奏に最近お前変わったなといわれた。具体的にどこがどうのといわないから、何がどう変わったのかは分からない。俺自身は変わったという自覚はないし他のヤツにもいわれないので、単に奏の勘違いという可能性もある。まあ、変わったところで俺は俺なんだが。そんなことを思いながら聖鐘学園の校門の前に車を止めて、あとりたちを待つ。今日は円城寺家の別荘に遊びに行くとかで、迎えに行くよう頼まれたのだ。翔は仕事だし、ひたきさんに時間はあるだろうがあとりが嫌がる。
「真昼、遅くなってごめん。今日掃除当番だったよ」
あとりと水鳥が校門から出てきた。が、輝の姿はない。一応三人まとめて連れてこいといわれてるんだが、あとりと水鳥は何の躊躇もなく後部座席に乗り込んだ。
「おい、輝はどうした。まさか、教師と遊んでるのか」
「輝なら遊びに行っちゃったよ。相手に送ってもらうとかいってたから、放っておいても大丈夫だよ」
「しかし、輝も節操ねーな。誰に似たんだ、あれ」
「いや、真昼にはいわれたくないと思うけどな。お前は男女構わずだからな。男だけにとどめてる輝の方がよっぽどましだよ」
「酷いな、あとり。何か今日はめっちゃにらんでくるし」
「あとり、コンタクトしてないんじゃないの。似合わないとかいわないでメガネかけなよ。見づらいでしょ」
「嫌なんだよなあ、メガネ。本っ当に似合わないから」
ミラーで様子を見ると、あとりはかばんをごそごそとあさっている。メガネを探しているようだ。そういえば、あとりのメガネ姿は見たことはない。そもそも、コンタクト愛用者だということも知らなかった。あとりは渋々といった感じでメガネをかける。本人は似合わないから嫌だなどといっていたが、似合っている。めちゃくちゃ似合っている。可愛いじゃないかあとり。これがメガネ萌えってヤツか。
「おい、真昼。お前、今メガネ萌えとか思ったんじゃねえだろうな」
「確かに思ったが、思うくらいいいだろうが。可愛いぜ、あとり」
「ぶち殺す! いっぺん地獄見るかコラァ」
「まあまあ、あとり落ち着きなよ。ただでさえ、真昼の運転荒いんだから、暴れないでよ」
「あ、暴れてないよ。真昼が変なこというから、つい」
「だって、本当に可愛いと思ったもんよ。可愛いっていって何が悪いんだ?」
「可愛いってさ、あとり。だから、暴れないでよ。だからってメガネも外さないでよ、裸眼じゃよく見えないんだから」
「暴れてもいいぞ。どこか壊れても奏の車だしな」
そういうとあとりは大人しくなった。俺は車を持っていないため、今日は奏の車を借りてきたのだ。ちなみに、奏は俺のバイクで出勤した。そういうと、水鳥は奏がバイクに乗ってるところ見たかったなあという。こいつら最近つきあい始めたんだった。奏は女の子たちと縁を切ったらしく、すげえなと思っている。あれだけ遊んでいたのに、ぴたりとやめたんだから水鳥に対する想いが分かる。しばらくして、俺はのどが渇いたというのでコンビニの前で車を止めた。
「何か飲み物を買ってくるよ。水鳥も真昼もお茶でいい?」
「悪いな、あとり」
あとりは車を降りて、コンビニに入っていった。
「真昼、さっきから運転怖いんだよね。どうにかなんないの?」
「仕方ないだろ、普段はバイクだから車の運転は慣れてねーんだよ」
「いや、そういう意味じゃなくてさあ」
「どういう意味だよ」
「ずっとミラーばっかり見てないかな。正確にはあとりの方ね。乗ってて怖いから、もう少し前見て運転してよ」
「俺、そんなにあとりのこと見てたか?」
「今に始まったことじゃないよ。最近ずっとそうだからね」
そうだろうか。指摘をされて初めてあとりを意識した。そういわれてみれば、今この瞬間もコンビニの中にあとりの姿を探している。何だか、急に動悸がしてきた。落ち着け、俺。ミラー越しに水鳥を見ると、何か意味ありげに微笑んでいる。何だっていうんだ。あとりはお茶の入った袋を下げて戻ってきた。
「ほら、お茶買ってきたよ。水鳥、こいつ変なこといってなかった?」
「メガネ姿を愛でたいとしかいってなかったよ」
「あん、何だって?」
水鳥のヤツ適当なこといいやがって。無駄に一発殴られたじゃねーか。確かに、メガネ姿を愛でたいことに変わりはないんだが。あとりが帰ってきた途端、心臓が大騒ぎになる。運転に集中しないといけないのに、あとりが気になって集中出来ない。水鳥からは運転が荒いっていうクレームが入りっぱなしだし、どうしろっていうんだ。俺は頭の中がパニックになりながらも、二人を円城寺家の別荘に送り届けた。帰り道、心臓は急に静かになった。あとりのメガネ姿を思い出したときだけ、騒いでいた。