目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話 禁忌のカード


第三者side


「よくやったダークエイドヴァルキリー」

「ありがとうございます」


ダークエイドヴァルキリーはゲイルに跪いてそう言う。


「これでアイツらも、この世界も終わりだ」


リットがそう言う。


「それはどうだろうな」

「なに?」

「残っているではないか。まだ変身できるやつが」

「……みのりか」

「ああ。どうする?」

「俺がこの手で消すに決まってるだろ」


リットはそう言う。


「そうか。なら好きにしろ」

「(ついでにあの2人も殺すか)」


リットは出撃した。


「さて、俺も出かけるか」

「お供を……」

「いや、必要ない」

「はい」


ゲイルも姿を消した。


─────────────────────────────────────


莉乃side


「───っん、う〜ん……」


目に入ったのは真っ白の天井だった。


「莉乃ちゃん!!」

「春香…さん……」


私は体を起こす。


「……っ!」

「傷が深いんだからまだ起きちゃダメだよ!」


言われて起き上がるのをやめる。

そうだ……

私たちダークエイドヴァルキリー達に負けて……

机の上にはチェンジャーが置かれていた。


「カードホルダーはありませんでしたか?」

「え?」


春香さんが立ち上がって、色々と探してくれる。


「……ない」

「やはりそうですか……」

「もしかして……」

「カードを奪われました」

「それ、マズくない?」

「はい、非常にマズいです。私にもっと力があれば……」


私は天井に手を伸ばし、ギュッと握る。

すると隣にいた颯斗君も目を覚ました。


「ここは……」

「病院よ」

「そっか…俺たち負けたのか……」

「颯斗君、カードホルダーはありますか?」


京子さんがこちらを振り返り、首を横に振る。


「やはりそうですか……」

「まさか、カード盗られたのか!?」

「はい」

「クソッ!!」


颯斗君は布団を叩く。


「どうすりゃいいんだよ……」


颯斗君の悔しそうな声が虚空に消えた。


─────────────────────────────────────


颯斗side


最悪だった。

何もかもが最悪だった。

莉乃を守るためにオムニバスになったのに守れなかった。

さらにはカードも全部奪われてしまった。

しかも、莉乃が俺を庇うように攻撃を受けたことで俺は莉乃より遥かに軽傷だった。


「なんなんだよ……」


1人屋上に来ていた俺はそう呟いた。

守るべき人に守られて、奪われてはならないものを奪われて……


「俺は…弱い……」


莉乃1人満足に守れない。

これじゃ、莉乃は…世界は守れない……


「クソ…クソッ!!クソッ!!クソおおおおおっ!!」


俺はフェンスを殴りつけて叫んだ。


─────────────────────────────────────


莉乃side


「はぁ……」


私のチェンジャーのおかげで傷はかなり癒えている。

もう動けるくらいには。


「莉乃ちゃん」

「みのりちゃん……」

「元気?」

「元気ですよ」


私は体を起こして言う。


「体起こして平気なの?」

「はい。これのおかげです」


私は右腕につけたチェンジャーを見せる。


「そっか!」

「それで?どうしたんですか?」

「護衛に来たんだよ!」

「護衛?」

「うん!カードは奪われたけど、2人の命までは取られてないでしょ?」

「そうですね」

「今度狙いに来るなら2人の命かなって!」

「なるほど。確かにあり得ますね」

「だから、私がか守るし、オミナスが出ても2人が戦えない分、私が頑張る!」

「ありがとうございます」

「いいって!仲間だから!」


みのりちゃんはニカッと笑ってそう言った。


「はい。ずっと仲間です」

「じゃあ、見回り行ってくるね!」

「気をつけてください」

「もちろん!」


みのりちゃんはそう言って出ていった。


─────────────────────────────────────


みのりside


「はぁはぁ……」


莉乃ちゃんの病室を出た後、椅子に座りながら呼吸を整えていた。


「限界が近い……」


最悪だ。

もっと一緒に居たかったのに。


「お父さんめ……」


私は天井を見上げながら父を恨んだ。


─────────────────────────────────────

私はアナザーヴァルキリーになったのは、父から莉乃ちゃんについて聞かされたからだった。


『七瀬莉乃。お前は知っているだろう?』


今思えば、私をアナザーヴァルキリーにしたいからそう言ったのだと思う。

でも、当時の私はそんなところまで思考を巡らせられなかった。

