莉乃side
「……………………」
私は現在、手足を縛られて動けない状態になっている。
更には猿轡のおまけ付きである。
そんな私の目の前にはニヤリとした表情を浮かべる中年の男性。
「七瀬莉乃ちゃん…僕は君がずっと欲しかったんだ……!!」
目は血走っている。
深呼吸をし、今は落ち着いているが最初はストーカーの時のトラウマがフラッシュバックしていた。
男は私に近づき、猿轡を外す。
「僕とお話ししよう?莉乃ちゃぁん?」
「ふぅ……」
私は再び心を落ち着かせるために深呼吸をする。
「何故こんな事をするんですか?」
出来るだけ平静を保ちながら聞く。
だが、自分でもわかるくらいに声が震えている。
「あの番組に出ている君を見て、僕のものにしたくなっちゃったからかなぁ〜?」
「そうですか……」
私は男の注意を会話で逸らしながら、拘束が解けないか試してみる。
だが、縛り方が無駄に高度で抜け出せそうにない。
「面倒なことになりましたね……」
私は男に聞こえないくらいの声量でボソッと呟いた。
そもそも何故私はこんなことに巻き込まれたんでしたっけ……
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第三者side
───数時間前。
「悪い、莉乃!今日はちょっと生徒会の用事があって一緒に帰れねえんだ!」
「そうなんですか?わかりました。今日は1人で帰りますね」
颯斗たちは生徒会での仕事があり、莉乃と一緒に帰ることが出来なかった。
このことが莉乃の明暗を分けた。
「1人で帰るのは久しぶりですね……」
ストーカーの一件以降、1人で帰る事をどことなく避けていた莉乃は久しぶりに1人で帰路に着くことにほんの少し不安を覚えていた。
「……よし」
少しして、莉乃はカバンを持って学校を出た。
「早く帰ってお店の手伝いをしないと……」
莉乃は少し足早に帰っていた。
そんな彼女の背後から魔の手が忍び寄る。
「んぐぅ!?」
背後から鼻と口を覆うように布を当てられる。
「(息が……っ!)」
莉乃は踠くが、鍛えているとはいえ女子高生の力では成人男性を振り解くことなど出来なかった。
「(もう、ダメ……)」
莉乃の意識は闇へと落ちていった。
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莉乃side
そうだった。
私は背後から襲われたんだった。
ふと男の方を見れば、未だ饒舌に話をしている。
正直どうでもいい。
今すぐに帰りたい。
だが、あの目はかなりやばい。
下手に動かない方がいいだろう。
縄が解けるのだったら変身して逃げるんですけど……
「こんな時間か。莉乃ちゃぁん?お食事の時間ですよ〜?」
そう言って男が運んできたのはグジュグジュのおかゆのようなものだった。
「…………………」
私は少し渋い顔をする。
誘拐犯からの食事なんて食べられたものではない。
何が入っているかもわからないのに。
「何?僕が作った料理が食べられないの?」
男の声のトーンが変わった。
「ふざけるなよ!!」
男は激昂し、私の髪の毛を掴み上げる。
「……っ!」
そしてそのまま乱雑に私を放り投げた。
私は壁に頭をぶつけ、意識を失った。
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颯斗side
「いらっしゃいませ〜!…って、なんだ颯斗か」
「俺で悪かったな」
落胆したような声を出す母さんに悪態を吐きながら、空いているカウンター席へと腰掛ける。
「……あれ?」
そこで俺は違和感を覚えた。
「莉乃はどうしたんだ?」
普段ならいるはずの莉乃の姿が見当たらない。
「それがまだ帰ってきてないのよね〜…颯斗は一緒に帰って来なかったの?」
「先に1人で帰ったはずだけど……」
その発言に俺たちは2人揃って冷や汗をかく。
「「誘拐!?」」
俺と母さんはハモってそう言った。
「いやいや、まだそうと決めつけるには早計すぎるか……」
「そうね。寄り道とかしているのかもしれないし……」
そんな事を言い合っていると、ドアベルが鳴る。
「「莉乃(ちゃん)!?」」
2人して振り返ったが、そこにいたのは莉乃ではなかった。
「えっ、あ、なんかすみません……」
「いや、こちらこそ悪かったな」
よく見ればうちの学校の生徒ではないか。
「えっと……七瀬莉乃さんはいっらっしゃらないんでしょうか?」
「「え?」」
「実は道でこれを拾って……」
そう言って女生徒が差し出してきたのは莉乃の生徒手帳だった。
「莉乃の生徒手帳!?」
「それにカバンも一緒に落ちていて……」
女生徒は確かに鞄を2つ持っていた。
「颯斗!」
「わかってる!」
俺はすぐさま父さんに連絡をする。
「もしもし父さん!?」
『どうしたんだ?そんなに慌てて……』
「父さん、力を貸してくれ!!」
『だから一体……』
「莉乃が行方不明になったんだ!」
『なんだと!?』
電話の向こうからガタッという音が聞こえた。
『情報を教えてくれ。こっちで探してみる』
「わかった」
俺は今持っている情報を女生徒の情報と合わせて父さんに提供した。
『ありがとう。後は任せろ』
そうして電話は切れた。
莉乃……無事でいてくれ……
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莉乃side
「……っ!」
私が目を覚ますと男は寝ていた。
そうでした……
私気絶してたんでしたね……
頭に触れれば包帯が巻いてあり、猿轡は外されていた。
少し遠くに見える鏡に自分の体を映してみれば、頭には血の滲んだ包帯が付けられていた。
