莉乃side
「春香さん、ご飯できましたよ」
「わかった〜!」
春香さんはそう返事をして、開いていたパソコンを閉じた。
「おぉ〜!今日はぶり大根か〜!」
「はい。今はブリが旬なので」
「美味しそ〜!」
春香さんは嬉々として食卓に着く。
「「いただきます(!)」」
私たちは両手を合わせてそう言った。
「ん〜!美味しいよ!また腕を上げたんじゃない?」
「そうですかね?自分ではそういうのはわからないので」
褒められるのは少しむず痒い。
すると春香さんが箸を進めながら聞いてきた。
「ねぇ、バレンタインどうするの?」
「バレンタインデー、ですか?」
その言葉に私は思わず箸を止める。
「……どうするとは?」
「誰かにあげないのってこと」
春香さんは大根を口に運びながら言う。
バレンタイン。
どういう行事なのかは知っている。
外国では少し雰囲気が異なるが、日本においては女子が男子や友達などにチョコレートなどのお菓子を渡すもの。
「……颯斗君とか?」
「なんでそこで颯斗君が出てくるんですか」
「好きなんじゃないの?恋愛的な意味で」
「恋愛的な好き……」
どうなんだろう。
確かに颯斗君のことは好きだ。
この好きが恋愛の好きなのかどうかは分からない。
だが、チョコレートを渡す相手には十二分になり得る。
「チョコレート、買ってきます」
「気をつけてね〜!」
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第三者side
莉乃が出かけた後、春香は食器を水につけていた。
「洗うのは……やめとこうかな」
以前に一度、やろうとして大惨事になったことがあり、莉乃はから止められていた。
「息抜きにテレビでも……」
そう言ってテレビをつけると、ちょうどこの前撮影していた番組だった。
「莉乃ちゃんかわいいね〜!テレビ映りバッチリじゃん!これでお客さん増えるといいけど……それより変な輩が湧かないか心配だな〜……」
春香はそうポツリと呟いた。
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颯斗side
「はああああ〜………」
「おい颯斗、リビングでクソデカため息を吐くのはやめろ」
コーヒーを飲みながら父さんが言ってくる。
「まぁまぁ、いいじゃないか!明日はバレンタインデーなんだし」
「それが原因でため息を吐いてんだよバカ兄貴。毎年俺がどれだけ苦労してるか知ってんのか?」
「うん、それはお兄ちゃんの心にグサグサ来るからやめて?」
俺は兄さんに悪態を吐く。
この憂鬱な気分の原因はもちろんバレンタインデーである。
ここ数年ではっきりわかった。
俺はモテる。
おっと、俺は決してナルシストではないし、浮気性でもない。
ただ、高校に入ってからというもの、バレンタインデーは落ち着けることがなかった。
休み時間とか昼休みは男女問わずチョコを渡しに来るし、放課後はチョコを渡すと同時に告白までされるし。
チョコは甘いが、俺にとっては苦いイベントなのである。
「そんなにため息つかなくてもいいじゃない!」
食器を洗い終わった母さんがそう言う。
「え?」
「だって、莉乃ちゃんから貰えるんじゃないの?」
「……っ!!」
完全に失念していた。
このバレンタインで、莉乃からチョコを貰える可能性を!!
「うおおおおおっ!!」
明日が憂鬱じゃなくなったぞ!!
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すいません。
やっぱり憂鬱です。
「「「会長〜!」」」
「た、助けてくれ〜〜!!」
俺は今、大量の生徒に追われている。
多分全校生徒の半分以上である。
流石に教室に入りきらないし、そんなにもらってもしんどいので断っているのだがそれでも諦めきれない輩が俺を追っていた。
「お〜!モテモテだな〜!」
「見てないで助けてくれよおおお!!」
他人事の公人に叫んで頼む。
「じゃ、頑張ってくれ!」
「公人おおおおおおおっ!!」
公人は俺を見捨てた。
許すまじ。
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莉乃side
「莉乃っち!これチョコね!」
「ありがとうございます」
瑞稀ちゃんは私の耳元で囁いてくる。
「もちろん本命だよ?」
「そ、そうですか」
本命と言われても困るんですけど……
内心困惑していると。
「莉乃。私からもあげるわ」
美香ちゃんも私にくれた。
「ありがとうございます。可愛いですね。犬ですか?」
「そう!チョコといえば犬でしょ?」
「「え?」」
「え?」
チョコといえば犬なんでしょうか?
