「ボクとしては攻撃力伸ばして霊をどんどん倒していきたいけど……この“バッテリー強化”ってなんだろう?」
〈ヌルのシールド耐久力〉
〈体力アプグレ課金(課金ではない)〉
〈スキルにも使うHP〉
〈HPとMP兼用〉
「なるほど、奔放民ありがとう! じゃあ最初はバッテリーかな。次はスキルと攻撃力ね」
〈安定の安定プレイ〉
〈判断が早い〉
〈堅実院ユリーザ〉
〈奔放院(奔放とは言っていない)〉
音無さんは、頭の良さとゲーマー経験の長さを活かした手堅いプレイスタイルだ。システムの理解、プレイの丁寧さ、ストーリーへの深い感情移入。どれも見ていて心地良い。適度に上手く、詰まりはしてもイライラはしない絶妙なライン。そして……。
「ひ……ワ゛ァア゛ア゛アアァァァ――ッッ!! あ゛ぁっ!? ヴェっ!? やめて、やめてクダサイ! やめてくださぁあ゛あ゛ああぁぁ――ーッッ!!」
それらをブチ壊すこの絶叫とキャラ崩壊である。サブディスプレイを、コメントの洪水が流れていく。
〈草wwww〉
〈腹痛いw〉
〈ヤメテクダサアアアァァァ――ッッ!!〉
〈涙出るww〉
〈これよこれw〉
確かにめちゃくちゃ面白い。舞台裏にいる僕ですら面白いのだから、観客であるリスナー、奔放民たちがこんな反応になるのも当然だろう。
「ひぁ……はぁ……やった? た、倒しまし……倒したぞ! やったぁ! ふふふ、見たかこのボクの強さ!」
〈おめでとう!〉
〈アレで上手いの草〉
〈どういうことだよw〉
〈婦長初見で倒せたのはスゴい〉
〈パニック耐性付いた?〉
驚くべきことに、あれだけ絶叫しながらもプレイ自体はそこまで影響がない。消極的になるくらいだ。だがこれは奔放民としても意外らしい。
……もしかして、僕がいるせいか? いや、それは自意識過剰か。
「あ、院長室の鍵! これはボスじゃないか?」
〈そうかも〉
〈どうだろうか〉
〈準備はしとこう〉
ネタバレは一切しない。相変わらず民度高いな。
「よし、じゃあ院長室に向かぉワ゛ぁっ! ああ、セーブポイント……」
〈急にどうした〉
〈俺らがビビるわw〉
〈セーブポイントにビビるサキュバス〉
〈よわよわで草〉
正直、配信始める前まではまだ演技を疑っていた。だがもう疑いようはない。これは音無さんの
「院長室来たぞ! 配信終了予定まであと30分。病院はクリアしたいな!」
〈いけるいける〉
〈いいペースだよ〉
〈ユリーザ様がんばれー〉
ふと、別の疑問が浮かぶ。
ここまで怖がるなら、やはりホラーゲームをやる必要はないんじゃないか? アンケートで選ばれると分かっていて、なぜ入れるんだ。
プレッシャー?
自己犠牲?
もし嫌なのに止められないのなら、それはブラック企業に勤めているのと変わらないんじゃないか?
そして僕はそれに、加担しているんじゃないか?
背筋が寒くなったのは、廃病院のせいではなかった。
〈絶対ボスだこれ……あれ? 院長さん? ボスじゃないの? ……ア゛ュッ! やっぱあああ゛あ゛
ああぁぁ!? ああぁボスぅううう゛う゛うぅ――っ!!〉
〈院長戦〉
〈どっから声出してんだww〉
〈ボスゥーーー!! ww〉
いや、考えすぎだ。それに結局、僕が口を出すことではない。音無さんの横にいるのは、ただの仕事。勉強会と引き換えの、ただの契約。
「ああああイヤです! イヤですイヤでさぁああ゛あ゛ああ!!」
〈草www〉
〈最高すぎるww〉
〈絶叫芸人〉
気づくと、僕は【離席】のカードを出していた。