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第26話 奪われたカード


第三者side


「突然ですが、今日は2月の22日です」

「そうですね」

「何の日でしょう」

「忍者の日です」

「違います」

「違いません」

「正解は猫の日です」

「そうですか」

「なので猫コスを着てください」

「ちょっと何を言っているかわかりません」


昼下がりの喫茶キトゥンで莉乃と瑞稀がそんな会話をしていた。


「なんで猫のコスチュームを着る必要があるんですか?別にハロウィンじゃないでしょう?」

「そうだけどそうじゃない!!」

「えぇ……」

「私が見たい!!」

「ただの自己満足じゃないですか」

「そうですけど何か!?」

「開き直らないでください」


他の客が注文した商品をテキパキと作りながら、莉乃はジト目で瑞稀を見る。


「それにあの番組のおかげで少しづつですが売り上げが上がって、お客さんも増えてるんです」

「うんうん!それは何より!だから猫コスを……」

「邪魔だと言っているんですよ?」

「おうふ…莉乃っち辛辣になったねぇ」

「瑞稀ちゃんはこれくらいした方がいいとみなさんが言っていたので」

「その“皆さん”について詳しく」

「はぁ〜……」


莉乃が呆れてため息を吐いていると。


「莉乃ちゃん、ここは私と春香さんでなんとかするから瑞稀ちゃんを部屋にあげてあげたら?」

「……そうします」


莉乃はそう言って瑞稀を部屋に招き入れた。


「莉乃ちゃん、ずいぶん素直に言うことを聞くようになったなぁ」

「え?」

「この前までは私が“遊びに行ってもいいよ”って言っても“ですが……”って食い下がってきたの」

「そうなんだ……」

「多分、春香さんのおかげね」

「え?私?」

「そう。春香さんが来て色々気持ちが楽になって肩の荷が降りたんでしょうね」

「肩の荷が……」

「あの子、ずっと辛い目に遭ってばかりだから」

「そうね……」


2人は困り顔で階段を上がる莉乃を見て、ふふっと微笑んだ。


─────────────────────────────────────

「ゲイル様、お呼びでしょうか?」


ゲイルの前にはダークエイドヴァルキリーが跪いていた。


「お前にこれを与えよう」


ゲイルは2枚のカードをダークエイドヴァルキリーに投げ渡す。


「ありがとうございます」

「そのカードの力を使い、奴らからカードを奪うのだ」

「はっ!お任せください!」

「その任務、俺も同行させてもらおう」


そう言ってリットが現れる。


「ほう?お前がか」

「ああ、任せろ。ヘマはしない」

「なら、頼むとしよう。ダークエイドヴァルキリー、帰ったらお前の得意な肉じゃがで祝勝会だ」

「はっ!」


─────────────────────────────────────


「はいこれ!」

「“はいこれ”じゃありませんよ」


お茶を淹れ、莉乃は湯呑みを机の上に置きながらそう言う。


「着てくれないの?」

「着ませんよ。大体、私が着て誰が喜ぶんですか」

「私」

「あなたはそうでしょうが、それ以外の人がいるんですか?」

「会長とかも喜ぶかも!」

「颯斗君がですか?」

「(おっ?これいけるパターンか?)」


そう考えた瑞稀は畳み掛ける。


「会長は絶対に泣いて喜ぶと思うなぁ〜!!会長、そういうの好きって言ってたし!!」


瑞稀は自信満々にそう言う。


「(会長、ごめんね!そういう設定にさせて!)」

「颯斗君が……(颯斗君が喜ぶ……颯斗君が笑顔になってくれる……私も嬉しい……颯斗君も嬉しい……)」


莉乃は少し考えて。


「着ます。颯斗君が喜ぶなら着ます」

「っしゃい!!」


瑞稀は全力ガッツポーズをした。


「じゃあ、これどうぞ!」

「はい」


瑞稀から猫コスセットを受け取った莉乃は少し困惑しながらも着替え始めた。


「(し、刺激が強い……!!)」


目の前で服を脱いでいく莉乃に瑞稀は赤面する。


「そ、外出とくね!?」


耐えきれずに部屋の外に出た。


「えぇ……?」


莉乃は瑞稀の行動に困惑しつつも服を着替えた。


「着替え終わりましたよ」


その言葉に瑞稀はそろ〜っと部屋に入ってくる。


「なんでそんな忍んだ感じで入ってくるんですか?」

「いや、なんか緊張しちゃって」

「そんなに緊張することじゃないと思いますけどね」


