第三者side
「「「………………………」」」
屋上は静かだった。
「……七瀬さんは大丈夫?」
「あの日からずっと心を閉ざしてる。部屋からも出てこないそうだ」
退院した2人は日常生活に戻っていた。
だが、莉乃は暴走状態だったとはいえ、自分の手でみのりを殺してしまったことに心を閉ざしてしまっていた。
「……辛いよね」
瑞稀がポツリと呟く。
「でも、悪いのはゲイルじゃない」
「……だけど、石川さんにトドメを刺したのは」
「それ以上言うな」
「「「……っ!」」」
颯斗のとんでもなく低い声に全員が黙る。
「莉乃は何も悪くない。全部アイツらが悪いんだよ……」
颯斗は柵を叩いてそう言う。
「クソ……」
颯斗の呟きは誰に届くでもなく、虚空へと消えた。
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「なんなんだあれは!!」
リットは椅子を蹴り飛ばしてそう言った。
「そんなに怒らなくていいだろう?それに君の娘が死んだんだ。もう少しそっちに怒りを向けたらどうだ?」
「フン!いいさ。俺がアイツを必ず……ぶっ殺してやる!!」
リットは意気揚々とアビリティカードを持って姿を消した。
「張り切っちゃって……まぁ、バカが1人消えるだけか」
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颯斗side
俺は1人、莉乃の家へと来ていた。
『ごめんね、颯斗君!今日、ちょっと仕事が長引きそうだから莉乃の様子を見に行ってくれない?』
そう言われて家の鍵を受け取り。
『複数人で行ったら莉乃にも負担が掛かるでしょう?』
『だから、悔しいけどここは会長に譲るわ』
みんなに言われ、1人で来ていた。
「ん?これは……」
俺はポストからはみ出ている封筒を見つけ、それを手に取る。
気になって誰からかを見てしまった。
「差出人不明……?」
どこにも差出人の名前は書かれていなかった。
「はぁ……」
俺はため息を吐く。
少し考えていたが、結局何と声を掛けていいのかわからないまま、俺は家のドアを開けた。
「お邪魔します」
だが、誰も降りてくる気配はない。
莉乃なら気付くと思うんだが……
「……莉乃?」
俺は寝ているのかと思い、家の中に入り、莉乃の部屋へと向かう。
そして、ドアを開けると。
部屋で首を吊った莉乃がいた。
それを見た瞬間、俺の体中から血の気が引く。
「莉乃っ!!!」
俺はすぐさま駆け寄り、莉乃をすぐに床に下ろす。
「しっかりしろ!!莉乃!!」
俺は声を掛けながら脈拍を確認する。
脈拍はある……
「……颯斗、君?」
ゆっくりと瞼を開き、虚な目でそう言ってくる。
「莉乃!!!よかった……!!」
俺はすぐさま彼女を抱きしめる。
「なんでここに……」
「春香さんから頼まれたんだよ。お前の様子を見に行ってくれって」
「………邪魔をしないでください」
莉乃は立ち上がって部屋を出ようとする。
「どこ行くんだよ!」
俺は彼女の手を掴む。
「私には生きる資格はありません」
「何を言って……」
「友達の命を奪っておいてのうのうと生きていいわけがない!!!」
そう言って振り返った莉乃の目には涙が溜まっていた。
「莉乃……」
俺は石川が最期に言った言葉を思い出す。
『颯斗君……莉乃ちゃんを、お願い……あの子は、優しいから……きっと…自分を、追い、詰めるから……』
石川……任せてくれ。
俺は泣きそうな莉乃の手を引っ張り、抱き寄せる。
「莉乃…1人で抱え込むなよ……」
「ですが…私の…私のせいで!!!!」
「お前のせいじゃない!!悪いのはカードを奪い、あれを使わざるを得ない状況を作ったアイツらだ!!!」
「でも…でも!!!!」
「お前が自分を責めるなら死ぬなよ!!」
俺の言葉に莉乃はビクッとなる。
「お前が死んだら命懸けでお前を助け出した石川はどうなるんだよ!無駄死になるぞ!?」
「みのりちゃんは無駄死になんかじゃない!!」
「だったら生きる資格がないとか言うなよ……」
「颯斗君……」
莉乃はその場に崩れ落ちて泣き始める。
「うあああああああああん!!!みのりちゃあああん!!ごめんなさああああい!!!」
