――外では、指揮を執る大型の異形が、群れを引き連れて基地の壁を突破しようとしていた。
ユキが顔を上げ、震える声で言った。「……あれが……来る」
「ユキ、大丈夫?何か感じるのか?」アリスが気遣うように声をかけた。
「近くにいる……ずっと見てる……私たちを試しているみたい……」ユキが右の方向に目線を向けた。その視線の先には、基地の外れでうごめく巨大な2メートルの影があった。霧の中から徐々に姿を現したそれは、これまで見たどの異形とも異なる異質さをまとっていた。
その異形は、まるで筋肉を見せるように上半身だけ服はなかったが、同時に肩に弾丸ベルト。両腕に機関銃を担ぎ、肌茶色い輝きが不気味に放たれている。
隣の小さい子供は水色のポニーテールと目が揺らめくたびに金属的な輝きが一瞬だけ走った。子供の姿をしたその異形は、不気味に笑みを浮かべながら、手にした巨大なライフルをゆっくりと肩に担いだ。その動きはまるで人間のように滑らかで、冷静にこちらを見据えている様子が明らかだった。異形でありながら、そこに知性と意志を感じさせる視線が、空とアリスの背筋を凍らせた。
「あいつだ!?」
アリスが銃を構えながら声を震わせた。
「レオナ・ローレンス……死んだんじゃあ……」と空が低く呟きながら、視線をその異形に固定した。
「レオナ・ローレンス?」アリスが困惑した表情で空に問いかけた。「その名前……誰?」
空は目をそらすことなく、目の前に立つ異形に向かって銃を構えながら答えた。「俺のかつての仲間だ。だけど、死んだはずなんだ……あの日、俺たちが見たのは間違いなく……!」
空の声が震え、言葉を詰まらせる。その間にも異形と化したレオナらしき存在は、不気味な笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。その隣にいる小さな異形――水色のポニーテールを持つ少女のような存在が、レオナを守るように立ちふさがる。
「知ってるんだ、この人?」アリスが緊張の中で尋ねる。
「知ってるどころじゃない……彼女は俺の家族だった。誰よりも優秀で、誰よりも信頼してた……けど、彼女はもう……」
空の言葉に割り込むように、レオナの声が響いた――それはまるで人間らしい声のようだったが、どこか電子音のような不自然さを含んでいた。
「空……久しぶりね。私のこと、覚えてる?」
その言葉に、空とアリスは言葉を失った。レオナの口元はかすかに動き、その瞳には奇妙な光が宿っていた。
「どうして……生きてるのか?」空は震える声で問いかける。
「生きてる?違うわ。私はもう人間じゃない。この父上のお陰で異形の一部になったのよ。でも、こうしてあなたたちと再会できるなんて、皮肉なものね」
レオナはゆっくりと手を伸ばし、その指先から赤黒い光が放たれた。その光が周囲に広がると、群れを成していた異形たちが次々とその場で動きを止め、整然と並び始めた。
「操っている……!」アリスが驚愕の声を上げた。
「ちょっと惜しい。同じ種族と区別してるの。私たちには目的がある。あなたたちには理解できないけれど……」
レオナの隣に立つ少女のような異形が、鋭い目で空たちを見つめ、口元に奇妙な笑みを浮かべた。その姿にユキが震えながら呟いた。
「……あの子、殺しに来てる」
「何?殺し?」アリスが驚き、ユキを見つめた。
「分からないけど、あの子から感じる何かが……私の中でざわめいてる」ユキは自分の胸を押さえながら、言葉を絞り出した。
空は銃を構えながら叫んだ。「レオナ!その男から離れろ!その異形から君を取り戻す!」
その言葉に、レオナは冷たく笑った。「取り戻す?空……あなたは何も理解していないわ。私がこの道を選んだの。あなたたちと戦うためにね」
レオナが手を振ると、周囲の異形たちが一斉に動き始めた。その動きはこれまでの異形とは違い、統率された軍隊のような規律を感じさせた。