下を向いていた瑞稀はゆっくりと顔を上げる。

そこには黒い猫耳、黒い猫しっぽ、黒い手足の肉球、そして面積の狭い黒い毛皮を着た莉乃がいた。


「ぐはあっ!!」

「瑞稀ちゃん!?」


急にその場に崩れ落ちた瑞稀に莉乃は心配の声をあげる。


「なんなんだその破壊力は……!!ズルいぞ……!!」

「何を言ってるんですか」


莉乃は真顔でそう言う。


「猫っぽく“にゃ〜”と言ってくれない?」

「仕方ないですね……」


莉乃は猫っぽい態勢を取り。


「にゃ〜?」

「ぐはぐはああっ!!」

「瑞稀ちゃん!?今、何かぶん殴られたみたいに空を舞ってましたけど大丈夫ですか!?」

「大丈夫…問題ない……ガクッ」

「問題だらけじゃないですか!?」


莉乃がどうしようかと考えていると。

ドアがノックされ。


「莉乃?入るぞ〜」


颯斗がドアを開けて入ってきた。


「え゛っ゛」


猫コス姿の莉乃を見て、颯斗は変な声が出る。


「あっ、颯斗君」


颯斗は固まってしまった。


「(ど、どうすれば……そうだ!こういう時こそ、瑞稀ちゃんのアドバイスを参考に!)」


莉乃は再び猫っぽい態勢を取り。


「にゃ〜?」

「がはあっ!!」

「颯斗君!?」


今度は颯斗までもが倒れてしまった。


「救急車を呼んだ方がいいんでしょうか……」


莉乃は少し考えて。


「とりあえず着替えましょう」


元の服装に戻る決意をした。


─────────────────────────────────────


「俺は猛烈に怒っている」

「はい」

「その理由はわかるか?」

「えっと……」

「分・か・る・よ・な?」

「……ハ、ハイ」


颯斗の圧力に負け、瑞稀は頷く。


「何勝手に人が猫耳好きだとか吹聴してんだコラ」

「ス、スイマセン」

「莉乃にあんな格好させて!」

「……でも、正直よかったっしょ?」

「うん、すっげぇよかった。……じゃねえよ!!」


颯斗は瑞稀の頭をスパーンと叩いた。


「颯斗君、それは……」

「いいんだよ。力加減は調整して音がデカいだけで全く痛くないから」

「超無駄技術」

「確かに」

「お前がとやかく言う権利はねえよ」

「すいません……」


瑞稀は颯斗に説教され、反省しているようだった。


「颯斗君、もうそれくらいにしてあげてください」

「いいのか?どうせまたやらかすぞ?」

「その時は颯斗君が守ってくれるんですよね?」

「……おう。何があっても莉乃のことは俺が絶対に守る」

「なら安心です」


莉乃は少し表情を柔らかくした。


「そうか」


それを見て颯斗も表情を柔らかくした。

そんな時、ベランダに何かが刺さる音がした。


「なんでしょうか?」


莉乃がベランダに出ると、床に矢が刺さっていた。


「矢文とは、ずいぶん古いですね」


そう言って矢についていた手紙を見る。


「これは……!」

「莉乃?どうした…ってそれは……!!」

「はい。果し状です」


それはダークエイドヴァルキリーとリットからの果し状であった。


「場所は公園のようです」

「行こう」

「はい」


そんな2人に瑞稀は声を掛ける。


「気をつけて!」

「「わかってる(ます)」」


─────────────────────────────────────


「来たか」

「ダークエイドヴァルキリー……!」

「リット……!」

「さぁ、始めようか」


そう言って律人は怪人体へと変化する。


「行くぞ」

「はい」

「「オムニバスチェンジ!」」


『UFOマジシャン!』

『リアクターナイト!』


「はああああっ!!」


莉乃はブレード片手にダークエイドヴァルキリーに斬りかかった。


「そんなものか?ふん!はあっ!」


ダークエイドヴァルキリーはそれを同じくブレードで受け止め、押し返し、莉乃の腹部に蹴りを入れる。


「ぐああっ!」


莉乃は数歩後退するが、すぐさま態勢を立て直す。


『ハンマーヘッドシャーク!』

『ハンマーヘッドシャーク!ブースター!』


「せいやあっ!!」


莉乃は横回転をしながら、ハンマーのエネルギーを纏ったブレードで攻撃する。


『ダークジュエルシャーク!』


「はあああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーはそれに応じてフォームチェンジし、攻撃を打ち消す。


