颯斗side
『少年よ、力が欲しいか?』
「一体…誰だったんだ……?」
俺はベッドに寝転がり、2枚のアビリティカードを天井に向かって掲げながら呟いた。
『君はこんなところで諦めるのか?自分の決意を、覚悟を曲げるのか?大事な人を守ると決めたんじゃなかったのか?』
なんで……
なんで奴は知っていたんだ……俺の決意を。
俺がオムニバスになった理由を知っている人物は少ない。
その中でアビリティカードを手に入れられる人物は1人しかない。
「ゲイル、なのか……?」
だが、そうだったとして何故俺に力を与える必要がある?
莉乃に渡した暴走するようなカードならともかく、何の変哲もない普通のカード。
「こんなこと考えても仕方ないか」
俺は自室の壁に掛けられたカレンダーに目を目を向ける。
4月の最終日。
その日付けには赤いペンで何重にも円が重なっている。
「体育祭、かぁ……」
そう。
その日は体育祭。
高校3年になって最初の学校行事。
「莉乃にカッコいいところをみせないとな」
俺は気合いを入れ、ベッドから起き上がった。
「必ず守ってみせる。アイツの笑顔を」
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「体育祭、楽しみです!」
翌日。
俺が教室のドアを開けると莉乃の嬉々とした声が聞こえてくる。
「そんなに楽しみなのか?」
「はいっ!初めてなのでっ!」
ここまで浮かれた声を聞くのは初めてだ。
修学旅行の時よりも表情が柔らかくなったのは学校生活に慣れてきたんだろうな。
俺はそんな様子の莉乃を微笑ましく見ていた。
「七瀬さん。浮かれているのはいいけど、颯斗に聞きたいことがあるんじゃないの?」
「はっ!そうでした」
公人の言葉に莉乃は我に返り、普段と変わらないクールな表情を取り戻す。
「俺に聞きたいこと?」
「はい。颯斗君がもらった2枚のアビリティカードについてです」
「ロボットとドラゴンか?」
「はい。そのカード、誰に貰いましたか?」
「それが分からねぇんだよなぁ〜……」
「えっ?分からないんですか?」
莉乃は少し期待が外れたように呟く。
「ああ。だが、俺はゲイルなんじゃないかと睨んでる」
「ゲイルが?何故ですか?」
「俺にカードを渡した奴は俺が戦う理由を知っていた。それを知っている人間はほとんど居ない。その中でアビリティカードを所持して俺に渡せる人物はゲイルだと思ってな」
「なるほど……」
莉乃は顎に手を当てて真剣な表情で考え事をする。
「莉乃はなんでそんなことを聞いてきたんだ?」
「ゲイルが裏切る前、少し気になることを言っていたので」
「気になること?」
「はい。アビリティカードは全部で28枚あると言いましたよね?」
「そうだな」
「私が初めてオムニバスになった時、ゲイルは私に言ったんです。“アビリティカードは全部で27枚あるがそのうち数枚は失われてしまった”と」
「もしかしてその失われたカードって……」
「颯斗君の持つロボドラゴンのカードと、私の持つユニコーンに父が持っていたと聞いているライナーホエール。それからもう1枚。未完成品だったために名称は不明ですが、究極のカードと呼ばれていた1枚です」
「そうだったのか……」
「ですから、父の同僚ではと思ったんですが……」
「同僚?」
「はい。父がオムニバスシステムの研究をしていたのは以前話しましたよね?」
「ああ」
「ですから、同僚の方がカードを持ち去り、失ったように見せかけていたのではと考えていたんです」
「だが……」
「今回の一件で辻褄が合わなくなりましたね……」
本当に一体誰が……
「まぁ、分からないことを考えても仕方ない!体育祭のことを考えようぜ!」
「そうですね!」
莉乃は笑顔でそう答えた。
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第三者side
それぞれが自席に着き、担任が教室に入って来る。
「よし!今日は2週間後に控えた体育祭について話していくぞ〜!」
担任は体育祭で行われる種目を黒板に書き連ねていく。
「こんなもんか!これ以外に男子は騎馬戦、女子は創作ダンスがあるからな〜!」
黒板に書かれた種目はリレー、借り物競走、障害物競走、100m走などなど。
「……創作ダンス?」
莉乃は首を傾げた。
「七瀬さんはこれが初めてだったね?」
「そうですね」
