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第19話 僕のランクは・4

 涼が来てから三日が経っていた。輝にはまだ返事はしていない。自分がランク付けされるということに若干の抵抗を感じる。抵抗ではないかもしれない。ただ、自信がないだけだ。輝に選んでもらう自信が。ランキングに関係なく輝が好きだとはいったけど、どうせなら上位でいたいし、出来れば僕一人を好きでいてほしい。まあ、それは無理な話なのだろうけど。そんなとき、輝から遊びに行くと連絡が来た。輝が僕の家に遊びに来るのは初めてじゃないだろうか。きっと、返事を聞きに来るのだろう。


「荘介、遊びに来たよ」

「うん、緑茶しかなくてごめんね。来ると分かってたら紅茶かっておいたんだけど」

「大丈夫、僕は緑茶も好きだよ」

「よかった」

「で、いきなりなんだけど、もしよかったらこの間の返事聞きたいなと思って。保留のままでしょ。まだ心は決まらない?」

「心は決まったよ。輝と付き合いたいと思う」

「本当にいいの。僕の噂は聞いているんでしょ?」

「うん、それでも決めたよ。輝と付き合いたい」


 輝は満面の笑みを浮かべて、正面から隣に移動した。僕はようやく決めたのだ。輝と付き合おうと。ランク付けされるのは怖い。自分の評価がはっきりと分かるわけだから。けど、それも輝の判断だし輝の気持ちだ。僕はさっき輝の顔を見たときに、自分の気持ちに正直になろうと思った。それで、輝を大事にしようと。さっき、家を訪ねてきたときの輝、声は明るいけど不安そうだったから。


「荘介、ランキングのことは知ってるんだよね」

「うん、聞いたよ。十人くらいのランキングになってるって」

「よく変っていわれるんだけど、荘介は変だと思わないの?」

「変わっているとは思うよ。けど、それもひっくるめての輝だから」

「自分が下の方だったらとかは考えたりしないの。不安じゃないの」

「不安だよ。でも、下の方ならそれが今の僕の評価って納得するしかないよね。輝のランキングだから、輝が決めるんだし」

「抱きたいとは思わないの」

「思わなくはないけど、そういうことは無理にすることじゃないよ。評価されるまで待つよ」


 それが正直な気持ちだった。輝はどう思っているのか分からないけど、僕の評価が低いならそれは僕に魅力がないからだ。もっと、輝にとって魅力的な人間になればいい。それだけの話なのだ。輝はまた物理的な距離を縮めてきて、僕に寄りかかった。どうしたものだろうと思ったけど、とりあえず頭をなでておいた。輝はそれが嬉しかったのか、腕に絡みついて僕の肩口に頬を寄せる。


「上位三人とはしてもいいとはいってきたけど、一位ってずっと空けてたんだ。空席だったの」

「そうなんだ。ふさわしい人がいなかったのかな」

「そう。一位にしたい人がいなかったんだよね。でもね、最近やっと出来たんだよ、一位にしたい人」

「うん」

「荘介だよ。僕の一番は荘介」

「僕なんかでいいの。僕は男と付き合うことになれていないし、輝を満足させてあげられるかどうか分からないよ」

「それでもいいよ。荘介のそばにいたい」

「僕のそばにいて安らげるなら、いくらでもいていいよ」


 輝は僕を見上げる目を一瞬見開いて丸くした。僕の言葉に驚いたような表情だった。僕は驚かすようなことを何もいっていないのに。逆に、僕が驚かされたんだけど。輝が僕を一位にするなんて思わなかった。同時に一位以上の存在にはならないんだなあとも思った。そこまで望むのは欲張りかもしれないけど。出来ることなら、輝を独り占めしたかったなあ。


「何か嬉しいな。そばにいていいよなんていわれたことないもん」

「いわれたことないの。二位とか三位の人は一度もいわなかったの」

「うん、いわれなかったよ。二人とも忙しい人だったりするから、なかなか長い時間は一緒にいられなかったんだよね」

「それは寂しかったね」

「寂しい。寂しかったのかな、僕」

「そばにいていいっていわれたことがないっていったから、寂しいのかなって思ったんだけど」

「荘介は僕を寂しくさせないかな。一緒にいてくれるかな」

「うん、出来るだけそばにいるよ。輝が望むなら」


 輝は僕の首に両腕を巻き付けて、唇を重ねてきた。やっぱり、輝は寂しかったんだと思う。翔さんのいう通り。本人は自覚がなかったみたいだけど。自覚なく寂しくて、隙間を埋めるように次々に恋人を作ってきたんだと思う。僕と付き合うことで少しでも男遊びがおさまればいいのだけど。翔さんはそれを望んでいたし、輝自身のためにもその方がいいと思う。でも、僕は所詮はランキング一位の人なので、そこまで影響はないかもしれない。ただ、オンリーワンにはなれなくてもナンバーワンとして、僕は輝を大事にすると誓った。このちょっと寂しそうな子を。

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