私にとって莉乃ちゃんはヒーローだったから。


『バーカバーカ!』

『うえええええん』


幼稚園に入って少しした頃、年上の男の子にいじめられたことがあった。

いじめと言っても軽く叩かれたり、物を盗られたりするだけで、子供の喧嘩のようなレベルだった。

私が泣いていたそんな時。


『何してるの?』


声を掛けてくれたのが莉乃ちゃんだった。


『人を叩いたり、物を盗っちゃだめなんだよ?』


年上相手でも全く怯まず、立ち向かい、それから私はいじめられなくなった。


『どうして助けてくれたの?』

『困ってたから』

『え?』

『自分の出来る範囲で困ってる人の力になるのがいい子だよってお父さんが言ってたから!』


莉乃ちゃんはそう言って微笑んでくれた。

それからだ。

私が莉乃ちゃんの力になりたいって思ったのは。

でも、私が莉乃ちゃんの力になる前に、あの心中事件が発生した。

莉乃ちゃんは意識不明の重体で、お母さんに“お見舞いに行きたい”とどれだけ言っても会わせてくれなかった。

今となっては母の気持ちもよく分かる。

だから、父から莉乃ちゃんの現在について聞いた時、私は嬉しかった。

莉乃ちゃんと一緒に過ごせると。

でも、現実はそう甘くなかった。


『七瀬莉乃は現在、エイドヴァルキリーとして世界の平和を守るために命懸けで戦っている』


父からその言葉を聞いた時、とんでもない衝撃が身体中を駆け巡った。

“自分の出来る範囲で困っている人の力になるのがいい子”。

それが世界というレベルにまで発展していると知ってしまった。

それと同時にホッとした。

莉乃ちゃんは変わっていないのだとわかったから。


『仲が良かったお前にいいことを教えてやる』

『いいこと?』

『お前がアナザーヴァルキリーとなれば、彼女の力になれる』

『莉乃ちゃんの力に……!』


父は私の扱いが上手いと思う。

そんなことを言われれば断るわけがない。

その日、私は決断した。

莉乃ちゃんの力になるために、アナザーヴァルキリーになると。

それからは壮絶だった。


『アナザーリアクター!』

『アナザーナイト!』


『アナザーチェンジ!』


変身しようとすれば全身に激痛が走る。


『うああああああああっ!!』


地獄みたいな痛みだった。


『う…ぁ…っ!』

『倒れている暇はないぞ?立て』


父は容赦なくそう言ってくる。

私は変身できるまで何度も何度も何度も繰り返した。


『うあああああああっ!!』


『ぐあああああああっ!!』


『があああああああっ!!』


何度繰り返しても結果は同じだった。

初日は私の気絶と共にリタイアとなった。

それから莉乃ちゃんの助けになりたいその一心でずっと訓練を続けて、1週間でようやく変身が出来るようになり、2週間で力を使いこなせるようになった。

そして、私は莉乃ちゃんたちの前に姿を現した。

でも、体は限界を迎えていた。


「はぁ……」


訓練での過剰な負荷によるものか、それともアナザーヴァルキリーの副作用か。

どちらかわからないが、とりあえず私はあまり長くない。

専属の医者からは変身するのも、動くのもやめた方がいいと言われた。

だから、最近は学校にも行けず、莉乃ちゃんたちにロクに会えていなかった。

そのせいで大事な時に守れなかった。

……今度は絶対に守る。

そんな時だった。


「「「きゃああああああっ!!」」」

「悲鳴……!!」


悲鳴が聞こえてきたのは。

私はボロボロな体を起こし、悲鳴の方へと向かった。


─────────────────────────────────────


「お父さん……」

「やはりお前なら来ると思っていた」

「狙いは莉乃ちゃん達?」

「そうだ。それとお前も不要になったから始末しようと思ってな」

「私はどうなってもいい……でも、莉乃ちゃんには手は出させない」


『アナザーリアクター!』

『アナザーナイト!』


「アナザーチェンジ」


『灼熱の騎士!リアクターナイト!アナザー!』


「そんな体で何が出来る」

「お父さんを止められる」

「言うようになったじゃないか」


そう言ってお父さんは飛びかかってきた。


─────────────────────────────────────


莉乃side


「みのりちゃん……」


病院の慌ただしさから、誰かが襲ってきたんだとわかった。

そんな私は1人戦いに行ったであろう友達を心配していた。

今の私には何も出来ない。

でも、みのりちゃんが1人は危ない。


「どうすれば……」


私が俯いて1人悩んでいると。


「お悩みのようだな?」

「……っ!!」


顔を上げれば、目の前にが人間態のゲイルがいた。


「ゲイル……!!」


私はすぐさま戦闘が出来る態勢を取る。


「おおっと!そんな怖い顔をするなって」

「何の用ですか?私を殺しに来たんですか?」

