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第34話 それでも俺は挫けない


第三者side


「どいてください!!」


莉乃は声を荒げ、ダークエイドヴァルキリーに斬撃を喰らわせる。


「ぐあっ!」


攻撃を受け、一瞬怯んだ隙に莉乃もまた屋上から飛び降りた。


「くだらないな」


ダークエイドヴァルキリーはそう言って姿を消した。


「颯斗君!!」


屋上から飛び降りた莉乃は颯斗との距離をすぐに縮める。


「(気を失ってる……っ!!私が掴まないと!!)」


莉乃は一生懸命に颯斗の手を手繰り寄せる。


「掴んだっ!」


彼女は彼の手を掴み、無事に地上へと降り立った。


「颯斗っ!!」


公人が声を荒げながら、走ってくる。


「颯斗は気を失っているだけです」

「そうか……」


公人はホッと一息吐く。


「目立った外傷はありませんが、念のため病院へ連れて行きますね」

「僕も付き添おう」

「お願いします」


2人は颯斗を病院へと連れて行った。


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颯斗side


真っ暗闇の中、俺は1人立っていた。


「ここは……」

「颯斗君」


その声に振り返れば、莉乃がいた。


「莉乃……?」

「颯斗君、あなた弱いですね」

「……は?」


思いもよらない言葉に間の抜けた声が出る。


「ダークエイドヴァルキリーに勝てず、私を暴走から救うことも出来ない。あなたに何が出来るんです?あなたは何故オムニバスで居られるんです?」


心無い言葉が掛けられるが、俺は反論しない。

……いや、出来ないと言った方が正しいだろう。

今莉乃が言った言葉は全て真実なのだ。

俺には敵に打ち勝つ力も、敵に喰らいつく技術も、莉乃を救う知恵もない。

俺には何がある?


