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風の谷と七つの誓い
風の谷と七つの誓い
乾為天女
文芸・その他童話
2025年05月09日
公開日
8,612字
連載中
ある朝、青年・悠誠は古い宿で一枚の地図を見つける。「風の忘れ物」と呼ばれる伝説の存在。それは失われた“心のかけら”を探す旅だった。仲間は、思慮深い凪、軽口ばかりのゆうき、忘れん坊で行動派のかなこ、冷静なえいじ、直感的なまなみ、無口な努力家・だんご、そして記録好きのさとし。風の谷に足を踏み入れた七人は、「七つの誓い」を心に刻むことでしか先に進めないという試練に出会う。 恐れより信じること。違いを受け入れること。素直に謝ること。失敗を笑いに変えること。誰かに頼ること。感謝を伝えること。そして──旅が終わったら、何かを“持ち帰る”こと。 それは物ではない。自分自身の中に、確かに芽生えた「何か」。心の深くで静かに息づいていた風。その存在に気づいたとき、旅は終わり、“風の忘れ物”は、もう忘れ物ではなくなる。 風の谷は、心の中にあるもう一つの世界。

第一パート、「“風の忘れ物”の地図」

 あれは、風が歌っていた朝のことだった。

 太陽がまだ半分眠たげに雲の端に腰かけているころ、谷の奥深くにある「ことりの宿」では、一枚の地図がテーブルの上に広げられていた。

「これが……“風の忘れ物”の地図だよ」

 そう言ったのは、自由を愛し、いつもどこかへ旅に出たがっている青年――悠誠。彼の目は地図の中に吸い込まれそうなほど真剣だった。

「本当にあると思うの? “風の忘れ物”なんて」

 隣に座る凪が眉をひそめた。彼女は誰よりも思慮深く、伝説と現実を切り分ける判断力を持っていた。でも――彼女の胸の奥にも、どこか、まだ名前を知らない“希望”が揺れていた。

「あるさ。信じる心が、道になるんだ」

 ぽんと背中を叩いたのは、いつも軽口ばかりのゆうきだ。誰かに何か言われてもすぐに水に流すその性格は、旅に出る仲間の緊張を和らげるのに十分だった。

「ふふ、じゃあ、さっさと準備して出発しないとね! あたし、早起きしたから寝ぐせ取ってくるね!」

 そう言って部屋を飛び出していったのは、忘れっぽいけれど行動力なら誰にも負けないかなこ。テーブルの上には彼女のパンの欠片が散らばっていたが、誰もそれに突っ込まなかった。いつものことだからだ。

「ルート確認完了。必要物資は僕とだんごが整えてある。五分後に玄関前に集合を」

 冷静に言葉を告げたのは、えいじ。どんな状況でも慌てない彼の存在は、まるで隊の司令塔のようだった。

 そしてその隣では、まなみが空を見上げながらつぶやいた。

「風が、呼んでる。今日、きっとなにかが始まる」

「……そういうの、記録しておきなよ」

 ぽつりと呟いたのは、さとし。静かにノートを取り出して、まなみの言葉をそのまま書き留めていた。

 そして、最後にぬっと現れたのは、リュックを背負っただんご。彼は黙って指を一本立てた。

 一分早い到着――それが、だんごなりの「準備万端」の合図だった。

 こうして、七人と一匹(実はかなこのリュックに小鳥のピッピが乗っている)の旅が始まった。


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