犬はチョコ食べられなかった気がするのですが。
「それで───」
瑞稀ちゃんが言葉を続けようとしたタイミングで。
「「「七瀬さん!!」」」
数人の生徒が私を囲んだ。
「え?」
「「「チョコ、受け取ってください!」」」
「わざわざ私のためにありがとうございます」
私はしっかりと全て受け取った。
「……大丈夫?」
「だ、だいじょばない……ガクッ」
数人の生徒に踏み台にされた瑞稀ちゃんはそう言って気絶した。
「み、瑞稀〜!!」
「白々しいなおい」
「あ、起きた」
美香ちゃんの棒読みに耐えられなかったのか、瑞稀ちゃんは起き上がってツッコミを入れた。
私、今何見せられてるんでしょうか。
と、窓の外で何かが見えた気がした。
「ん?」
見えたのは茶色い液体。
「……チョコ?」
少し気になりますね……
「瑞稀ちゃん、美香ちゃん。少し行ってきます」
私はそう言って教室を飛び出した。
「え!?ちょっ、莉乃っち!?」
「どこ行くのよ!」
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第三者side
莉乃が現場に到着すると。
「なんですかこれ……」
街の人々がチョコになっていた。
「チョコオオッ!!」
「チョコレートオミナスというわけですか」
莉乃はカードを取り出す。
「チョコレートにはこれで行きます」
『リアクター!』
『ナイト!』
「オムニバスチェンジ」
『灼熱の騎士!リアクターナイト!』
莉乃はオムニバスブレードを構えた。
「はあああああっ!!」
莉乃はチョコレートオミナスに斬りかかった。
「チョコオオッ!!」
オミナスは莉乃に気付き、チョコの砲弾を放つ。
「……っ!」
莉乃は空中で体を捻り、それを回避する。
そして、回避しながらブレードにカードをスキャンして、柄頭を引く。
『リアクター!』
『リアクター!ブースター!』
「はあああああっ!!」
炎を纏った斬撃でチョコレートオミナスを一刀両断した。
「「チョコオオッ!!」」
「え!?」
2つになったオミナスは倒れることなく、別個体となった。
そして、そのまま莉乃にチョコを浴びせた。
「きゃあああっ!!」
チョコはすぐさま固まり、莉乃もチョコになった。
「「チョコチョコチョコ!!」」
オミナスは楽しそうに笑った。
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「つ、疲れた……」
なんとか全員に諦めてもらうことに成功した颯斗は疲れた表情で教室に戻ってきた。
「お疲れ!で?お前何個貰ったんだよ?」
「数えたくもないね」
そう言って紙袋いっぱいのチョコを机の上に置いた。
置いた衝撃で少し紙袋から落ちるほどにチョコを貰っていた。
「あれ?莉乃は?」
「俺が教室に来た時はいなかったよ?」
「莉乃っちならなんか“ちょっと行ってくる”って言ってどっかに出かけたよ?」
「莉乃が?これから授業があるってのにか?」
「珍しいこともあるんだな」
「(いや、違う。真面目な莉乃はそんなことはしない。出ていく理由があるとすれば……)」
颯斗は椅子から立ち上がる。
「どうしたの?」
「オミナスが出たのかもしれない」
「「「ええ!?」」」
「場所は?」
「え?あ、あっちの方だと思うけど……」
「わかった!」
颯斗は教室を飛び出していった。
「全く……自由なやつだよ」
「でも、本当にオミナスなら止めないとだし」
「それもそうだね」
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UFOマジシャンフォームに変身した颯斗は出現させたUFOに乗り、現場に到着した。
「マジかよ……」
そこには地区1つが建物も人も問わずチョコになっていた。
「莉乃!!」