俺は泣き続ける彼女を抱きしめることしか出来なかった。
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「落ち着いたか?」
「……はい。お恥ずかしいところをお見せしました」
「気にするな。辛い時は遠慮なく頼ってくれ。……っと、忘れるところだった」
「なんですか?」
「これ」
俺はポストから取った郵便物を渡す。
「差出人が分からないんだよ」
「一体なんなんでしょうか……」
莉乃はそう言って封筒を開ける。
そして、中から出てきたのは。
「これは……」
「アビリティカード!?」
ユニコーンのアビリティカードだった。
「一体誰が……?」
そんな話をしていると電話が掛かってくる。
「なんだよこんな時に……」
俺は電話に出る。
「もしもし?ちょっと今……」
『颯斗!リットが現れたぞ!!』
「なに!?どこだ!?」
『学校だ!』
「わかった!」
公人からの電話を受け、俺は莉乃の方を見る。
「どうかしたんですか?」
「リットが現れた」
「……分かりました」
莉乃はそう言って立ち上がり、バイクのキーを手に取る。
「行ってきます」
「ああ」
そう言って莉乃は家を出て行った。
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莉乃side
私はバイクを走らせ、学校へと向かった。
「いた……!!」
学校が見えた頃、グラウンドにリットがいるのを見つけた。
私はそのままバイクでタックルした。
「があっ!なんだ!?」
吹き飛ばされたリットはこちらを見る。
まずはこの場から離さないと!
私はリットに背を向けて再び走り出す。
「待て!!」
リットは追いかけてくる。
そして、公園の芝生広場で止まる。
「逃がさない」
「逃げるつもりはありません」
私はそう言ってバイクを降り、ヘルメットを外す。
「エイドヴァルキリー……!!」
「私が狙いですか?娘さんを殺してしまった私が」
「娘?ははっ!笑わせるな!あれは娘なんかじゃない。ただの実験動物だ。その実験もイマイチだったゴミだがな」
「リット……!!」
「お前はそれを処分しただけだ。気にすることはない」
「それ以上、その口を開いて私の大事な友達を侮辱するのはやめなさい」
私は拳を握りしめて言う。
「お前が殺したのにまだ友達ヅラするのか?」
「……確かに私は大きな過ちを犯しました」
『久しぶり莉乃ちゃん!』
『私は味方だよ。何があっても』
『絶対助ける!!!!』
「だから、私は…私は罪を抱いて前に進みます。命を懸けて私を救ってくれたみのりちゃんのために…この世界を守るために!!」
私はチェンジャーを腕につける。
『オムニバスチェンジャー!』
私は目を瞑って小さく呟く。
「見てて、みのりちゃん。私の変身」
目を開き、リットを見据える。
そして、2枚のカードをスキャンする。
『フォートレス!』
『ユニコーン!』
「オムニバスチェンジ!」
『要塞の一角獣!フォートレスユニコーン!』
白を基調とし、要塞の要素とユニコーンの要素がうまく組み合わさった衣装に姿が変わった。
「なんだと!?」
「あなたはここで倒します」
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第三者side
「お前如きに倒せるものか!!」
リットは緑色のエネルギー弾を放つ。
「ふっ!はああっ!」
それを莉乃は弾く。
「何!?」
『オムニバスバスター!』
『ブレード!』
莉乃は剣先は銃口にも見えるような形になっている大型の武器を取り出す。
「はああっ!!」
莉乃はオムニバスバスターを両手持ちし、横に一閃すると、エネルギーの斬撃がリットへと飛ぶ。
「ぐあああっ!!」
リットは大きく吹き飛ばされ、地面を転がる。
「クソっ!だったら!!」
リットは持っていたアビリティカードを全て取り込む。
「うおおおおおおおおっ!!」
リットは巨大化した。
「哀れですね……私があなたを止めます」
「消えろ!!!!」
リットは巨大な腕で莉乃を薙ぎ払おうとする。
莉乃はオムニバスバスターのグリップを傾ける。
『キャノン!』
「はあっ!」
