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第24話 スカウト・ジャッジング


第三者side


数日後、莉乃は春香と一緒に買い物に出ていた。


「晩御飯、何にしましょうか」

「なんでもいいよ?」

「それが一番困るんですけど」

「じゃ〜…中華!」

「わかりました。じゃあ酢豚とか回鍋肉とかにしますね」

「いいね〜!」


2人がそんな会話をしていると、何やら人だかりが出来ていた。


「何かあったのかな?」

「私、ちょっと聞いてきます。オミナスだったすぐ行かないとなので」

「はいは〜い!」


春香は莉乃を見送った。

莉乃は1人人混みを掻き分けていくと。


「……撮影ですか」


たくさんのカメラなどの機材があり、監督も座っているのが見受けられる。


「オミナスではないんですね。安心しました」


そう言って踵を返そうとした莉乃に1人の男が声をかけた。


「あの!!」

「……?なんですか?」

「俳優業に興味ないかな?」

「ありません」


莉乃はそう言って背を向けて帰ろうとする。

しかし、男は食い下がり、莉乃の手首を掴む。


「離してください」

「ちょっと話だけでも……」

「聞きません。それに大体あなたはどなたですか?」

「え?」


莉乃の発言に野次馬達もポカンとなる。


「ぼ、僕を知らないなんてそんなバカな冗談はよしてよ!」


莉乃は首を傾げて。


「何を言っているんですか?私とあなたは今日が初対面のはずですよ?知らないのは当然じゃないですか」


莉乃は平然と言ってのける。


「ぼ、僕は国民的俳優で、国宝級イケメンの新藤 遼太郎だ!」

「そうですか。では、私はこれで」


莉乃はそう告げてその場を去ろうとする。


「いやいや!ちょっと待って!?」

「はぁ〜……いい加減鬱陶しいのですが。晩御飯の買い物をしないといけないので帰らせてください」


莉乃は疲れた様子でそう言った。


「君は素晴らしいんだ!!俳優の道を一緒に歩もうじゃないか!!」

「いやです」


莉乃はそう言って人混みの中に紛れていく。


「え!?あ、いや、ちょっと!?」


遼太郎も追おうとするが、ファンに押し返されてしまう。


「ああもう!」


遼太郎は悔しそうに地面を蹴った。


─────────────────────────────────────

「お待たせしました」

「遅かったね?やっぱりオミナスだった?」

「違いました。何かの撮影をしていてそれの野次馬だったみたいです」

「へ〜…誰がいたの?」

「新藤 遼太郎という男性俳優がいらっしゃいました」

「し、しし、新藤 遼太郎!?」


春香は足を止めて驚く。


「はい。私は初めて彼のことを知りましたが、遅くなったのは彼のせいでしたし、あまり好意的な印象は持てませんでしたね」

「何かあったの?」


莉乃は呆れたように語り始めた。


「彼が急に“俳優業に興味はないのか”と私に尋ねてきたので“興味ありません”と返していたんですが、全く聞く耳を持ってくれず…本当にしつこかったです」

「……それ、スカウトってこと?」

「スカウト……そうかもしてませんね」

「あんまり嬉しくなさそうだね?」

「当たり前じゃないですか。私にはやるべきことがあります。それに、そもそもそういったことには興味がないので」

「そっか……」

「さぁ、早く晩ご飯の材料を買って帰りましょう」


2人は足早にスーパーへと向かった。


─────────────────────────────────────


「「「スカウト〜!?」」」


翌日、キトゥンへと来ていた颯斗たちに昨日のこと話せば、驚いたように彼らはそう言った。


「そ、それでどうしたの!?」

「断ったに決まってるじゃないですか」

「えぇ〜!残念〜!」


瑞稀が残念そうに言う。


「確かに、テレビで演技してる莉乃…ちょっと見たかったかも」


美香もそれに同調する。


「もう美香ちゃんまで……」


と、店の電話が鳴る。


「すみません」


莉乃は颯斗達に一言断りを入れ、電話を取る。


「はい、もしもし。こちらは喫茶キトゥンでございます」

