第三者side
「いらっしゃいませ」
莉乃はそう言って客を出迎える。
「ご注文は?」
「ふむ…ミルクティーとパンケーキを頂けるかな?」
「はい。少々お待ちください」
莉乃は一礼してキッチンに向かった。
「……ここが喫茶キトゥン、か」
注文した客はフッと笑ってそう言った。
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「ありがとうございました」
莉乃はそう言って出ていく客に礼を言った。
そんな店を出ていく客とすれ違うようにみのりがやってくる。
みのりと客は目が合い、彼女は少し目を見開いた。
「みのりちゃん?今日はどうしたんです?」
「へ?あ、いや!ちょっとコーヒー飲みたいな〜って!」
みのりは少し誤魔化すようにそう言った。
「わかりました。好きなところに座ってください」
莉乃はそう言ってコーヒーを淹れ始める。
「(今の人は……)」
「何か悩みでもあるんですか?」
「え?」
「すごく難しい顔していたので」
「……別に大丈夫だよ!莉乃ちゃんが気にすることじゃないよ!」
「そうですか?それならいいんですけど……」
莉乃はお盆を手に少し首を傾げた。
それを見ながらみのりはコーヒーを口に運んだ。
「(莉乃ちゃん、かわゆす)」
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コーヒーを飲み終えたみのりはキトゥンを後にした。
「見つけた」
そう呟き、みのりは一台の車に近づく。
「お久しぶりですね。中本 浩成さん」
その言葉に窓がゆっくりと開く。
「律人の娘か」
「はい」
「君は何の目的で?」
「私が莉乃ちゃんと関わるのはあの子を守りたいからです」
「……律人から聞いていた通り、君は敵か」
「はい。敵です」
「なら、次からは容赦はしない」
「こちらも容赦はしません」
「出せ」
浩成がそう言うと、窓が閉まり、車は発進していった。
「莉乃ちゃんは私が守る…絶対に」
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数日後の休日。
「莉乃ちゃんとお出かけできるなんて最高だよ〜!」
「私達もいること忘れないで」
「わかってるって〜!」
「ホントかしら」
莉乃は他の女子メンツと共に買い物に来ていた。
「莉乃っちがこういう誘いに乗るの珍しいよね〜!」
「そうでしょうか?」
「そうだよ!たまにはあったけど、大抵“すみません、お店が……”って断られてたから」
「そうでしたね」
「春香先生と暮らし始めてちょっと余裕が出来たのかしら?」
「余裕、ですか……」
莉乃は春香との日々を思い出す。
『うわっ!』
『うぎゃあっ!』
『虫ぃ!!』
「……前より疲れますね」
「「「えぇ!?」」」
「春香さん、かなり不器用な人でして……すぐに転ぶし、お皿も割りますし、虫に絶叫して私に飛びついてきたりします」
「ごめん、私も虫苦手だから春香先生の気持ち超わかる!!」
瑞稀はうんうんと頷きながら言う。
「春香先生、学校と結構違うのね」
「え?ほぼ一緒じゃないですか」
「そんなことないよ!だって学校では全然転んだりしてないもん!」
「言われてみれば確かに」
「そういうのすっごくいいじゃん!」
「え?」
「だって、莉乃っちにしか見せないってことは莉乃っちのことすっごく信頼してるってことじゃん!」
「リラックス……」
「そうそう!だって、自分の弱いところって信頼出来る人の前じゃないと晒しにくいでしょ?」
「……確かに」
「今、会長の顔が浮かんだでしょ〜?」
「はい。颯斗君は私にとって最高のパートナーですから」
「はいはい、ごちそうさまごちそうさま」
「何も食べてませんけど?」
「こっちの話だから気にしないで?」
「瑞稀ちゃん、その割には顔が引き攣ってますけど大丈夫ですか?」
「全然大丈夫、大丈夫だよ〜!」
瑞稀は顔の端をピクピク動かしながらそう言った。
「それで、どこにいくんですか?」