「くそ……まさかここまでとは……!」アリスが銃を構え直しながら叫んだ。
「全員、下がれ!戦術的撤退だ!」空が叫び、周囲の兵士たちに指示を飛ばした。
しかし、男が機関銃を持ち上げ、凄まじい火力でその場にいた兵士たちを薙ぎ倒していく。
凄まじい銃声が基地全体に轟き、地面に弾丸の嵐が降り注いだ。空とアリスは咄嗟に身を伏せながら、近くの岩場に隠れた。
「なんて火力だ……!あいつ、一人で軍隊並みじゃないか!」アリスが叫びながら銃を再装填する。
「あの奴……イカれてやがる」空は苦悩と怒りが入り混じった表情で呟く。
異形の男――機関銃を担ぐその巨体は、まるで戦場そのものを支配しているかのようだった。
その周囲には異形の群れが巧みに連携を取り、基地の防衛ラインを次々と突破していく。空とアリスは圧倒的な火力の中で必死に耐えながら、反撃の隙を伺っていた。
「これじゃ、まともに反撃できない……」アリスは息を切らしながら隣の空に向かって叫ぶ。「どうするの?このままじゃ全滅よ!」
空は歯を食いしばりながら、周囲の状況を一瞬で見極めた。「ここで止まれば全てが終わる!あのデカブツをまず止める必要がある……だが、あいつをどう仕留めるか……」
「そんなもん、向こうの弾薬尽きたら一気に攻め込むしかないでしょ!」アリスが叫びながら銃撃を続ける。
空はアリスの言葉に応じるように「まぁそうだな」空はバリケード越しに状況を確認し、敵の配置と動きを冷静に観察していた。その巨大な異形――機関銃を担ぐ男――が基地の壁に向かって一方的な火力を浴びせ続けている。その隣で水色のポニーテールを持つ少女のような異形は、冷静に何かを計算しているかのような仕草を見せ、指の本数で計算していた。
「やつら、単なる暴力だけじゃない。あの彼女のほうが何か大きな仕掛けをしようとしてる……」空は焦りを抑えながら言った。
「なら、あいつを優先的に潰すべきじゃない?でも、どうやって?」アリスが言葉を詰まらせる。
「アリス、君の俊敏さならあの少女に近づけるはずだ」と空が鋭く言った。「君がでかい方の注意を引きつけろ。その隙に俺が彼女を仕留めるんだ。」
「私が?確かに避けれそうだけど、油断するとやばい感じがするわ」とアリスが銃を構え直しながら応じた。
「大丈夫、君ならやれる。何か計画してるみたいだから、何かをする前に止めないと全滅するぞ」と空が力強く言い放つ。
アリスは一瞬躊躇したが、決意を固めるように頷いた。「分かった。全力でやる!」
空はアリスの背中を軽く叩き、「頼むぞ」と短く言うと、銃を構えて機関銃を持つ巨体の異形に向けて発砲を開始した。
「おい!こっちだ、化け物!」アリスが叫びながら弾丸を浴びせると、巨大な異形の注意が彼に向いた。機関銃を振り回しながら、アリスに向けて凄まじい火力を放ってくる。
「今だ」空はその隙を突き、遮蔽物から顔を出した瞬間、目の前から弾丸が飛んでくると岩場に掠れ、破片が飛び散った。
驚いた空は咄嗟に身を伏せ、レオナの方に目を向けると右手に拳銃を構えたレオナが、冷静に狙いを定めていた。彼女の目はかつての仲間だった頃の優しさを失い、不気味な青黒い光を放っている。
「空……あなたは昔から注意が足りないのよ」とレオナが静かに呟きながら、銃口を空に向ける。
「気付かないフリかよ……」
空は素早く身を伏せ、弾丸が彼の頭上をかすめていった。空は遮蔽物の陰からレオナに向けて銃を放った。しかし、レオナは弾丸を難なく避け、その動きはまるで人間を超越したものだった。
「レオナ、久しぶりに再会できたらお前と戦うなんて、思いもしなかったよ……!」
空は遮蔽物の後ろで息を整えながら叫んだ。銃声が響き渡る中、レオナは一歩一歩着実に前進し、彼を追い詰めていく。
「戦う?そうね……でも、あなたにはもう私を止める力なんてないわ」