『あ、XYテレビで放送している“気になるお店ジャーナル”という番組のものなんですけれども』

「なんでしょうか?」

『実は隠れた名店特集ということで、そちらのお店を紹介させていただけないかなと思い、お電話させていただいた次第で〜……』

「取材ってことですか?」

『はい。テレビ撮影の』

「別に構いませんが……」

『本当ですか!?ありがとうございます!それではどの日が都合がよろしいでしょうか?』

「では、今週の土曜日はどうですかね」

『はい、こちらの都合もつきますのでその日でよろしいでしょうか?』

「はい」

『では、13時からお邪魔させていただきますね』

「承知しました」

『それでは、失礼致します』


そこで電話が終わり、莉乃が振り返ると。


「うわっ!びっくりさせないでくださいよ……」


颯斗達がジッと見ていた。


「何の電話だったの?」

「取材って聞こえたけど?」

「はい。今週の土曜日にテレビの取材が決まりましたよ」

「え?」

「「「ええええええええっ!!」」」

「きょ、興味なかったんじゃ……」

「興味がないのは俳優業とかの話ですよ?お店の宣伝が出来るんです。断らないわけがないでしょう?」


莉乃は軽く微笑んでそう言った。


─────────────────────────────────────


そして迎えた土曜日。


「………………………」


莉乃はジトーッという視線を向けていた。

その視線の先には。


「どうも!」

「何故あなたがいるんですか。新藤 遼太郎さん」

「何故って、僕がこの企画のレポーターだからさ!」


スカしたように新藤は言う。


「はぁ……」


莉乃はため息を吐き、頭を抱えた。

そんな彼女に反して瑞稀達はキャーキャーと黄色い声援をあげている。


「あの男の何がいいんだよ」

「ジェラシーだねぇ?」

「うるせえ」


颯斗はフンと顔を逸らして公人に言う。


「でも、そんなにやきもちを焼かなくても七瀬さんの方は彼のことは苦手みたいだよ?」

「え?」


颯斗が莉乃の方を見れば、彼女が少し不機嫌そうに進藤を見ていた。


「急にニヤニヤし始めるじゃん」

「してない!」

「どーだか」


公人は軽くニヤけながらそう言った。


「それではそろそろ撮影を始めさせていただきますね!」

「はい。わかりました」


そうして撮影が始まった。


─────────────────────────────────────


「はい!始まりました!“気になるお店ジャーナル”!レポーターの新藤 遼太郎です!本日お邪魔するのは入り組んだ場所にある隠れた名店!“喫茶キトゥン”さんで〜す!では、早速お邪魔していきましょう!」


そう言って新藤はドアを開く。

ドアベルがカランカランと軽やかな音を立てる。


「いらっしゃいませ」


莉乃が普段と変わらないお店の制服姿で出迎える。


「おぉ〜!可愛い店員さんだね〜!」


そう言って新藤が莉乃に触れようとすると彼女はヒラリとそれを避ける。


「こちらの席にどうぞ?」

「あ、ありがとう」


新藤は苦笑しながらも席に着く。


「ご注文はなんでしょうか?」

「えっと、このオリジナルブレンドとパンケーキを」

「承りました。少々お待ちください」


莉乃はそう言ってキッチンへと入っていき、テキパキと作業をこなしていく。

その間、新藤はトークで時間を繋いでいた。


「(……わざわざ俺から提案したけど、大丈夫か?俺、結構コーヒーとかこだわるタイプなんだけど……JKが淹れるコーヒー…あまり期待はしないでおこう)」


そんなことを思いながらトークをする新藤を横目に。


「(多分、私舐められてますよね…なら、全力で最高のものを提供して度肝を抜くとしましょう)」


莉乃はそう考え、普段よりも高い集中力を見せ、調理をしていた。


「お待たせいたしました。ご注文のお品でございます」

「は?」


莉乃がお盆に乗せて運んできたパンケーキとコーヒーに新藤は思わず素っ頓狂な声を出す。


「(え?え?マジで言ってんの?コーヒーめちゃくちゃ香りいいし、パンケーキもめっちゃ見た目おしゃれで映えそうだし……い、いやいや!こういうのは見た目だけってパターンが多いし?)」