「手当てをしてくれたんですね……」
まぁ、向こうも私を殺す気はないみたいですし、当たり前ですかね。
でも、油断はしない。
いつ気が変わって私を殺そうとするかわからない。
「拘束は…解けなさそうですね……」
結局拘束は解けそうにないので諦めて助けを待つことにした。
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第三者side
誠は西宮のところを訪れていた。
「西宮いるか?」
「氷室か。僕に何の用だ?」
「ちょっと知り合いの子が事件に巻き込まれた可能性があるから調べて欲しいんだ」
「……立てこもり事件の被害者か?」
「よくわかったな?」
「お前の知り合いの子供なんて息子の同級生くらいなものだ。それにお前の焦りようからして随分と親しい関係であると推測出来る」
「ご名答。それで調べて欲しい防犯カメラは……」
誠は聞いた情報を更に西宮に伝える。
「その辺りだと……ここが限界だな」
「そういえばその辺はちょうど鏑木達がいるな……」
誠は鏑木に電話を掛ける。
「鏑木。その近くの防犯カメラのデータを持って帰ってきて西宮の渡してくれ」
『ええっ!?急ですね!?』
「君も知っている子が行方不明になったからな」
『わかりました!すぐに持って帰ります!』
誠はそこで電話を切った。
「(頼む……!!手掛かりになってくれ……!!)」
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莉乃side
「莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん莉乃ちゃん」
目は血走った男は私の名前を呼び続けている。
なんなんですか……
気味が悪いですよ……
すると急に真顔になって落ち着いた。
と思えば、私の頬をビンタする。
「……っ!」
バチンという重い音が響く。
痛い……
頬がジンジンする……
今度は私を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
「ごめんね?こうするしかないんだ」
「何を、言って……!!」
意味がわからない。
何故急に……!?
私は驚きつつも拘束された状態で立ち上がり、男を見る。
「縛られてるのに何が出来るっていうの?」
「あなたは…私を殺すんですか?」
「そんなことしないよ?だって莉乃ちゃんは可愛いんだから!」
「理由になってませんね……」
「莉乃ちゃんは僕のものになればいいんだ!!」
そう言って男はこちらに向かってくる。
仕方がありません。
一撃で気絶させるしか身の安全は守れなさそうですね……!
私はそれを見て両足でジャンプし、男に胸にドロップキックをかました。
「がはあっ!」
「……っ!!」
男は吹っ飛び、地面を転がる。
私も背中を地面に強く叩きつけた。
やばいですね……
意識が飛びそうです……
そんな時だった。
「莉乃ちゃん!!」
天井の窓を突き破って氷室刑事が現れた。
「氷室、刑事……」
「大丈夫かい!?」
それに続いて鏑木刑事も入ってくる。
「なんとか…大丈夫です……」
「鏑木。犯人は?」
氷室刑事は私の縄を解きながら鏑木刑事に問いかける。
「脈はあります。気絶しているだけですね」
「そうか。鏑木、連行を頼む」
「はい!」
鏑木刑事はそう言って犯人を連れていった。
「それにしてもよく分かりましたね……」
「颯斗達のおかげだ。君のバッグを拾ってくれた子がいて今回の事件の早期発覚に繋がったんだ」
「そうだったですね……」
私はゆっくり呼吸をしながらそう言う。
「随分な様子だな?エイドヴァルキリー」
その声に顔を上げると天窓の淵にダークエイドヴァルキリーが立っていた。
「何の、用ですか?」
私は立ち上がり、氷室刑事の前に立つ。
「ちょうどいいから潰しに来た」
そう言って天窓から飛び降りると同時にダークオムニバスブレードで切り掛かってくる。
「オムニバスチェンジ!」
『リアクターナイト!』
私もそれを受け止める。
「氷室刑事は離れててください…っ!」
「あ、ああ!」
私はダークエイドヴァルキリーを押し返す。
「くっ……!」
私は片膝をつく。
怪我がかなりキテいるらしい。
「短期決戦です」
「ああ。一瞬で終わらせてやる」
『爆速の暗黒人形!パペットチーター!』
『要塞の一角獣!フォートレスユニコーン!』
互いに睨み合う。
『パペットチーター!』
『フォートレスユニコーン!』
『『フィニッシュ!』』
「「はあああああっ!!」」
私たちは互いにキックを放った。
「「はあああっ!」」
私たちは互いに吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「「ぐっ……!!」」
私たちは再び立ち上がる。
「まだだ……!!」
「いいや。終わりだ」
そう言ってゲイルが現れる。
「全く…急に姿を消したと思ったら何故こんなところに……とりあえず帰るぞ」
「……はい」
そうして2人は引き上げていった。
「ふぅ……」
私はその場に崩れ落ちた。
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第三者side
莉乃は倒れた後、病院へ運ばれた。
「すぐに退院出来るそうです」
「よかった……」
誠の言葉に春香は安堵していた。
「父さん、ありがとう」
「いや、これは俺の仕事だ。礼を言われるまでもないよ」
「そっか……」
颯斗は眠っている莉乃を見て、奥歯を噛み締める。
「俺は……っ!!」
拳を握る力も強くなる。
「(何一つ出来てないじゃないか……っ!!)」
To be continue……