颯斗はその中にチョコ化した莉乃を見つける。
「マズいな……まだ寒いとはいえ、日差しに当てられたら溶けちまう。解ける前に早く倒さないと!」
「「チョコオオッ!!」」
すると、そんな雄叫びと共にチョコレートオミナスが颯斗に襲いかかった。
「……っ!!」
颯斗は転がってそれを間一髪で避ける。
「2体もいるのかよ」
立ち上がりながら敵を確認する。
「ん?」
颯斗はオミナスを見て気づいた。
「まさか、莉乃に斬られて分裂したのか?」
オミナスの腰あたりにある銀紙のデザインが2等分されていることに気付いた颯斗がそう呟く。
「下手に攻撃すると分離する可能性があるのか……」
互いに睨み合う状況が続いていた。
そんな時。
「お困りだね!」
「え?」
「アナザーチェンジ!」
『灼熱の騎士!リアクターナイト!アナザー!』
ビルの上からみのりが颯斗の前に降りてきた。
「アナザーヴァルキリー、参上!」
「石川!学校にも来ないで何やってたんだよ!」
「ごめんごめん!莉乃ちゃんがピンチだって感じたから!」
「急にキモいこと言うじゃん」
「それよりも!早くなんとかしないと世界がチョコになっちゃうよ!」
「わかってるよ!」
軽く言い合った後、オミナスを見る。
「チョコは熱に弱いよ」
「そんなこと言われなくてもわかってる!」
『ミラー!』
『コブラ!』
「オムニバスチェンジ!」
『反射の毒蛇!ミラーコブラ!』
「ふっ!!」
颯斗は両手を上に掲げ、巨大な鏡を生成する。
「はあああああああっ!!」
それをオミナスに向け、太陽光を反射させた。
「チョコオオッ!!!」
光はオミナスの体を貫いた。
「こっちもいくよ!」
『アナザーリアクターナイト!フィニッシュ!』
「はあああああっ!!」
みのりの炎を纏った蹴りでオミナスを貫く。
「チョコオオッ!!」
だが、チョコオミナスは倒れない。
「なんて奴だ……!!」
「めんどくさすぎるね……!!」
「こうなったら2体同時にぶっ倒すぞ!」
「わかった!」
『北極の暴君!オーロラレックス!』
『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!アナザー!』
2人はフォームチェンジし、さらにチェンジャーを回転させる。
『オーロラレックス!』
『アナザーブラックフェニックス!』
『『フィニッシュ!』』
「「はあああああああっ!!」」
2人の蹴りは同時にオミナスを貫いた。
「「チョコオオッ!!!」」
オミナスは爆散し、チョコ化は解除された。
「ふぅ……」
「颯斗君?」
「莉乃!よかった!元に戻って」
「ありがとうございます」
「学校に戻るぞ!」
「はい」
「石川も……」
颯斗が振り返るとみのりは居なかった。
「なんなんだ?アイツ」
2人は学校へと戻った。
変身解除したみのりはビルの上に立っていた。
「ごめんね。もう、学校には行けないかも」
そう言うみのりの手は異形のものと人間のものとを行き来していた。
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放課後。
「随分と人気者ですね」
チョコを持ってキトゥンに来ていた颯斗は莉乃に言われる。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「そんなにあったら私からのチョコレートは必要ないですかね」
「いる!!!絶対にいる!!!」
「えぇ……?」
莉乃は困惑したような表情を浮かべる。
「まぁ、もともと渡すために作りましたしね。はい、どうぞ。これ、手作りです」
莉乃はそう言って颯斗にチョコレートを手渡した。
「っしゃあああああああっ!!」
颯斗は叫んで喜んだ。
「喜んで貰えて何よりです」
To be continue……