「俺には……」

「何もないよ。お前は空っぽなんだよ」


その言葉に振り返れば、今度は公人がいた。


「公人……」

「生徒会長になったのだって、みんなのためじゃない。自分に足りないものを補いたいからなったんだろ?」

「それは……」

「お前は誰にも本音を話さない。弱音を吐かない」

「そんなことは……!!」

「なら、なんで今の自分の悩みを僕や七瀬さん達に言わなかった?以前から言われていただろう?」


その言葉に以前言われた莉乃の言葉が脳裏を過ぎる。


『颯斗君も何かあったら私に言ってください。頑張って力になりますから!』


「結局は信頼してないんだろ?」

「そういうわけじゃ……!!」

「なら、何故相談しない?」

「俺は……」

「お前は自分を通せない。七瀬さんにラブレターが届いた時だって、自分は引こうとしていた。想いを貫けないお前にオムニバスが務まると思っているのか?」

「そう…だな……俺はオムニバス失格だ……」


膝から崩れ落ちると同時に俺は暗闇に包まれた。


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莉乃side


私は自宅に戻り、夕飯を食べていたが。


「……ごちそうさまでした」

「莉乃ちゃん……」


ほとんどが喉を通らず、そう言って自室に戻った。


「はぁ〜……」


私はベッドにうつ伏せで倒れる。

本当に怖かった。

あと少し私の到着が遅れていたら。

あの一撃で彼女が怯まなかったら。

あの時、私の手が届かなかったら。

颯斗は死んでいた。

私は世界を救う。

その中には颯斗君だって含まれている。

目の前の人1人守れないで何が守れるというのか。

本当に危なかった。

ふと机の上を見るとラブレターがあった。


「返事、しないとですね……」


返事は明日の放課後。

当日中の呼び出しでなかったことに驚いたが、勇気を出してくれたのだ。

私も誠実に答えるつもりだ。


────────────────────────────────────


颯斗side


「……病院か」


目を開くと見知った白い天井が目に入る。

日付は翌日になっていた。


「……っ!」


体を起こそうとすると痛みが走る。


「はぁ……」


心底自分が嫌になる。

こんなにボロボロになってしまうなんて。

視線を横に向ければ、小さめの収納棚の上にチェンジャーが置かれていた。


「オムニバス、か……」


先ほどの出来事は夢だったのだろう。

だが、その夢での言葉が俺の心に刺さっていた。

俺は本当にオムニバスに相応しいのだろうか。

考えれば考えるほどわからない。


「外の空気でも吸うか」


俺は痛みを堪えながら、立ち上がる。

1度立ち上がってしまえば痛みなんて気にならない。

俺はその足で屋上へと向かった。


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第三者side


颯斗が出て行った病室に入れ違いで1人入ってくる。


「…………………………」


その人物は颯斗のチェンジャーを手に取り、姿を消した。


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颯斗side


俺はベンチに座ってため息をついていた。


「はぁ〜……」


空は快晴だというのに俺の心は全く以って晴れやかではない。

そんな時、声が聞こえてきた。


「少年よ、力が欲しいか?」


その言葉に俺は立ち上がり、周辺を見回す。

すると、屋上への入り口の上に誰かが立っていた。


「アンタ、誰だ?」


逆光で顔の見えない人物に俺は声をかける。


「名乗るほどのものじゃない」


俺は咄嗟に身構え、変身しようとする。


「……っ!」


しまった!

チェンジャーを置いてきた!


「少年よ、忘れ物だ」


そう言ってその人物は何かを投げる。

俺はそれをキャッチする。


「俺のチェンジャー!」

「君はこんなところで諦めるのか?自分の決意を、覚悟を曲げるのか?大事な人を守ると決めたんじゃなかったのか?」

「でも…俺にはそう出来るほどの力も技術も知恵もない!!」

「君には君にしかないものがあるはずだ」

「……え?」


俺にしかないもの……?