レオナの声は静かだったが、まるで冷たい刃物のように鋭さを帯びていた。彼女の拳銃が再び火を噴き、弾丸が空の隠れるバリケードを粉々に砕いていく。
「くそ……あの動き、ただの異形じゃない。レオナの記憶と技術がまだ残ってる……」
空は頭の中で状況を整理しつつ、次の行動を考えた。
一方、アリスは巨大な異形の攻撃をかわしながら走り回り、その注意を引き続けていた。機関銃から放たれる弾丸が彼女のすぐ後ろを掠め、地面をえぐる音が響く。
「こんなの、いつまで続けられるのよ……!」
アリスは激しく息を切らしながらも、目標である少女の異形に少しずつ近づいていった。彼女は一瞬の隙を狙い、地面に身を伏せながら少女を観察する。
「こいつ……ただの子供の姿じゃない。完全に私たちを読んで動いてる……」
アリスはゾッとするような寒気を感じながらも、銃を構え直した。
その瞬間、少女がゆっくりと振り返り、アリスに目を向けた。その目は不気味な金属的な輝きを放ち、まるで彼女の思考を見透かしているかのようだった。
「やっぱり気付かれてるか……!」
アリスは叫びながら、少女に向けて発砲した。しかし、少女は驚くほどのスピードで動き、その小さな体で弾丸をかわしていく。
「こんなの、どうすれば……!」
アリスが戸惑っていると、少女が片手をゆっくりと上げ、空中に無数の光弾を生み出した。その光弾はまるで生き物のように動き、アリスに向かって襲いかかってくる。
「くそっ!」
アリスはその場を転げるように避けながら叫んだ。「空!どうにかしてくれ!」
空もまた、レオナとの撃ち合いの中で限界が近づいていた。彼の弾丸はことごとくかわされ、遮蔽物も次々と壊されていく。
「空……昔のあなたなら、こんな簡単に追い詰められなかったはずよ」
レオナが冷たく言い放ち、拳銃の狙いをさらに正確に定めた。
「昔の俺は……お前を仲間だと思ってたんだ!」
空は最後の弾倉を装填し、遮蔽物から飛び出すようにして反撃した。だが、その弾丸もまた、レオナに簡単に避けられてしまう。
レオナは冷笑を浮かべながら、空をじっと見据えた。「仲間?そんな甘い考えで、今の状況をどうにかできると思ってるの?」
空は深く息を吸い込み、歯を食いしばった。「レオナ……俺たちは、こんな形で再会するはずじゃなかった。お前を……取り戻してみせる!」
その言葉に、レオナの冷たい笑みが一瞬だけ曇った。だが、すぐにその表情を取り戻し、銃口を再び空に向けた。「取り戻す?空、あなたには無理よ。私の力を甘く見ないことね。」
避けるの精一杯なアリスは巨大な異形の攻撃を避けつつ、少女の異形に接近しようと試みていた。しかし、光弾が容赦なく彼女を追い詰めてくる。その動きは予測不可能で、避けるだけで精一杯だった。
「これじゃ手が出せない……!」アリスは必死に身をかわしながら叫んだ。「空、早くなんとかして!」
「分かってる!けど、俺だって手一杯だ!」空はレオナとの戦闘に集中しながら、叫び返した。
その時、ユキが立ち上がり、声を震わせながら叫んだ。
「やめて!もうこれ以上、戦うのはやめて!」
その声に振り向く大男は感心するように「ほぉー、随分と勇敢だね」と低い声で呟いた。その少女がユキの方を向き、拳銃をゆっくりと向ける。
「ユキ、下がれ!危ない!」空が咄嗟に叫ぶ。
しかし、既に遅く少女の異形が銃口をユキに向け、引き金を引いた。
一瞬の閃光とともに銃声が響き渡り、ユキのいる場所に弾丸が向かう。それに釣られるように大男は機関銃をユキの方に向けて撃ち始めた。
無数の弾丸の雨が地面や遮蔽物に激しく降り注ぎ、周囲が砂煙と火花に包まれた。
「ユキ!」空が叫びながらレオナを一瞬だけ振り返る。その隙を見逃さず、レオナは素早く空に狙いを定め、数発の銃弾を放った。
「くそっ!」隙を作れず、空は咄嗟に身を伏せたが、弾丸が右肩をかすめ、鋭い痛みが走った。