「いいや?それは違うな」

「はぁ?」


ゲイルはニヤッと笑うとカードを2枚取り出した。


「アビリティカード……!」

「力が欲しいか?大事な友達を守れる力が」


─────────────────────────────────────


颯斗side


俺が落ち込んでいると、ドゴーンというけたたましい音が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


下を見れば、石川とリットが戦っていた。


「石川……っ!!」


変身しようとカードホルダーに手を伸ばすが。


「そうだ……カード全部取られてるんだった……クソッ!!」


俺は柵を殴りつけた。

友達が戦ってるのに力を貸せねぇのかよ……!!


「……莉乃」


もしアイツが俺たちを狙っているとしたら?

莉乃は今1人なんじゃないのか?


「やっべ!!」


俺はすぐさま莉乃の病室に向かって走り出した。

頼む……!!

無事でいてくれ……!!


─────────────────────────────────────


莉乃side


「フォートレスカードですか」

「さすがはアイツの娘だ。よく知っているな」

「ですが、もう1枚は知りませんね」


私はゲイルを睨みながら言う。


「ああ。コイツは“禁忌のカード”だ。ダークエイドヴァルキリーのチーターカードとパペットカードと同じように俺たちが作り出した」

「なるほど」

「お前にこれをプレゼントしてやってもいいぞ?」

「どういう風の吹き回しですか?」


私がそう言うと気付けばゲイルは背後にいた。


「ちょっと刺激を与えようと思ってな?」


ゲイルは肩に顎を乗せて言ってくる。


「使うか使わないかはお前次第だ」


ゲイルはそう言って私の胸ポケットにカードを入れた。


「莉乃っ!!」


すると颯斗君が現れ、ペットボトルを投げる。


「おっ、と!野蛮だな」

「莉乃から離れろ!」


颯斗君はゲイルに飛びかかる。


「ふっ!はあっ!!」


生身で戦闘をするがゲイルに全て躱される。


「はあっ!」


ゲイルは颯斗君の腹部に拳をめり込ませる。


「がはぁっ!!」


颯斗君は吹き飛ばされ、壁に激突する。


「じゃあな。莉乃」


そう言ってゲイルは姿を消した。


「颯斗君!!」


私は颯斗君に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


呼びかけても返事はない。

脈は……ある。

気絶しているだけのようだ。

すると看護師さんがやってくる。


「氷室さん!?大丈夫ですか?氷室さん?」

「頭を打ったみたいで……気絶しているだけだと思います」

「わかりました」


看護師はそう言って颯斗君を連れて行った。


「……禁忌のカード、か」


─────────────────────────────────────

第三者side


「弱いな?その程度か?」

「ぐっ…くっ……!!」


みのりは地面に倒れていた。


「絶対に行かせない……!!」

「大した根性だな」

「私は決めたの……あの時、莉乃ちゃんが助けてくれた……だから今度は!!私が助けるって……!!」


ブレードを支えにして立ち上がる。


「こんなところで負けるわけにはいかない!!」


みのりはカードをスキャンする。


『アナザーブラックホール!』

『アナザーフェニックス!』


「アナザーチェンジ」


『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!アナザー!』


「うおおおおおおっ!!」


ブラックフェニックスフォームになったみのりはリットに飛びかかる。


「はっ!はああっ!うおりゃあっ!!」

「ぐあああっ!」


リットにパンチを浴びせていく。

最初はびくともしなかったリットは3発目には吹き飛ばされる。


「なに……!?」

「私は負けない……!!莉乃ちゃんを守るために!!」


『アナザーブラックフェニックス!フィニッシュ!』


「はああああああっ!!」


みのりはキックを放つ。


「はあああっ!」

「ぐあああああっ!!」


リットは大きく吹き飛ばされる。


「ぐっ……!!今日はここで引くとするか……!!」


リットはそう言って姿を消した。


「……っ!」


みのりはフラッとし、変身解除して倒れる。

が、寸前で莉乃が支えに入った。


「莉乃ちゃん……」

「ありがとうございます。みのりちゃん」


莉乃の言葉にみのりはフッと微笑んで意識を無くした。


「みのりちゃん?みのりちゃん!みのりちゃん!!」


          To be continue……


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?