「適当にぶらぶらね」
「決めてないんですか?」
「女子ってそういうものだよ?」
「そうなんですか。勉強になります」
莉乃はうんうんと頷いていた。
すると。
「「「きゃああああっ!!」」」
悲鳴が聞こえてきた。
「……っ!!」
「今のって……」
「私、行きます!」
そう言って莉乃は駆け出した。
「莉乃ちゃん!」
それを追うようにみのり達も駆け出した。
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「見つけましたよ!」
莉乃はオミナスを発見し、対峙した。
「何あれ?」
「カツラ……?」
遅れて到着した3人は困惑していた。
「面白いだろ?」
「そうですかね?」
「あれっ!?ウケ悪い!?」
ヴィテレは驚きながら言う。
「なんでもいいです。倒すだけですから」
「私も一緒に!」
みのりは莉乃の隣に立ってそう言う。
『リアクター!』
『ナイト!』
『アナザーリアクター!』
『アナザーナイト!』
「オムニバスチェンジ」
「アナザーチェンジ!」
『『灼熱の騎士!リアクターナイト!』』
『アナザー!』
「それがアナザーヴァルキリーか。可愛らしい顔が残念なことになってるじゃないか。律人の娘」
「うるさい!私はこれでいいの!!」
「まぁ、いい。いけ、カツラオミナス!」
「カッツラ〜!!」
カツラオミナスは髪を伸ばして莉乃達を捕らえようとする。
『ケルベロス!』
『ケルベロス!ブースター!』
「はあああっ!!」
ケルベロスカードをスキャンした莉乃はオミナスの髪を切断する。
『ジェット!』
『スパイダー!』
『蒼空の糸使い!ジェットスパイダー!』
「はあああっ!!」
ジェットスパイダーフォームになった莉乃は蜘蛛の糸でオミナスの髪を縛り上げる。
「三つ編みです」
「「「おぉ〜!」」」
ヴィテレを含むみのり達はパチパチと手を叩く。
「私も負けてられないな〜!」
『アナザージュエル!』
『アナザーハンマーヘッドシャーク!』
『絢爛の狩人!ジュエルシャーク!アナザー!』
「はあああああっ!!」
みのりは回転して勢いをつけ、ハンマーでカツラオミナスを殴り、地面に叩きつける。
「カツ…ッ!!」
「あちゃ〜……」
ヴィテレは額に手を当てて、そう声を漏らす。
「しっかりしろ!カツラオミナス!」
「カツ!!」
するとカツラオミナスは急に起き上がり、みのりを弾き飛ばす。
「みのりちゃん!」
莉乃はみのりを受け止める態勢に入る。
「カ〜ツカツカツカツカツカツカツ!!」
カツラオミナスは更に追撃をする。
「「きゃああああっ!!」」
「「莉乃(っち)!!」」
2人は吹き飛ばされ、強制変身解除する。
「お前、案外強いんだな?」
「カツ!!」
カツラオミナスは頷く。
「変身が……!普段ならこんな攻撃で解けないのに……」
「お前、律人の娘とぶつかっただろ」
「ソイツが使っているアナザーシステムはお前たちの使っているオムニバスシステムの力を抑えることが出来る。人で無くなったにも関わらず、それくらいしかメリットがないクソみたいなシステムだがな」
「今、なんて……?」
「人で無くなったってところか?」
「みのりちゃん、どういうことですか……?」
「知らなかったのか?アナザーシステムを使うためには人の身でありながら、人で無くなる必要があるんだよ」
「なんですかそれ……」
「安心して!」
「安心出来るわけないじゃないですか!!」
「落ち着いて!」
みのりに嗜められ、莉乃は落ち着きを取り戻す。
「人じゃなくなるって言っても、見た目が変わったり、五感がなくなったりするわけじゃない。ただ、人よりも回復力が少し強くなったり、筋力が少し上がったりするだけだから」
「そうなんですか?」
「そう!だから、人じゃないって言っても、私も莉乃ちゃんと変わらないよ!一緒に遊んだり、お泊まり会したり。ちゃんと出来るから!」
「良かった……」
莉乃は安堵した表情を浮かべる。
「カツラオミナス!やれ!」
「カツラ〜ッ!!」