「うちの高校では恒例として男子が騎馬戦、女子が創作ダンスをするんだ。創作ダンスだからどんなダンスでもいいんだけどね」
「なるほど……ん?ちょっと待ってください」
「え?」
「これだと男子の方が考えることは少なくないですか?」
「「………………………」」
2人は視線を逸らす。
「何でこっち見ないんですか」
「い、いや、鋭いなって……」
「誰でも思うと思いますけど」
各々が喋り、教室がザワザワとする中、担任は手をパンと叩く。
すると一瞬で静まり返り、全員の視線が担任に向けられる。
「楽しみなのはわかった!だから、種目をさっさと決めていくぞ!!」
「「「おぉ〜!!」」」
「体育委員!あとは頼むぞ!」
「「はいっ!」」
担任は体育委員へとバトンタッチした。
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莉乃side
「ただいま帰りました」
「あ!お帰りなさい!」
「手伝いますね」
私は京子さんにそう言いながら、エプロンを付ける。
「そろそろ体育祭でしょ?3年生になって初めての学校行事よね?」
「そうですね」
それ以上会話が続かず、無言の時間が流れる。
私はカップやソーサーなどを、京子さんはカウンターのテーブルをそれぞれ拭いていた。
聞こえて来るのはお客さんのコーヒーを啜る音と時計が時を刻む音だけ。
そんな時、京子さんが少し意を結したような表情で私に聞いてきた。
「……寂しくないの?」
「何がですか?」
「体育祭、見に来る人居ないんでしょ?」
「そうですね。春香さんは教員としての参加ですから、保護者として参加する人は居ませんね。ですが、寂しくはありませんよ?両親とおばさんはきっと何処からか見守ってくれてると思いますから」
私は普段と変わらないトーンで答える。
「そっか……」
「まぁ、ゲイルは来るかも知れませんが」
「えっ!?」
「もちろん保護者ではなく敵として、ですが」
体育祭が襲撃されるなんてことはあり得ない話ではない。
むしろ好んで仕掛けてきそうな感じがする。
「大事な体育祭は絶対守りますから。私にとっては初めての体育祭ですし」
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颯斗side
夜。
俺はベッドに寝転がり、考えを巡らせていた。
リレーの選手か……
俺は種目選びでリレーと借り物競争に出場することになった。
しかもリレーに関してはアンカーだ。
こんなの負けるわけにはいかない。
「勝って莉乃にいいところ見せないとな……」
「随分と積極的だねぇ?」
「に、兄さん!?」
急に声を掛けられ、俺は慌てて体を起こす。
すると、入り口には兄さんがいた。
「盗み聞きとは趣味が悪いぞ!!」
「やりたくてやったわけじゃないよ?ご飯だって呼びに来たらたまたま独り言で呟いてただけだからさ!悪く思わないでよ?」
妙にカッコつけてそう言う兄さん。
全くこの人は……
俺は呆れながらも食事をするべく、兄さんと共に階段を降りた。
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第三者side
体育祭での出場種目が決定してから数日。
それぞれがそれぞれの練習に励んでいた。
「いいよいいよ!七瀬さん!初めてなのに上手だね!」
「そうですか?」
莉乃は汗を拭いながら呟く。
「向こうも頑張ってるみたいだね?」
同級生の視線の先を莉乃が見ると、そこにはバトンパスの練習をしている颯斗がいた。
「よし!上手く行ったぞ!」
「これで完璧だな!」
「ああ!」
颯斗はニコッと笑ってクラスメイトとハイタッチする。
「随分と気合いが入ってるね?」
そんな彼に声を掛けたのは公人だった。
「そうか?」
「うん。他の誰よりも目に見えてね」
「気のせいだろ?」
そう言って颯斗は水を飲む。
「七瀬さんの前だからカッコつけたいんだろ?」
「ぶふ〜っ!!」
颯斗は飲んでいた水を吹き出す。
「大丈夫?」
「げほっ!げほっ!誰のせいだと思ってんだよっ!!」
颯斗は公人をキッと睨みつける。
「図星だったみたいだね?」
「うるせえ」
颯斗はそう言ってそっぽを向く。
「まぁ、頑張りなよ」
公人は莉乃に視線を送りながら、颯斗の肩をポンと叩いた。
莉乃は公人の視線に気がつくが、不思議そうに首を傾げた。