「どうかしましたか?」

「い、いや?なんでもない」


新藤は同様しつつも、レポートに集中する。


「すごく美味しそうです!では、早速…いただきます!」


新藤はパンケーキにメープルシロップをかけ、ナイフとフォークで丁寧に切り分ける。


「(は?今、切ったか?全然感覚なかったんだが?)」


パンケーキの訳のわからないフワフワさに困惑しながらも、それを口に運ぶ。


「!?!?!?」


新藤は目を見開いた。

それを見て莉乃は少し表情を緩める。


「え?は?うまっ…え?なにこれ?美味すぎない?」


新藤は完全に素の状態で言う。


「コーヒーも合わせてどうぞ?」

「あ、ああ……」


新藤はコーヒーも飲む。


「!?!?!?」


彼の驚いた表情を見て、莉乃は口角が少し上がる。


「え?なにこれ?パンケーキとの相性抜群すぎない?甘いパンケーキの後に口の中に広がるちょうどいい苦味……すげぇ美味いんだけど」


新藤は脳がバグっていた。


「(正直完全に舐めてた…まさかこのレベルのものを出されるとは……)」


彼はすぐに立て直す。


「これは合わせておいくらなんでしょうか?」

「セットで600円です」

「???????」

「このクオリティーで600円?」

「はい」

「マジかよ……」


新藤はボソッと呟いた。


「で、ではお店のPRをお願いします!」


新藤に話題を振られ、莉乃は回っているカメラに向かって。


「喫茶キトゥンでは、注文された甘味に最も合うようなコーヒーなどのドリンクを提供しております。また、甘味には季節限定のものも用意しておりますのでぜひ来てください」

「ということで、“気になるお店ジャーナル”でした〜!また来週!じゃあね〜!」

「はい、オッケーです!」


オッケーの合図が出て、収録は終わった。


「お疲れ様!」


そう言って新藤が触れようとしたのを再び華麗に躱し、撮影を見学していたメンバーの元へと駆け寄る。


「どうでしたか?おかしなところはなかったですかね?」

「完璧だよ!」

「ああ。最高だった!」


颯斗達に褒められ、莉乃は嬉しくなる。


「もしかして、彼女のお母さんですか?」


新藤はそう言って春香に問う。


「母じゃないけど、保護者ではあるよ?」

「では、あなたからも言ってくれませんか?芸能界に行った方がいいって!是非売り出したいんです!」

「なんで?」

「え?」

「それを決めるのは莉乃ちゃん自身よ。他人が口を出すことじゃない。莉乃ちゃんが嫌だと言うのならそれに従うし、私たちに何かを強制するなんてことは出来ない」

「そんな……」


新藤がガックリと肩を落としたそんな時だった。


「お邪魔するよ?」

「……っ!!」


みのりはその声の主を見て、目を見開く。


「どちら様ですか?」


莉乃はそう言って声を掛ける。


「知らないの?この方は情報界のドンと呼ばれている方で……」


新藤が説明していると、男は莉乃に近寄る。


「初めまして。私は中本 浩成だ」

「七瀬 莉乃です」

「ああ。知っているとも」


中本は莉乃の耳元で。


「エイドヴァルキリー殿?」

「……っ!!まさか、あなた……!!」

「気になるなら着いてくるといい」


そう言って中本はキトゥンを出ていった。

莉乃もそれを追った。


「どうしたんだろ……」


春香の言葉にものとも後を追った。


「おい!ちょっと待てよ!」


颯斗もそれに続いた。


─────────────────────────────────────


「「莉乃(ちゃん)!」」


2人は莉乃達の追いつく。


「2人とも来たんですか?」

「心配だったから!」

「ありがとうございます。……それであなた、ゲイルの仲間ですね?」

「なに!?」

「私のことをエイドヴァルキリーと呼びました。普段戦う時は名乗っていないのでその呼び方をするのはゲイルの仲間でしかありえない」

「その通り!!さすがの頭のキレ具合だ」


そう言って中本は怪人態であるヴィテレに姿を変える。

それを見て、3人はカードを構える。


「おっと、今日はお前達とやる気はないぜ?」

「なんだと?」

「それに、律人の娘は俺のことを知ってたしな?なんでそれを言わなかったんだ?」

「私は……」


みのりは言葉に詰まる。


「そんなことはどうでもいいです。みのりちゃんは私のお友達です」

「そうか…つまらないな」


そう言ってヴィテレは姿を消した。


─────────────────────────────────────


「今日はありがとう」


キトゥンに戻れば、撤収準備は終わっていた。


「こちらこそありがとうございました」

「それで……」

「嫌です」

「まだ何も……」

「嫌です」

「さ、さいですか……」


新藤は少ししょぼんとした。


「俺は絶対諦めないから!!」

「何度言われてもお断りです」

「はいはい、行きますよ」

「諦めないからああああっ!!」


マネージャーに引っ張られながら新藤は去っていった。


「全く…騒がしい人でしたね」


莉乃の表情は少し柔らかかった。


           To be continue……


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