円城寺家の食事は人数が多くてとても賑やかだ。円城寺三兄弟の他に、敏さんがいて、お向かいの風都家の住人も一緒なのだ。総勢七人にプラス僕、賑やかでないはずがない。いつもは楽しく食事をするのだが、今日は何だか喉がつまり気味である。輝が視線を送ってくるので、スープでさえも何かの塊を飲み込むようだ。目で涼に助けを求めるもスルーされてしまった。いつもはとても美味しい翔さんの料理が楽しめないまま、何とか食事を終えた。僕は食器をキッチンに持っていく。
「ごちそうさまです。後片づけ手伝いますね」
「いいよ。みんなでのんびりして来いよ」
「いえ、美味しいごはんいただいたんで手伝いたいです」
「じゃあ、俺が洗った食器を拭いて片付けてくれ」
「分かりました」
「この食器はまとめて棚の左下にしまっておいてくれ」
「はい、左下ですね。この辺りですか」
「そうそう。なあ、荘介。お前、さっきから何かそわそわしてるけど、何かいいたいことあるか?」
翔さんにそういわれてどきっとした。態度には出さないつもりでいたのに、しっかり出ていたらしい。僕は食器を片付けながら黙る。こんなこと翔さんに相談してもいいものだろうか。輝は翔さんの弟なわけで、その輝から告白されたなんていってもいいものなのか。けど、涼は今回この件に関してはあまりフォローしてくれないみたいだし、他に相談する人もいない。僕がしゃがんで俯いていると、翔さんは食器を洗う手を止めて、僕の横にしゃがみ込んだ。
「実は今日、輝にその、付き合ってほしいみたいなことをいわれて」
「そうか、そんなことだろうと思ったよ。で、荘介は何て答えたんだ?」
「保留にしてほしいと伝えました。輝は可愛いし気になる存在です。ただ気になるくらいで付き合っていいものかと思いまして」
「ちゃんと考えてくれてるんだな。よかったよ」
「保留にはしたものの、正直、僕はどうしたらいいか分からないです」
「輝に興味があるんなら、付き合ってもいいんじゃないか。茨の道にはなるが」
「茨の道?」
意味が分からなかった。輝は遊んでいると聞くから、そういう意味で茨の道なのだろうか。翔さんは僕の頭をぽんぽんと叩くと、食器洗いに戻っていった。僕は疑問に思いながらも隣で食器を拭く。何だかこう、もやっとする。どこかもやっとする。翔さんの表情を見ると、ちょっと困っているように見えた。もしかして、翔さんに相談したのは間違いだったか。翔さんは僕に食器を渡しながら、小さく唸った。
「兄としていうなら、輝はああ見えて寂しがり屋だから、そばにいてやってほしいと思う。荘介なら安心だしな」
「輝は寂しがり屋ですか」
「ああ、普段はそんな素振りは見せないけどな。男癖が悪いのも、寂しがり屋だからだと思ってるよ」
「そういえば、輝は遊んでるって聞きますね」
「そうなんだよ、おかげであんな苦労やこんな苦労を。荘介がそばにいて遊びがおさまるならと思う。勝手な話だがな」
「僕と付き合って落ち着きますかね」
「それは分からない。ただ、そうであってほしいよ」
翔さんがどんな苦労をしてきたのかは分からないけど、この様子を見る限り相当な苦労をしたに違いない。輝は寂しがり屋なのか。そんな風には見えなかったけど、両親を早くに亡くしているし、寂しい思いをしてきたのだろう。それで男に走っちゃう辺りが分からないんだけど。僕と付き合って、輝は変わるんだろうか。僕が輝の人生に少し影響を与えるのかもしれないと思うと、軽々しく付き合うとはいえないなと思う。
「ただ、覚悟だけはしておいてくれ。輝と付き合うのは大変だろうから」
「覚悟、ですか。男と付き合うってだけで、それなりの覚悟はいりますよね」
「遊びをやめない可能性を考えておいてくれ。荘介に一途になってほしいが、そうなるとは思えない」
「そう、ですか」
「まあ、寂しい思いばかりしてきたからな、愛情を求めるんだろうけど、男遊びはやめてほしい」
「苦労しているんですね。僕、輝のこと考えます」
「そうか、ありがとう。だが、くれぐれも覚悟だけはしておいてくれ」
念の上に念を押された感じである。ここまでいわれて、僕は輝と付き合っていけるんだろうか。でも、輝のあの笑顔が寂しさの裏返しだとしたら、僕は放っておけるのか。だいたい、輝のことはずっと気になっていたのだ。告白されて嬉しい気持ちと、戸惑いとが半々である。返事は保留にしてあるんだし、一旦ゆっくり考えよう。僕と輝のためにどうするのが一番いいのか。いろいろ考えているうちに片付けは終わり、僕はくつろぐみんなの話の輪に加わった。自分の心を確かめるように輝のそばに座ると、やっぱりどきどきした。輝のことが好きなのは確かみたいだ。