それから再び時は過ぎ、体育祭当日。
「それでは只今より、第102回庵原高校体育祭を開催します!!」
その高らかな宣言と共にパンパンパンと花火が上がる。
莉乃も颯斗も気合十分だった。
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「次の種目は3年女子による創作ダンスです!」
司会の紹介と共に統一された衣装を着た莉乃達3年女子がグラウンドに入って来る。
そして、曲が流れ始める。
「(よし、頑張るぞ!)」
莉乃は心の中でそう呟き、ダンスが始まる。
キレッキレで、完璧なダンスを見せる莉乃を見て公人が颯斗に声を掛ける。
「七瀬さん、凄いな!」
「……………………」
「颯斗?」
颯斗の視線は莉乃に釘付けだった。
「……ん?何か言ったか?」
「いや、随分とご執心なんだなって思っただけさ」
「んなことねえよ!?」
「これな〜んだ」
そう言って公人が見せたのは莉乃に釘付けになっている颯斗の写真だった。
「はぁ!?ちょっ、おまっ、それ消せよ!?」
颯斗は慌てて公人からスマホを奪おうとする。
「以上、3年女子による創作ダンスでした!次の騎馬戦に出る人たちは準備してください!」
「時間切れだ」
公人はニヤッと笑って集合場所に向かった。
「おいコラッ!」
スリープ状態にされ、ロック解除の手段を持たない颯斗は仕方なく集合場所へと向かった。
「はああっ!!」
それから間もなくして騎馬戦がスタートした。
「すごい迫力ですね……」
「会長めっちゃガチじゃん」
瑞稀が呟く。
「そうですね……」
莉乃は颯斗に見入っていた。
「そんなにいいの?」
美香が聞く。
「どんな人でも全力で頑張っている姿はかっこいいと思います」
「おぉ…ストレートに言うねぇ」
「何か問題でも?」
「いや、ないけど……」
「「(会長(颯斗)、がんばっ!)」」
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お昼の時間。
「颯斗君」
「ん?どうした?」
「お弁当作ってきたんですがどうでしょうか?」
「……へ?」
颯斗は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「?どうかしましたか?」
莉乃はケロッとした表情でそう言う。
「い、いや…て、てて、手作りって……っ!!」
「嫌でしたか?それなら私が食べるのでお気になさらず」
そう言って莉乃は弁当を引っ込めようとする。
そんな彼女に颯斗は慌てて声を掛ける。
「た、食べます!!食べさせてくださいっ!!」
「無理してないですか?」
「してないしてない!!」
「なら、どうぞ」
莉乃は弁当を颯斗に手渡した。
「い、いただきます!!」
颯斗は緊張した面持ちで弁当を口に運ぶ。
「……っ!?」
「どうですか?」
「う、うまい!!美味いよこれ!!」
「そうですか!それならよかったです!」
颯斗が弁当をがっついていると、教室のドアが開かれる。
「会長!!」
「ん?チア部の部長じゃないか。どうしたんだ?」
「それが……」
言い籠る部長の後ろには右足にギプスのついた子がいた。
「この後のパフォーマンスの要になる子が怪我しちゃって……」
「マジか……」
昼休みが終わった後、午後最初の演目としてチア部のパフォーマンスがある。
「……どんなパフォーマンスなんですか?」
「「「えっ?」」」
その場の3人がハモる。
「えっと……」
部長はタブレットを取り出し、映像を見せる。
「なるほど……」
莉乃は呟き、時計を見る。
「お昼休み終了まで後24分ですか……」
そして、少し考える素振りを見せ。
「私が力になります」
「「えぇ!?」」
部長と女の子は驚いた声を出す。
「に、24分だよ!?」
「いけます。これくらいの動きであれば、20分あればマスター出来ると思います」
「莉乃、お前すごいな」
「鍛えてますからね」
「そこ関係あるのか……?」
困惑している颯斗を置き去りにし、莉乃は練習へと向かった。
「よかったじゃん」
「……何がだよ」
「その微妙な間。僕の言いたいことはわかってるんだろ?」
「……別に?チアガール姿の莉乃が見れるからって嬉しいとか思ってないし?」
「うん、思ってるね。もう心の底から思っちゃってるね」
公人は苦笑しながらツッコんだ。
