莉乃side
「みのりちゃん……」
私は自分の病室でみのりちゃんの心配をしていた。
「莉乃ちゃん」
すると春香さんがやってくる。
「みのりちゃんはどうですか?」
「今は眠ってる」
「そうですか……」
「でも、大事なことを言わなきゃならない」
「え?」
春香さんは真剣な表情で医者から聞いた話をし始めた。
「みのりちゃんの体、人間に近いだけでほとんど別の生物みたいなの」
「それはアナザーオムニバスの副作用です」
「それだけじゃないの。みのりちゃんの体は急激な体の変化に限界を迎えているの」
「どういうことですか?」
「……命を削っているということだよ」
「命を……?」
私はその言葉にひどくショックを受ける。
「体はボロボロであと何回変身に体が耐えられるか分からない」
「そんな……」
そんな状態で私たちを守るために戦ってくれてたの……?
最近、学校に来てなかったのもそういう……
私はギュッと拳を握りしめる。
「……でも、おかしいの」
「え?」
「アナザーシステムにそんな副作用はなかったはず」
「どういう意味ですか?」
「透馬は、オムニバスシステムが暴走した時のことを考慮してアナザーシステムを開発したの」
「お父さんが……?」
なるほど。
だから、アナザーシステムにはオムニバスシステムを強制的に無力化する力があるのか。
「うん。でも、透馬が開発した頃は人でなくなるなんて副作用はなかったはず……」
春香さんは怪訝そうに言う。
「やはり、誰かが追加した機能であると?」
「そう思う。でも、透馬も鈴ちゃんも死んでるし…他の研究者はアナザーシステムのことは知らないし……」
「ゲイルが…おじさんが手を加えた可能性は?」
「無くはない。でも、あの人に出来るとは私には思えないんだよね」
「そうですか…ありがとうございます」
そう言って私はベッドから立ち上がる。
「莉乃ちゃん?」
「みのりちゃんのところに行ってきます」
「わかった」
私は自分の病室を出て、みのりちゃんの元へと向かった。
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みのりside
「ここは……」
私は知らない場所にいた。
「ん?あれは莉乃ちゃん?」
私の視線の少し先で莉乃ちゃんが立っていた。
『オムニバスチェンジ』
そして、莉乃ちゃんは黒い何かに蝕まれていく。
「莉乃ちゃん!!!」
私は必死に呼びかけ、手を伸ばす。
だが、どれだけ行っても彼女に手が届かない。
『うあああああああああっ!!!』
莉乃ちゃんは叫び、苦しむ。
なんで……!!
なんで届かないの……!!
私は莉乃ちゃんの力になりたくてアナザーヴァルキリーになったのに……!!
「はぁはぁ……!!」
息も切れてきた。
だというのに、莉乃ちゃんとの距離は大きくなっていくばかり。
「なんで……!!莉乃ちゃん…莉乃ちゃん!!!」
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「……っ!はぁはぁ……!!」
目を覚ませば病院のベッドの上だった。
「夢……?」
「大丈夫ですか?みのりちゃん?」
「え?」
ベッドの側には私を心配そうに見つめる莉乃ちゃんの姿があった。
「酷い顔……」
莉乃ちゃんはそう言って私の頬に触れる。
「ちゃんと休んでください」
「大丈夫だよ!私は莉乃ちゃん達を守らないといけないから!」
気丈に振る舞う私を見て、莉乃ちゃんは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「無理しないでください……」
「無理なんか……」
「してるじゃないですかっ!!」
声を荒げる莉乃ちゃんに体がビクッとなる。
「聞きましたよ。みのりちゃん、体がもう限界なんですよね?」
「なっ……!!」
言葉を失った。
莉乃ちゃんに体のことがバレてしまった。
「だから無理して戦わないでください」
莉乃ちゃんは私の手に触れてそう言う。
「……ごめん」
私は莉乃ちゃんの手を退かし、病室を飛び出した。
「みのりちゃん!!」
私は走った。
ひたすらに走った。
体が限界を迎えていようが関係ない。
根性で走り続けた。
「どこへ行くんだ?」
「お父さん……!!」
そんな私の前に現れたのはお父さんだった。
「今日は俺が相手をするんじゃない。コイツだ」
すると空からオミナスが落ちてくる。
「行け!オクトソードオミナス!!」
「グオオオオオオッ!!」
オクトソードオミナスと呼ばれたオミナスは雄叫びを上げる。
「随分と物騒な……!!」
「コイツにはタコと剣の2つの力が混ざっている!!お前如きには倒せない!!」
「やってみなくちゃわからない!!」
『アナザーリアクター!』
『アナザーナイト!』
「アナザーチェンジ!」
『灼熱の騎士!リアクターナイト!アナザー!』