「空、大丈夫!?負傷してるじゃない!」アリスが叫びながら駆け寄ろうとしたが、巨大な異形の攻撃がそれを許さない。
「構うな!それより、ユキが!」空は痛みを押し殺しながら叫んだ。
弾丸が降り注いだその場所から、煙と土埃が晴れると、ユキは両手で頭を押さえながら屈むいていた。しかし、ユキの周囲には異様な静けさが広がっていた。地面には無数の弾痕が刻まれているものの、彼女自身には一切の傷が見当たらない。まるで弾丸がそのユキの身体に触れた瞬間に弾かれていたようだった。
「……何だ、これ……?」ユキ自身もその状況に気づき、驚きの声を漏らす。
「ユキ、大丈夫なのか!?」空が声を張り上げながら、肩の痛みに耐えて立ち上がる。
ユキは震える手を握りしめ、「大丈夫……、生きてる……?」と呟いた。その瞳は全くピンク色に光らず、元の透明な色のままだった。
しかし、その異様な状況にレオナが微笑を浮かべながら口を開いた。「やっぱり……君は特別ね、ユキ。私たちの側に来れば、その力を完全に制御できるようになるわよ」
「何を言ってるの?」ユキが困惑しながら問いかけた。
「君は選ばれている。私たちの一部になれば、この無意味な争いも、恐怖も終わる。君の力は、人間の中に収まるものじゃない……」レオナはまるで甘い誘惑のように静かに語りかけた。
「そんなわけない!」空が叫び、レオナに銃口を向けた。「ユキはお前たちの道具じゃない!俺たちは必ずお前を倒して、ユキを守る!」
「守る?空……まだ分からないの?彼女を守るには、私たちの側につくしかないのよ」とレオナは冷ややかに返す。
その瞬間、巨大な異形が再び動き出し、機関銃の追撃が再開された。アリスは再びその攻撃を避けながら叫ぶ。「空!時間がないわ!あの少女と大男を止めないと、ここは持たない!」
「分かってる!だが……ユキを安全な場所に退避させるのが先だ!」空は痛みを押し殺しながら叫び、ユキに向き直る。「ユキ、聞け!今すぐここを離れるんだ!」
「でも……私、あの子の声が……まだ聞こえるの。私の中に何かが……」ユキは胸を押さえながら苦しげに言った。
「いいから行け!ここにいると危険だ!」空がユキの肩を掴み、必死に説得する。
その時、アリスが叫んだ。「空!このままじゃ防衛ラインが突破される!何とかして!」
「分かった……アリス!ユキを頼む!俺が奴らを引きつける!」空は覚悟を決め、レオナと巨大な異形に向かって歩み寄った。
「待って、空!」ユキが手を伸ばそうとしたが、アリスが彼女を強く抱きしめ、「彼を信じなさい!」と言い放った。
空は銃を構え、レオナに目を向けた。「レオナ……お前を止める。どんな手を使ってもな!」
レオナは冷たい笑みを浮かべ、「いいわ、来なさい。あなたがどこまでやれるか見せてちょうだい」と呟いた。
その瞬間、空は全力で走り出し、巨大な異形とレオナに向けて銃弾を浴びせた。アリスはユキを安全な場所に退避させるため、必死にその場を離れた。
基地全体が崩壊の危機に瀕する中、空は一人で異形たちに立ち向かう。彼の中にはただ一つの思いがあった――「必ず任務を遂行する」という。空は前進を続けながら、弾丸を浴びせ続けた。
周囲の混乱が激しさを増す中、彼の視界には巨大な異形とレオナが立ち塞がっていた。異形の大男は機関銃を再び構え、火力の嵐を吹き荒らす。しかし、空はその攻撃を遮蔽物を利用して巧みにかわしながら、わずかな隙を狙って反撃した。
「レオナ!お前を止めるためなら、俺は何だってする!」空の叫び声が銃声に混じって響いた。
レオナは冷静に空を見据えながら微笑む。「あなた一人で?無駄よ、空。私たちの力は、あなたたちが相手にできるものじゃない。」
彼女の声が終わる前に、空は遮蔽物から飛び出し、レオナに向かって突進した。その目は、かつての仲間としての情を封じ込めた決意に満ちていた。
