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第9話 再考・ブレイク

「ボクとしては攻撃力伸ばして霊をどんどん倒していきたいけど……この“バッテリー強化”ってなんだろう?」


 〈ヌルのシールド耐久力〉

 〈体力アプグレ課金(課金ではない)〉

 〈スキルにも使うHP〉

 〈HPとMP兼用〉


「なるほど、奔放民ありがとう! じゃあ最初はバッテリーかな。次はスキルと攻撃力ね」


 〈安定の安定プレイ〉

 〈判断が早い〉

 〈堅実院ユリーザ〉

 〈奔放院(奔放とは言っていない)〉


 音無さんは、頭の良さとゲーマー経験の長さを活かした手堅いプレイスタイルだ。システムの理解、プレイの丁寧さ、ストーリーへの深い感情移入。どれも見ていて心地良い。適度に上手く、詰まりはしてもイライラはしない絶妙なライン。そして……。


「ひ……ワ゛ァア゛ア゛アアァァァ――ッッ!! あ゛ぁっ!? ヴェっ!? やめて、やめてクダサイ! やめてくださぁあ゛あ゛ああぁぁ――ーッッ!!」


 それらをブチ壊すこの絶叫とキャラ崩壊である。サブディスプレイを、コメントの洪水が流れていく。


 〈草wwww〉

 〈腹痛いw〉

 〈ヤメテクダサアアアァァァ――ッッ!!〉

 〈涙出るww〉

 〈これよこれw〉


 確かにめちゃくちゃ面白い。舞台裏にいる僕ですら面白いのだから、観客であるリスナー、奔放民たちがこんな反応になるのも当然だろう。


「ひぁ……はぁ……やった? た、倒しまし……倒したぞ! やったぁ! ふふふ、見たかこのボクの強さ!」


 〈おめでとう!〉

 〈アレで上手いの草〉

 〈どういうことだよw〉

 〈婦長初見で倒せたのはスゴい〉

 〈パニック耐性付いた?〉


 驚くべきことに、あれだけ絶叫しながらもプレイ自体はそこまで影響がない。消極的になるくらいだ。だがこれは奔放民としても意外らしい。

 ……もしかして、僕がいるせいか? いや、それは自意識過剰か。


「あ、院長室の鍵! これはボスじゃないか?」


 〈そうかも〉

 〈どうだろうか〉

 〈準備はしとこう〉


 ネタバレは一切しない。相変わらず民度高いな。


「よし、じゃあ院長室に向かぉワ゛ぁっ! ああ、セーブポイント……」


 〈急にどうした〉

 〈俺らがビビるわw〉

 〈セーブポイントにビビるサキュバス〉

 〈よわよわで草〉


 正直、配信始める前まではまだ演技を疑っていた。だがもう疑いようはない。これは音無さんのだ。ナチュラルビビりだ。演技でやってるとしたらそっちの方がスゴい。くそ、かわいいが過ぎるぞ……。


「院長室来たぞ! 配信終了予定まであと30分。病院はクリアしたいな!」


 〈いけるいける〉

 〈いいペースだよ〉

 〈ユリーザ様がんばれー〉


 ふと、別の疑問が浮かぶ。

 ここまで怖がるなら、やはりホラーゲームをやる必要はないんじゃないか? アンケートで選ばれると分かっていて、なぜ入れるんだ。

 プレッシャー?

 自己犠牲?

 もし嫌なのに止められないのなら、それはブラック企業に勤めているのと変わらないんじゃないか?

 そして僕はそれに、加担しているんじゃないか?


 背筋が寒くなったのは、廃病院のせいではなかった。


 〈絶対ボスだこれ……あれ? 院長さん? ボスじゃないの? ……ア゛ュッ! やっぱあああ゛あ゛

 ああぁぁ!? ああぁボスぅううう゛う゛うぅ――っ!!〉


 〈院長戦〉

 〈どっから声出してんだww〉

 〈ボスゥーーー!! ww〉


 いや、考えすぎだ。それに結局、僕が口を出すことではない。音無さんの横にいるのは、ただの仕事。勉強会と引き換えの、ただの契約。


「ああああイヤです! イヤですイヤでさぁああ゛あ゛ああ!!」


 〈草www〉

 〈最高すぎるww〉

 〈絶叫芸人〉


 気づくと、僕は【離席】のカードを出していた。

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