「だったら!」


『ジェットスパイダー!』


「はあああっ!!」


莉乃は高速で空中を移動しながら、糸でダークエイドヴァルキリーの動きを縛っていく。


「甘いわ!!」


『ダークリアクターナイト!』


リアクターの黒い炎で糸を焼き尽くす。


『リアクター!』

『リアクター!ブースター!』


「はあああっ!」


振り返り様に斬撃を放つ。


「ぐああああっ!!」


莉乃は地面に落ちる。


『クレイベロス!フィニッシュ!』


土煙の中からケルベロスのエネルギーが発射される。


『ダークジェットスパイダー!』


ダークエイドヴァルキリーは後ろに飛びながら、糸をムチのように扱い、エネルギーを叩き消す。


『ジュエルシャーク!』


「はあああああっ!!」


『ダーククレイベロス!フィニッシュ!』


「はあああああっ!!」


突っ込んで来る莉乃にダークエイドヴァルキリーの必殺技が直撃する。


「ぐあああああっ!!」


莉乃は吹き飛ばされ、リアクターナイトフォームに戻った。


「その程度じゃ私には勝てない!!」

「まだ…使ってないのがあるんですよ」


莉乃はそう言って立ち上がった。


『ブラックホール!』

『フェニックス!』


「オムニバスチェンジ」


『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!』


「なら私もだ」


『ダークブラックホール!』

『ダークフェニックス!』

『超暗黒の不死鳥!ダークブラックフェニックス!』


「「はあああああっ!!」」


─────────────────────────────────────


「ふっ!はっ!たあっ!」

「効かんな。ふっ!!!」

「ぐああああっ!」


リットの痛烈な一撃により、颯斗は大きく吹き飛ばされる。


「ならコイツだ!!」


『ミラーコブラ!』


「せや!」


颯斗はリットの周辺に鏡を配置する。


「ふっ!!」


そこに太陽光を反射させる。


「もういっちょ!」


コブラの力でリットを締め上げる。


「甘いな。はああああっ!!」


リットが力を込め、覇気を放つと鏡や蛇は砕けた。


「ぐああああっ!!」


颯斗は吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。


「まだだ!!」


『マグネットライオン!フィニッシュ!』


「はあああああああっ!!」


ライオンのエネルギー波を放つ。


「無駄な足掻きだ」


リットはそのエネルギー波をいとも簡単に握りつぶした。


「マジかよ……!!」


颯斗が動揺した次の瞬間、リットが目の前に現れる。


「……っ!!」

「はあああっ!!」


素早い動きに反応することも出来ず、蹴り上げられる。


「がはあっ!!」


そして裏拳でさらにぶっ飛ばされる。


『プラネットフォックス!』


「はあああああっ!!」


颯斗はすぐに起き上がり、惑星をリットに放つ。


「無駄だ!!」


リットはそれを殴ったり蹴ったりで破壊する。


『プラネットフォックス!フィニッシュ!』


「はああああああっ!!」


助走を付けたキックを放つ。


「無駄だと…言っている!!」


リットは颯斗を地面に叩きつけた。


「があっ!!」

「弱い」


リットはそう吐き捨てて莉乃の方へと向かっていく。


「(莉乃を…守るんだ……だから…こんなところで…負けるわけには…いかねぇ……!!)」


去っていくリットに声がかかる。


「おい。どこ行くんだよ」

「はぁ……まだ戦うというのか?」

「当たり前だ。莉乃は俺が守る」


『オーロラ!』

『Tレックス!』


「オムニバスチェンジ!!」


『北極の暴君!オーロラレックス!』


「行くぜ」


─────────────────────────────────────


「ふっ!はああっ!」


莉乃はブラックホールの移動を完全に使いこなし、ダークエイドヴァルキリーを翻弄する。


「チッ!」

「こっちです!」


莉乃は上から拳を叩きつけ、ダークエイドヴァルキリーに膝をつかせる。


「これで決めます」


『ブラックフェニックス!フィニッシュ!』


「はああああああああっ!!」


炎の翼を広げ、キックを放った。


「ぐっ!!」

「はあああああっ!はあああっ!」


莉乃の蹴りによりダークエイドヴァルキリーは吹き飛び、地面を転がる。

ダークブラックフェニックスフォームが解除され、ダークリアクターナイトフォームに戻る。


「私の勝ちです」

「……まだ何も終わっていない」


ダークエイドヴァルキリーは立ち上がってそう言う。


「見せてやろう」


そう言ってダークエイドヴァルキリーは2枚のカードをスキャンする。


『ダークパペット!』

『ダークチーター!』


「ダークオムニバスチェンジ」


莉乃は身構える。

その直後。


「ぐあああああっ!!」


莉乃はその場に倒れた。


「遅いな」


『爆速の暗黒人形!パペットチーター!』


「パペット…チーター……!?」


莉乃はダークエイドヴァルキリーの方を見ながらそう言った。


「そうだ」


ダークエイドヴァルキリーは莉乃首を掴み上げてそう言った。


「うっ……ぁ……っ!!」

「これが私の新しい力だ!!」


そう言ってダークエイドヴァルキリーは莉乃を殴り飛ばした。


「うああああっ!!」


莉乃はそのまま颯斗の方へと吹き飛ばされた。


「莉乃!!」

「よそ見をするな!!」


颯斗もリットに殴り飛ばされた。


「ぐああっ!!」

「ダークエイドヴァルキリー。決めろ」

「わかっている!!」


そう言ってダークエイドヴァルキリーはチェンジャーを回した。


『パペットチーター!スーパーフィニッシュ!』


ダークエイドヴァルキリーは大量の人形を召喚し、莉乃達の周囲に配置する。


「お前達の負けだああああっ!!」


その言葉と共に人形達は大爆発を起こした。


「「うあああああああっ!!」」


2人は強制変身解除し、全身ボロボロになり、地面に倒れ伏した。


「これはもらっていくぞ」


リットはそう言って2人からカードホルダーを奪った。


「目的は果たした。帰るぞ」

「わかった」


2人は踵を返して去っていく。


「待っ、て……!」


消えゆく意識の中、莉乃は手を伸ばした。

だが、その手が届くことはなかった。

救急車のサイレンが響く中、莉乃は意識を手放した。


           To be continue……


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