「お前がどう変わったとしても、俺には関係ない!」空は銃を撃ち込みながら叫んだ。
しかし、レオナはその弾丸を驚異的な反応速度で避けると、片手で空を押しのけるようにして反撃を開始した。彼女の動きは異形としての力を存分に活かしたもので、人間の空には到底追いつけない速度だった。
一方、アリスとユキは避難ルートを走っていた。
「ユキ、大丈夫?しっかりついてきて!」アリスが振り返りながら声をかけた。
ユキは息を切らしながら頷く。「……ごめんなさい、アリス。私が……」
「いいから謝らないで!あなたは何も悪くない!とにかく安全な場所に行きましょう!」アリスは強い口調で言いながら、ユキを引っ張るようにして進んだ。
しかし、その時、ユキが立ち止まり、耳を押さえた。「待って……声がまた聞こえる……!」
「何の声!?今はそんなこと――」アリスが言葉を切り、ユキの顔を見た。
ユキの瞳が再びピンク色に輝き始めていた。その光は以前よりも強く、まるで彼女自身が何かに目覚めようとしているかのようだった。
「ユキ……?」アリスは不安げに呼びかけた。
「……私、分かった……この力……私が使わなきゃいけないんだ……」ユキの声は震えていたが、どこか確信を伴っていた。
「そんなのダメ!あなたが何かする必要なんてない!」アリスがユキの肩を掴んで強く言った。
「でも、空さんが……空さんが戦ってる……私が……助けなきゃ……」ユキは涙を浮かべながらアリスを見つめた。
アリスは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。「……分かった。でも、無理はしないで。私も一緒に行くから!」
ユキは小さく頷き、2人は再び戦場へと引き返すことを決意した。
その頃、空はレオナと一対一の激しい戦闘を繰り広げていた。
彼は右肩の痛みを無視しながら、遮蔽物を使って巧みに反撃を繰り返していた。しかし、レオナの反応速度と力は人間離れしており、彼の攻撃はほとんど通用していなかった。
「さすがに疲れてきたんじゃない?」レオナが冷たく言った。「私の力を甘く見た罰よ」
「……罰だろうが何だろうが……俺はお前を止める……!」空は息を荒げながらも、銃を構え直した。
その時、基地全体が大きく揺れた。遠くの防衛ラインが崩壊し、異形の群れが一斉に侵入を開始していた。
「くそっ……!持ちこたえられないのか!」空が歯を食いしばった。
「空!」レナの声が響き渡った。
振り返ると、レナが戦場に戻ってきていた。その姿を見て、空は驚きの表情を浮かべた。「レナ!?どこ行ってたんだ!?」
「増援の指示と、施設の防衛ライン強化のために指揮を取っていたのよ!」レナが答えながら駆け寄る。彼女の手には高威力の対異形兵器が握られていた。
「でも、状況を見ていられなくて戻ってきたの。空、ここは一緒に突破するわよ!」
レナはその場で武器を構え、周囲に迫る異形たちに正確な射撃を加えていった。次々と倒れる異形たちを見て、空は一瞬息をついた。
「レナ……助かる。でも、レオナが相手だ。お前一人じゃ無理だぞ!」空は焦りながら叫ぶ。
「だから二人でやるのよ!あなた一人で抱え込む必要なんてない!」レナが強い口調で返す。
その間にもレオナは静かに2人を観察していた。「また新しい仲間が出てきたのね。いいわ、2人まとめて片付けてあげる」
レナが冷たい視線を返しながら叫ぶ。「お嬢ちゃん、私を舐めないでほしい。私は元……」
普段掛けてる丸眼鏡を外し、鋭い目つきを見せた。その目は、クールで冷静かつ鋭い光を放ち、異形の群れを見据えていた。レオナと目が合う瞬間一言放ち続けた。
「大韓民国警察警査だ」
レナの声は鋭く、彼女の全身から放たれる冷静なオーラに、周囲の緊張感がさらに高まった。
「この眼鏡を外すのは久しぶりね……空、行くわよ!」