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昼休みが終わり、生徒や保護者が再びグラウンドに集結した。
「午後の部、スタートはチア部のパフォーマンスからです!!」
司会がそう言うと、チア部が左右の入場門から入ってくる。
「みんな、行くよっ!!」
「「「Yes!」」」
そして、音楽が流れ始める。
先ほどのダンスでもキレキレだった莉乃は練習時間が短いとは思えないほどのクオリティーでパフォーマンスを行う。
「すげぇ……」
颯斗は感心していた。
「そうね…流石に驚きだわ……」
「莉乃っちすごい!!凄すぎるよ〜っ!!」
「うんうん!」
それは公人達も同じだった。
パフォーマンスが終われば、会場は途轍もない拍手に包まれる。
「チア部の皆さんありがとうございました!次の種目は───」
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「すごい!凄すぎだよ!!あんな短時間であそこまで仕上げるなんて!」
水道の方に移動した莉乃はチア部のみんなから迫られていた。
「そんなことはありませんよ?みなさんが頑張っていたおかげです」
「謙遜しなくてもいいのに」
「そうだぞ?謙遜する必要はない」
「───っ!!」
可愛らしい女子の声に混じった低い男の声。
莉乃が振り返れば、そこにはゲイルがいた。
「ゲイル……!!」
「知り合い?」
「皆さん、下がってください」
「心外だな。俺が見に来ているというのに」
「だからですよ。あなたのことです。ロクでもないことを考えているんでしょう?」
莉乃は距離を取りつつ、カードを取り出す。
「やる気満々だな」
「申し訳ありませんが今日を邪魔させるつもりはありません」
「フッ。なら、止めて見せろ」
そう言ってゲイルの背後からオミナスが飛び出し、莉乃に襲いかかる。
莉乃はそれを横に転がって避ける。
『ナイト!』
『ナイト!アビリティ!』
「はああっ!!」
莉乃はオムニバスブレードでオミナスを斬りあげる。
「グオオッ!」
オミナスは吹き飛んで地面を転がった。
「莉乃!」
「颯斗君!」
そこへ颯斗が到着する。
「いきますよ!」
「ああ!」
『フォートレス!』
『ユニコーン!』
『ロボット!』
『ドラゴン!』
「「オムニバスチェンジ!」」
『要塞の一角獣!フォートレスユニコーン!』
『機械仕掛けの逆鱗!ロボドラゴン!』
「「はあああっ!!」」
2人はオミナスに殴りかかる。
「ふっ!はああっ!せやあっ!」
「はあっ!たあっ!てやあっ!」
2人は息の合った連携攻撃でオミナスを追い詰める。
「おいおい……」
そんな様子を見てゲイルは頭を抱えた。
「なんでこんな強いんだよ……っ!!」
「そんなのもわからないんですか?」
莉乃は言いながらオムニバスバスターをキャノンモードで構える。
「莉乃!」
颯斗はカードを投げ、莉乃はそれをキャッチする。
『ライオン!』
「今日の私たちは……」
『フォックス!』
「テンションが最高潮なんですよ?」
『Tレックス!』
「はああっ!!」
颯斗はオミナスを莉乃の方に蹴り飛ばす。
『ギガバスターフィニッシュ!』
吹き飛んできたオミナスに莉乃はエネルギー弾を命中させる。
「グオオオオオッ!!」
オミナスは再び颯斗の方へとぶっ飛ぶ。
「これで終わりだ!」
『ロボドラゴン!フィニッシュ!』
「はあああっ!!」
颯斗はドラゴンのエネルギーを纏った拳でオミナスを貫いた。
「グオオオオオッ!!」
オミナスはそんな雄叫びを上げて爆散した。
「クソっ!タイミングが悪かったか……っ!」
ゲイルはそう言って姿を消した。
「ふぅ……」
2人は変身を解除する。
「次の種目は借り物競走です!出場者は集合してください!」
そんな呼びかけが聞こえてくる。
「やべっ!」
「行ってきてください!」
「ああ!」
颯斗は莉乃に軽く手を振って集合場所へと走っていった。
「私も着替えて戻りましょうか」
莉乃は1人呟いた。
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莉乃が着替えてテントに戻ると、丁度颯斗が走る番であるり、スタートの空砲が鳴った。
途中、たくさんのものを借りながらもトップのままだった。
「凄いですね……」
「って言うか、誰だよ。等身大のぬいぐるみ持ってきてるやつは……」