迫り来る腕にオムニバスバスターで砲撃する。
「ぐああっ!!」
リットは大きく弾き飛ばされる。
「こんなのはどうですか?」
莉乃はバスターにカードをスキャンする。
『フォートレス!』
「はああっ!」
莉乃はリットの体に狙いを定めて、トリガーを引く。
『バスターフィニッシュ!』
巨大なエネルギー弾がリットに放たれる。
「ぐああああっ!!」
リットは攻撃を受け、数歩後退する。
「これで決めます」
莉乃はチェンジャーを操作する。
『フォートレスユニコーン!フィニッシュ!』
莉乃はジャンプし、右足にドリル状のエネルギーを纏い、キックを放った。
「はあああああああああっ!!」
そのキックはリットを貫いた。
「おのれエイドヴァルキリー!!!!ぐあああああああああっ!!!!」
リットは爆散した。
「ふぅ……」
莉乃はリットから排出されたカードを拾い集め、家へと戻ったのだった。
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莉乃side
私が家へと戻れば、瑞稀ちゃんたちが来ていた。
「莉乃」
「リットを倒してきました」
「「「ええっ!?」」」
「それから颯斗君。これを」
私は颯斗君に回収したカードを渡す。
「ありがとう」
「それでどうしたんですか?みなさんお揃いで」
「実は……」
久我さんはカバンからUSBメモリを取り出した。
「これは?」
「石川さんの部屋から見つかったUSBメモリだよ」
「みのりちゃんの……?」
「これ以外には必要最低限のものしかなかったのよ」
「なんでみなさんがそんなことを?」
「私たちが行ってきたからよ」
話を聞けば、何かないかと颯斗君のお父さんの力を借りてみのりちゃんの部屋に入ったそうだ。
そこでこのUSBメモリを見つけたらしい。
「俺たちは中身を知ってるから1人で見て来い」
「はい」
何故1人なのだろうか?
そんなことを思いつつ、私はUSBメモリを持って自室へと向かった。
「ふぅ……」
私は少し緊張しながらも、パソコンにUSBメモリを挿した。
「えっと…動画……?」
USBメモリの中には動画が1つ入っていた。
私はそれを再生する。
『え〜っと、これでいいのかな?』
「みのりちゃん……」
『この動画が見られているってことは、多分…いや、間違いなく私は死んだんだよね。まずは一緒に居られなくてごめんなさい。それと…ありがとう。私、莉乃ちゃんともう一度会えて幸せだった。一緒に遊んだのもすごく楽しかった』
私はこの時理解した。
これは颯斗君達を含めたみんなに残した動画ではなく、私のためだけに残した動画なのだと。
それに気づいたとき、私は視界が歪み始めた。
『私が死んでるってことはアナザーシステムの副作用か、それとも別のアクシデントかだと思う。どっちにしたって莉乃ちゃんは自分を責めてるでしょ?もしかしたら自分から死のうとしたりしてない?それはダメだよ?私は副作用を知ってて尚、莉乃ちゃんの力になりたかったからアナザーヴァルキリーになったの。だから莉乃ちゃんは悪くない。別のアクシデントだったとしても一緒だよ?そっちだと多分、私が莉乃ちゃんを守ろうとして死んだんだと思う。莉乃ちゃんを助けたのは私の意思だから。莉乃ちゃんは自分を責めないで?……気にしないでって言うのはちょっと嫌だから、私の分まで頑張って生きて幸せになって欲しいな!それが私の最期のお願いだよ。莉乃ちゃん、叶えてくれるよね?長くなりすぎてもあれだから、この辺で!バイバ〜イ!』
動画が終わると同時に私は涙が溢れて溢れて止まらなかった。
みのりちゃん…最期のお願い、必ず叶えてみせます……
だから、見ててね?
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颯斗side
「莉乃っち……」
俺たちは動画を見て莉乃が泣いているのを部屋の前でそっと聞いていた。
「颯斗?泣いているのかい?」
「目から汗が出てるだけだ……」
俺は上を向きながらそう答える。
「全く、素直じゃないね……」
「うるせえよ……」
石川…お前の守りたかった莉乃は俺が必ず守るから……
なぁ、見ててくれよ?
To be continue……