レナは眼鏡を丁寧にポケットにしまいながら、全身に漲るような気迫を見せた。彼女の手に握られていた高威力兵器――試作型対異形ブラスター――は、通常の銃火器とは一線を画す異形専用の兵器だった。
「まさかその武器、使える状態なのか!?」空が驚愕の声を上げた。
「ええ、まだ試作段階だけど、やるしかないわ。時間がないもの!」レナが強い決意で答えた。
レオナの冷笑がさらに深まる。
「面白い。そんなおもちゃで、私を倒せるとでも?」
レナは構えを整え、無駄のない動きでブラスターを発射した。青白い光弾が飛び出し、まるで雷のような音を立てながらレオナに向かって直進する。しかし、レオナはその一撃を容易くかわし、さらに前進してくる。
「無駄よ……その程度の力で私を止められると思っているの?」レオナは冷ややかに言い放つと、空中に浮かぶような軽やかな動きでレナの射線を外れた。
だが、その瞬間――
「そう思わせるのが作戦なんだよ!」空が叫びながら、レナの一撃が生んだ煙の中から突進してきた。彼は手に持った手榴弾をレオナの足元に投げ込み、その場を跳び退いた。
爆発がレオナを中心に広がり、その周囲に強烈な衝撃を及ぼした。レオナは爆風に巻き込まれ、一瞬だけ動きを止めた。しかし、再び姿を現した彼女の体にはほとんど傷がついていなかった。
「やっぱり……普通の攻撃じゃ駄目か!」空は歯を食いしばった。
「だが、その隙は貰った!」レナが叫びながら再びブラスターを放ち、今度はレオナの左肩を直撃した。
彼女の肩が弾けるように黒い液体を噴き出し、レオナは一瞬だけ苦痛の表情を浮かべた。
「効いたな!」空が叫ぶ。
しかし、レオナはすぐに冷たい笑みを取り戻し、その傷口を自らの手で触れた。「効いたように見えるだけよ。けれど、それが限界では?」
彼女の肩の傷口から黒い液体が流れ落ちると同時に、それが再び肉を形成し始めた。その再生速度は驚異的で、あっという間に傷が塞がれてしまった。
「くそっ、これじゃ埒が明かない!」空は叫びながら銃を再装填し、次の攻撃の機会を伺った。
レナは冷静さを保ちながらも、眉をひそめた。「思った以上に厄介ね……この再生能力を持つ相手に、通常の戦術では限界があるわ。」
その時、ユキとアリスが戦場に戻ってきた。ユキの目には再びピンク色の輝きが宿り、その輝きは以前よりも強く、まるで彼女自身が力を完全に覚醒させたかのようだった。
「ユキ、戻ってきたのか!?何を考えてる!」空が驚きの声を上げた。
「私……私には分かる。この力を使えば、彼女たちを止められるかもしれない……!」ユキは震えながらも強い意志を感じさせる声で答えた。
「やめろ!そんなことしたら君自身が――」空が止めようとするが、ユキは強い瞳で彼を見つめた。
「大丈夫です、空さん。私がやらなきゃ……この戦いは終わらない!」ユキは一歩前に進み、ピンク色に輝く瞳をレオナに向けた。彼女の体からは、今まで感じたことのないような圧倒的なオーラが放たれ、周囲の空気が振動するのを感じた。
「あなた……何をするつもり?」レオナがその光景に一瞬だけ警戒心を抱く。
「私の中にある力……まだよく分からないけれど……これが戦いを終わらせるための鍵だと思うの!」ユキは深呼吸をすると、大きく息を吸った。
「ユキ、本気でやるのか!?」空が叫び、必死に彼女を止めようと駆け寄る。
しかし、ユキはその場に立ったまま静かに微笑んだ。「空さん。耳を塞いでください」
言われた通り、空とレナ、そしてアリスも一瞬の判断で耳を塞いだ。ユキの体から発せられるオーラがさらに強まり、その場の空気が一気に引き締まる。
「……行きます」
ユキはお腹を押さえて口を開けた。来る……と皆思っていたその瞬間、後から弾丸が通過音が弾けるように響き渡り、ユキのすぐ後ろを弾丸がかすめた。
誰かが撃ったのか、それとも罠だったのか。全員がその音に反応し、一瞬の静寂が訪れる。