「そもそも“等身大ぬいぐるみ”っていう借り物が入ってる時点でおかしいと思うけど……」
そんな会話をしているうちに颯斗は最後の借り物のカードを手にした。
「……っ!?」
そこで颯斗の動きが一瞬止まる。
「颯斗君……?どうしたんでしょうか?」
「これは……」
「もしかして……」
「もしかしちゃうのか!?」
瑞稀は少し取り乱しつつも、期待のこもった視線を颯斗に向ける。
すると、颯斗は莉乃のいるテントに近づいてくる。
「どうしました?」
「お前ら!莉乃、借りてくぜ!!」
「えっ、あ、ちょっ!?」
ビニールシートの上であったため、靴を脱いでいた莉乃は靴を履こうとする。
「履かなくていい!俺が連れていく!」
そう言って颯斗は莉乃をお姫様抱っこする。
「「おぉ〜!」」
「なぁ!?」
公人と美香は感心し、瑞稀は目を大きく見開く。
「颯斗君!?」
「行くぜ!!」
そう言って颯斗は莉乃を抱えたまま先ほどとほとんど変わらないスピードで走り出した。
駆け抜けていくたびに黄色い声援が飛び交う。
「会長、かっこいい〜!!」
「よっ!男の中の男!!」
声援を気にする暇のないほどに全力で走っている。
颯斗の真剣な表情に莉乃は視線を奪われる。
「借り物は?」
審査員に問われ、颯斗はカードを取り出して。
「“相棒”、だ!」
ニカッと笑ってそう言った。
「相棒…そうなんですか?」
「どんな時でも俺を支えてくれるし、どんな時でも支えてやりたいって思う」
「お、OKです」
「ゴールっ!!」
そう言って颯斗はゴールテープを切った。
そんな颯斗の様子を見て。
「颯斗のやつ、本気になると無意識にあれやるんだもんな……」
「莉乃も大概だけどやばいわよね……」
「私の莉乃になんてことを……っ!!」
2人はうんうんと共感している中で瑞稀は嫉妬の炎をメラメラと燃え上がらせていた。
─────────────────────────────────────
それから再び時は流れて。
「最後の種目はみなさんの待ちかねのリレーになります!」
リレーを迎えていた。
選手たちはすでに所定の位置に着き、開始の合図を待つだけとなっていた。
「位置について、よ〜い……」
パンと空砲が鳴ると同時に全員が走り出す。
さらにテントから声援が飛び交う。
たくさんの声援を受けながら、1人1人が全力を出す。
「流石に相手が悪いか……っ!?」
公人は呟く。
「相手が悪い?」
「うん。隣のクラスのリレー選手の大半は陸上部なんだよ」
「そうなんですか?」
「しかも足が速いことで有名な、ね?」
「颯斗君……」
莉乃達のクラスは2位に着けているが、隣のクラスとの差は開く一方であった。
2人目、3人目とバトンが渡されても差は変わらない。
そして、バトンはアンカーへと託された。
「(クソっ!!遠いっ!!このままじゃ……っ!!)」
バトンを受け取った颯斗は少し焦っていた。
「(颯斗君……)」
莉乃は胸の前で自身の両手を絡ませて、祈っていた。
「そういうのは言った方が伝わるわよ?」
美香は優しくそう言った。
それを受けて莉乃は。
「颯斗君!!頑張ってください!!」
精一杯声を出してそう言った。
「伝わったでしょうか……」
「ええ、必ず」
美香の言葉通り、莉乃の応援は颯斗に届いていた。
「(聞こえたぜ莉乃……お前の応援は他の誰よりも俺の力になる。莉乃にいいところを見せるんだ!!俺は…俺は……っ!!)」
残り半周、ほんの少しづつ距離が縮まっていく。
「負けられねぇんだよ!!」
そう叫びながら2人同時にゴールテープを切った。
それから十数秒後、2人に続くように残りの選手もゴールした。
「全員ゴール!!ビデオ判定に入ります!!」
司会の言葉に会場に緊張が走る。
「優勝は……3年1組!!」
3年1組。
それは莉乃のクラスだった。
「よっしゃあああああああっ!!」
司会の言葉を聞き、颯斗は誰よりもデカい声叫んだ。
「勝った……!?」
「うん。勝ったよ。颯斗がやったんだ」
「颯斗君っ!!」
莉乃は靴を履いて颯斗の元に駆け出した。
「莉乃!?」
そして、莉乃は颯斗に抱きついた。
「すごい…勝っちゃうなんて凄いです!!」
「ありがとう。莉乃の応援が力になったんだぜ?」
「よかったです……今日の颯斗君、本当にカッコよかったです!」
莉乃はニコッと笑ってそう言った。
「ありがとな」
颯斗もニコッと笑って莉乃の頭を撫でた。
To be continue……