カツラオミナスは攻撃を放った。
それを受け、ポンと音を立てて、煙が莉乃達5人を覆う。
「「「ケホッ!ケホッ!」」」
やがて煙が晴れると。
「な、なんですかこれ!?」
莉乃はアフロに、美香はちょんまげに、瑞稀はモヒカンに、みのりは逆モヒカンになっていた。
「は、恥ずかしいよぉ〜!」
みのりは半泣きになりながら絶叫する。
「莉乃!」
そこに颯斗が駆けつける。
「……え?」
颯斗は首を傾げた。
「何それ」
「み、見るなバカ!」
瑞稀はそう言ってカバンを投げつけ、颯斗の顔面にそれがヒットする。
「いってぇ!?」
「あのオミナスの攻撃の影響です」
「なるほどな」
莉乃はこの状況にも動揺せず、颯斗に情報を伝える。
「俺が決着を着ける!!」
そう言って颯斗がオミナスの方を意気揚々と見れば。
「あれ?」
そこには誰も居なかった。
「居ないな」
「居ませんね」
「逃げられたな」
「逃げられましたね」
「何やってんのバカ!!」
瑞稀は颯斗にドロップキックをかました。
「ぐえっ!」
颯斗は前に倒れる。
「どうしてくれるのかしら?」
「わ、悪い!」
「これじゃお嫁に行けない……」
美香達はしょぼくれてしまった。
「颯斗君」
「俺に任せろ。莉乃はアイツらのフォローを頼む」
「わかりました」
颯斗はオミナスを追った。
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「やっと見つけた!」
颯斗が追いつくと、カツラオミナスは街の人々の髪型を変えていた。
「これ以上、好き勝手にはさせない」
「エイドバスターか」
「だったらなんだ?」
「別に?お前“は”倒しても問題なさそうだ」
「なんだか知らないが、そう簡単には倒れないぞ?」
そう言って颯斗はカードをスキャンする。
『オーロラ!』
『Tレックス!』
「オムニバスチェンジ!」
『北極の暴君!オーロラレックス!』
「はあ〜…、はああっ!」
颯斗は手にエネルギーを貯めて、カツラオミナスに放つ。
するとカツラオミナスは凍りつく。
「なかなかやるなぁ?」
「これでもオムニバスなんでね」
颯斗はそう言ってヴィテレに殴りかかる。
ヴィテレは彼のパンチを受け止める。
「いいパンチだ」
「そりゃそうも!」
颯斗は態勢を変え、蹴りを入れる。
ヴィテレは数歩後退する。
「やるねぇ?」
「だろ?」
「ふっ!はああっ!」
「よっ、はあっ!」
2人は互角の戦いを繰り広げる。
「今日はこれくらいにしておこう。こっちも君を舐めすぎていたようだ」
そう言ってヴィテレは姿を消した。
「こっちも倒すか」
そう言って颯斗はチェンジャーを回転させた。
『オーロラレックス!フィニッシュ!』
「はああああっ!!」
Tレックスのオーラを纏いながら颯斗はオミナスを蹴り抜いた。
その攻撃を受け、オミナスは爆散した。
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オミナスを撃破した颯斗は喫茶キトゥンに来ていた。
「戻ったみたいだな!」
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
「それで、颯斗君に共有しておきたい情報が」
「?」
「みのりちゃんのことなんですけど」
莉乃はそう言って颯斗に先ほど得た情報を話した。
「なるほどな……」
「ごめんね。黙ってて」
「まぁ、黙ってたのは頂けないが許してやろうぞ!」
「ありがと!」
「それにしてもアナザーシステムが俺たちを無力化するために作られたものだったとはな……」
「お父さんの研究がこんな風に使われてるなんて……」
「アナザーシステムもダークオムニバスシステムもその全部の原典は……」
颯斗は莉乃のチェンジャーに目を向ける。
「私のチェンジャー……」
「でも、俺たちのやることは変わらない。ゲイル達をぶっ倒すだけだ」
「そうですね」
莉乃はチェンジャーをそっと触った。
To be continue……