今日も一日疲れたなあ。
夕食が終わり、洗濯をしながら食器を洗う。早く片づけてゆっくり休みたいものだ。面倒だからとだらだらやっていても終わらないので、出来るだけ急ぐ。食器を洗ったり片づけたりするのは、弟の涼と同棲している敏がやってくれたりもするのだが、いつもやってもらうわけにもいかないので自力でやるしかない。手早く終わらせなければ。すると、末の弟の輝が鼻歌を歌いながらおやつを探しにきた。さっき夕食を食べたばかりなのだが、成長期とはこんなに食べるものだっただろうか。俺にも成長期はあったはずなのによく覚えていない。
「輝、食器棚の右上にドーナツがあるぞ。昼間のおやつの残りだが食べるか?」
「うん、食べる食べる」
「ごはん足りなかったか。もう少しおかずを見直した方がいいか」
「いや、足りなくはなかったよ。お腹いっぱい食べたんだけど、何か小腹が空くのが早くて」
「そうか、やっぱり成長期なんだな。おかずを見直す必要がないなら、おやつを少し多めに用意した方がいいかもしれないな」
「ありがとう、翔兄」
輝はドーナツの載った皿を持つと、キッチンから立ち去った。俺は洗い終わった食器の水滴を拭き取り、片づけ始める。これから明日の弁当の準備をして、おやつの用意もしておかなければいけないか。弁当は献立が決まっているからいいとして、おやつはどうしようか。弁当用のごはんを多めに炊いて焼おにぎりでも作るか。温めて食べてもらおう。
「翔兄、ごちそうさま。そうだ、いおうと思って忘れてた。涼兄と敏が喧嘩してるみたいだよ」
「涼と敏が?」
「うん。事情はよく分からないんだけど、何か険悪なムードで二階に上がっていったよ」
「うーん。それは放っておいた方がいいのか、一応話だけでも聞いておいた方がいいのか。悩ましいな」
「放っておいていいのかなあ。結構雰囲気悪かったよ。話だけでも聞いてあげたらどうかな。涼兄が謝るとは思えないし、敏の方も結構頑固だし」
「それもそうだなあ」
やることが増えてしまった。輝は自室へ戻り、俺は食器を片づけ終えると紅茶を入れる。涼と敏のところへお茶を持って行くついでに話を聞いてこようと思うのだ。お茶菓子はあった方がいいだろうか。そういう雰囲気でもないんだろうな。だが、甘いものは心を和ませるというし、貰い物のクッキーでも持って行くか。はあ、何でこんな時に喧嘩なんかするんだ。疲れているのに。
俺は紅茶とクッキーを持って涼と敏の部屋を訪ねる。
「涼、敏。お茶入れたんだが」
涼と敏は背中を向け合っていた。思ったより面倒なことになっていそうだ。俺はローテーブルにトレイをおくと、そのまま座った。これは、輝のいう通り話を聞いてやらなきゃ拗れるな。輝って意外と人のこと見てるんだな。確かに涼の方からは謝らないだろうし、敏の背中からも謝らないぞという意志が伝わってくる。
「何があったんだ。あんなに仲がよかったのに背中向けて。輝も心配してるし、お互い謝って終わりにしないか?」
「俺、謝ることしてない。謝るのは涼の方だよ」
「俺だって謝らなきゃいけないようなことしてないよ」
「お互い悪くなくて、何でこんなことになってるんだ。原因は何なんだ」
二人は黙ってしまった。何だか嫌な予感がする。最近平和だから忘れていたが、涼はシモの方がだらしない。我が弟ながら恥ずかしいのだが、男だろうと女だろうと来るもの拒まずだ。もし、敏が他の男なり女なりとの絡みを見てしまったとしたら。
すると、敏が肩を震わせて泣き出した。もしかして、敏は泣き虫キャラなのか。
「涼が、涼が他の女とキスしてた」
「だから挨拶だってば」
「じゃあ、俺にしたキスも挨拶なんだね」
「いやいやいや、そこは違うでしょ。挨拶のキスと挨拶じゃないキスの区別も付かないの」
「つかないよ」
涼が浮気性で敏が嫉妬深い。そんな関係性がうっすら見えた気がした。どっちが悪いというなら、敏という恋人がいながら女に手を出している涼が圧倒的に悪い。だが、涼は自分から謝るということをまずしない。そもそも、涼は悪いことをしているという認識がないだろう。二股三股は当たり前という状態だったのだから。今、敏一人なのが珍しいのだ。
「原因は涼なわけだな。涼は敏にきちんと謝った方がいいな」
「何で俺が謝るんだよ。俺は何も悪いことしてないって」
「涼、一般的に恋人がいたら他の人間とはキスしないものなんだよ。お前が謝ればすべて丸く収まるんだが」
「やだ」
「敏、今回だけ見逃してやってくれないか。ちゃんと俺がいって聞かせるから」
「そうしたいのはやまやまだけど、どうしても許せないよ」
涼に謝る意志はないし、敏はそんな涼を受け入れられない。大丈夫か、この二人。このまま別れるとかいい出すんじゃないだろうな。そうなったら、涼は耐えられるのか。涼は今の状況を理解しているんだろうか。心配ではあったが俺にはこれ以上何もいえなくて、食器を片づけろよとだけいって部屋を出た。