「よく考えてみろ。これまでの自分を。君はどうやって幾度の戦いを潜り抜けてきた?」

「どんなに強い敵が現れても…最後まで諦めなかった……」


そして、ハッとする。


「根性…ってことか?」

「そうだ。君には根性がある。力も技術も知恵も足りなくてもその根性だけで喰らいついていたはずだ。もう1度聞く。君はこんなところで諦めるのか?」

「……俺は諦めたくない」


俺はギュッと拳を握る。


「どれだけ弱くたって気合いと根性でもっと強くなる!!世界を…莉乃を守れるように!!」

「いい答えだ。そんな君にプレゼントだ」


そう言ってその人物は再び何かを投げ飛ばしてくる。

俺はそれをパシッとキャッチする。


「アビリティカード!?」

「君の力を見せてみろ」

「ありがとう!」


そう言って顔を上げるとその人物は姿を消していた。


「なんだったんだ……?」


そんな時、悲鳴が聞こえてきた。


「「「きゃああああっ!」」」

「行かないと……!!」


俺はすぐさま声の方に向かった。


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「ダークエイドヴァルキリー!!」

「来たか。お前を今度こそ消してやる」

「悪いがそうは行かない!」


俺は生身のままダークエイドヴァルキリーを蹴り飛ばす。


「ここは病院だ!出て行ってもらう!」


俺はそのまま彼女を病院の外へと吹き飛ばした。


「懐かしいな」

「何がだ」

「お前が初めて変身したのはここだっただろう?」

「……そうだな」

「今日からここはお前の墓場にもなる」

「そうはならない」

「お前じゃ勝てない」

「俺はここで決意した」


『俺の力がどんなに弱くても!!七瀬さんの力になりたい!!』


「覚悟を決めた」


『俺にその資格があるのなら……!!もう傍観者じゃ嫌だ!!今度は偶然巻き込まれるんじゃない……望んで巻き込まれる!!』


「俺はもう自分の決意を…覚悟を見失わない。莉乃はは…俺が……俺が守る!!」


そう言ってチェンジャーを装着する。


『オムニバスチェンジャー!』


俺はカードをスキャンする。


『ロボット!』

『ドラゴン!』


「オムニバスチェンジ!!」


そう言ってチェンジャーの外枠を回転させた。


『機械仕掛けの逆鱗!ロボドラゴン!』


「覚悟しろ。ダークエイドヴァルキリー」

「かかってこい!!」


『爆速の暗黒人形!パペットチーター!』


ダークエイドヴァルキリーは猛スピードで俺に向かってくる。


「ふん!!」


俺は腕に金属を纏わせ、彼女の攻撃を防ぐ。


「なに!?」

「はあああっ!!」


ドラゴンのエネルギーエフェクトを纏いながら鋼鉄の拳を彼女の腹部にめり込ませる。


「がはあっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは大きく吹き飛び、地面を転がる。


「まだまだ行くぞ!!はああっ!」


俺が両手のひらを前に突き出すと、ドラゴンが現れる。


「グオオオオッ!!」


ドラゴンは雄叫びを上げながら、ダークエイドヴァルキリーに攻撃を仕掛ける。

体当たりや尻尾での攻撃、噛みつき攻撃などなど。


「バカな!!」

「はああっ!!」


俺はドラゴンによって吹き飛ばされた彼女に鋼鉄の蹴りを叩き込む。


「ぐあああっ!!」

「これが俺の新しい力だ!!」


そう言ってチェンジャーの外側を回転させる。


『ロボドラゴン!フィニッシュ!』


俺は真上に跳躍し、空中で体を捻って、月面宙返りをする。

そのままキックの態勢に入って、ドラゴンのエネルギーを身に纏い蹴りを放つ。


「はあああああああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは大きく吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。


「がはっ!!」


彼女はダークリアクターナイトフォームに戻っていた。


「まだ…だ……っ!!」


そう言って立ち上がり、俺を見据える。

そして、彼女は目を見開いた。


「……?」


なんだ?

急にどうしたんだ?

俺が不思議に思っていると、彼女は膝から崩れ落ち、頭を抱える。


「うっ…うああああああっ!!」

「……っ!?」


突如として苦しみだした彼女に俺は動揺する。


「帰るぞ」


そこにゲイルがやってきて、彼女と共に姿を消した。


「なんなんだよ……」


俺は困惑していた。


「君の覚悟、確かに見届けた」


背後からそんな声がして振り返るが誰もいなかった。


「気のせいか……」


─────────────────────────────────────


「はぁ……」


気分は憂鬱だった。

公人から聞いた話だと返事は今日の放課後。

ちょうど今くらいだろう。

俺は病室の窓から夕焼け色に染まる街を見ていた。

するとドアがノックされる。


「失礼します」


そう言って莉乃が入ってきた。


「莉乃……」

「遅くなってすみません」

「いや、気にしなくていい」

「そうですか」


莉乃はベッドの近くの椅子に腰掛ける。


「「……………………………」」


無言の時間が続く。

沈黙を破ったのは俺だった。


「ラブレターの返事…してきたんだよな?」

「はい」

「そっか……今更、遅いかもしれないけどさ!!俺はお前のことが……!!」

「ちゃんと断ってきました」

「お前のことが!!……えっ?今なんて?」

「ですから、断ってきたと言ったんです」

「そ、そうなのか?」

「はい。すごく悩みましたよ?どう断ろうか」

「……へ?」


思わず間抜けな声が出てしまった。


「……もしかして最初から受け入れる選択肢はなかったんですかい?」

「ええ、そうですね。今のところ私は誰かとそういった関係になるつもりはないので」

「じゃあ、あの“迷っています”っていうのは……」

「“どう断ろうか迷っています”ということですけど?」

「なっ……!?」

「どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもない!!」


俺の苦悩なんだったんだよ〜!!

莉乃には言えない叫びが心の中で木霊した。


          To be continue……



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