アナザーヴァルキリーに変身したみのりはオクトソードオミナスに斬りかかった。
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莉乃side
「はぁはぁ……」
私は息を絶え絶えにしながらもみのりちゃんを探していた。
「一体、どこに行ったんですか……!」
吹き出る汗を拭いながら小さく呟く。
昔の私のことを知っている数少ない人物。
私は覚えていないけれど、みのりちゃんが楽しそうに昔の私を語ってくれるのが好きだった。
初めて会った時のこと、みのりちゃんが友達と喧嘩した時のこと、遠足のこと……
みのりちゃんが教えてくれる度に心が痛んだ。
私はそれを覚えていない。
でも、みのりちゃんは“仕方がないよ”と笑って言ってくれた。
『だって、あんなことがあったんだもん。人間、辛いことって思い出さないようにしてるんだよ』
あの心中事件の影響で私の記憶は芋蔓式に消えている。
それがどうしようもなく苦しい。
でも、それは少し前までのことだ。
私の悩みに気が付いたみのりちゃんが言ってくれたのだ。
『確かに、忘れてるのって苦しいと思う。でも、私は“今”、莉乃ちゃんと一緒にいるの。確かに昔の話をしてたりするけど、その話を聞いてくれる莉乃ちゃんの顔が好きなの。だから、そんなの気にしないで莉乃ちゃんも“今”を楽しみなよ!』
それから吹っ切れた。
そんな理由で?と思われるかもしれない。
でも、私にとって当事者であるみのりちゃんの言葉が何よりも刺さったのだ。
だから……
「絶対見つける……!!」
私は再び全快ではない体を動かした。
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第三者side
「ぐああああっ!!」
みのりはオクトソードオミナスにより吹き飛ばされて地面を転がり、強制変身解除していた。
「その程度か?」
「くっ…ぁ、っ!!」
みのりはボロボロの体で土を掴みながら立ち上がろうとする。
「守るんだ……!!絶対に……っ!!」
「そんなにアイツのことが大事か?」
「大事だよ……!!」
みのりは立ち上がり、フッと笑う。
「莉乃ちゃんは私の光だから……」
「お前のことも覚えていないのにか?」
「覚えてなくてもいい……私が一緒に居たいのは昔の七瀬莉乃じゃない…“今”の七瀬莉乃だから……!!」
「小賢しい!!そんなもの守ってどうする!!変身できなければ何の価値もない!!」
「ははっ、本当に悲しいね。お父さん」
みのりはリットを嘲笑するように言う。
「だから、お母さんに捨てられるんだよ」
「捨てられたんじゃない!!俺が捨てたんだ!!」
「ほんっと、そういうところだよ」
みのりは少し残念そうに言う。
「変身出来なければ価値がない?ふざけないで!!友達は価値で決めるものじゃない!!」
「綺麗事だ!!」
「それでもいい!!だって、綺麗事の方がいいじゃん……」
みのりはふらつきながら答える。
「黙れ!!オクトソードオミナス!!」
「グオオオオオオッ!!」
オクトソードオミナスは剣を振り下ろした。
が、それがみのりに当たる直前でみのりを抱き抱えた者がいた。
「莉乃、ちゃん……?」
「よかった……間に合ったみたいですね」
「なんで……!!」
「友達を放って置けるわけないじゃないですか」
「莉乃ちゃん……」
「リット!みのりちゃんをこれ以上、傷つけさせません」
「はははははっ!!傑作だな?変身出来ないお前が来たところで足手纏いになるだけだと言うのに!!」
リットは笑いながら言う。
「(みのりちゃんはボロボロ…生身では勝てない……禁忌のカード…今の状況を切り抜けるにはこれしかない……!!)」
莉乃は覚悟を決めたように拳を握る。
「私がオミナスを倒します」
「はぁ?お前に何が……」
リットが言い終わる前に莉乃は2枚のカードを取り出す。
「この身を賭けてでも…絶対に!!」
「なんだと!?」
そのカードを見た時、みのりは咄嗟に叫ぶ。
「莉乃ちゃん!そのカードはダメ!!何か嫌な感じがするの!!」
「これしか選択肢はないんです……!!」
莉乃はそう言ってカードをスキャンする。
『フォートレス!』
『繧ソ繝悶』
2枚目のカードをスキャンするとチェンジャーから聞き取ることの出来ない音声が流れ、黒いエネルギーが湧き出る。
「莉乃ちゃん!!」
その音声に危機感を覚えたみのりが叫ぶ。
しかし、湧き出たエネルギーは莉乃を覆っていく。
そして───。
「オムニバスチェンジ」
普段とは全く違う低音でそう言って、チェンジャーの外側を回転させた。
『遖∝ソ後?遐エ螢願ヲ∝。橸シ√ち繝悶?繝輔か繝シ繝医Ξ繧ケ』
何を言っているのか全くわからない音声と共に、莉乃は姿を変えた。
その鋭い視線はオミナスとリットを捉えていた。
To be continue……