私は負けません!!はあああああっ!」

「ぐあああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは大きく吹き飛ばされた。


「はぁはぁ……」

「全く、無茶をしすぎだ」


ダークエイドヴァルキリーの隣にゲイルが現れてそう言う。


「ゲイル……!!」

「久しぶりだね。春香君」

「薫さん…裏切ったんですね。透馬も莉乃ちゃんも」

「裏切る?面白いことを言うな。俺は裏切ったつもりはない。お前達が勝手に信じただけだ」

「なるほど。あなたは身も心も本物の化け物だったんですね」

「褒め言葉として受け取っておこう」


そう言ってゲイルはダークエイドヴァルキリーを連れて姿を消した。


─────────────────────────────────────


夜。


「今日はありがとうございました」

「え?」

「私を励ましてくれて」

「気にすることないって!私は普通のことを言っただけだよ!」

「お父さんとお母さんは幸せだったんでしょうか」

「……覚えてないんだ」

「はい。思い出せたのはあの事件の日のことだけです。それでもほんのちょっとですけど」

「じゃあ、私が教えてあげるよ。莉乃ちゃんと透馬と鈴ちゃんのお話を」


春香は莉乃の手に触れてそう言った。


「お願いします」

「えっとね〜……まずは───」


─────────────────────────────────────


莉乃side


春香さんからお父さん達との思い出を聞いた。

お父さんはオムニバスの研究をしていて、私は研究所に行ったことがあること。

私が生まれた時、お父さんは泣いていたとお母さんから聞いたこと。

お泊まり保育でギャン泣きしたこと。

お父さんに肩車されて喜んでいたこと。

本当に小さな小さな思い出だった。

それでも、私にとっては大事な大事な思い出。

話を聞いて心がポカポカとした。

記憶としては覚えていなくても、体は覚えている。

お父さんのことを、お母さんのことを。


           To be continue……


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