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第26話 初恋・3

 今日はマミが忙しくてメシの支度が出来ないため、ユキがメシを食いに来ている。献立は雑穀ごはんにしじみの味噌汁、サバの塩焼きにほうれん草のお浸しに切り干し大根。俺の好物ばかりだ。ユキは俺に用もあったようで、酷い仏頂面で食卓についた。俺に文句があるのか、ただ単にメシを食うときのいつもの仏頂面なのかが分からない。


「ユキ、あとりのことで話ってなんだよ」

「おい、とりあえずお前ら二人ともメシを食う前に、その鬱陶しい髪を結べ」


 奏はメシのとき、髪の長い人間は必ず髪を結ばせる。髪の長い奏本人が真っ先に結ぶので、誰も文句はいえない。俺とユキは仕方なく渡されたゴムで髪を結んだ。こうやって見ると、俺が赤で奏が金髪、ユキが青。信号機みてーな髪の色だ。


「とりあえず、初恋おめでとうな」

「うるせーよ。いきなり嫌味かよ」

「相手はあとりなんだろ。初恋っていうからには本気であとりのことが好きなのか」

「本気だよ」

「お前ら、メシを食うなら黙って食え」

「ちょっと待て、坂戸。メシは楽しく食うもんだろ」

「その表情で食ってて楽しいのかよ。だからお前にメシを食わせるのはつまらないんだ。それはいいとして、お前らするんだったら楽しい話にしろよっていうんだ。楽しい話なら俺も喜んで加わるから」


 まあ、メシを食うときに仏頂面だったり、楽しくない話をしてもメシは美味くないわな。奏のいうことも分かる。どうせ作ったんなら美味しく食べてほしいだろうし、こっちだって美味しく食べたい。問題はユキってことだ。あとりについて話があるとかいってるけど、どこからその情報を得たんだ。俺が初恋だってことはバレてるが、相手があとりだということは誰にもいっていない。それとも、ハタから見てバレバレなのか。水鳥も意味ありげに笑ってたしなあ。


「お前、あとりを本当に幸せに出来るのか?」

「するよ。そのつもりだよ。けど、お前はさっきから上から目線で何なんだよ。何様のつもりだ?」

「俺様でも神様でもいいだろ。あとりの幸せを願っているとだけいっておく」

「何なんだよ、それ」

「いいから食えよ、二人とも。真昼、ユキはあとりのことを心配しているだけだ。それ以上でも以下でもない」

「心配なあ。俺があとりのことを好きだと心配になるもんか?」

「なる。あとりの幸せを願っているとはどういうことか分かるな」

「おい、二人ともおかわりはいらないのか?」

「このタイミングでそれかよ、奏」

「俺はおかわりするぞ」

「ユキはいるのな。真昼は」


 俺は文句をいう気も失せて茶碗を差し出した。あとりのことを心配している、あとりの幸せを願っているとユキはいう。けど、それは何でだと考えた。もしかして、ユキはあとりのことが好きなのか。あとりの方もユキに懐いていたと思う。あとりはユキみたいなタイプが好みなんだろうか。いや、確か彼女と別れたと聞いた。ユキとは何ともないだろう。だいたい、ユキにはマミがいるじゃないか。ユキが仮にあとりを好きならマミは何だって話になる。


「聞いておきたいことがある。お前はあとりと付き合う気があるのか?」

「それはあるだろうよ、もちろん」

「お前今のままあとりと付き合うっていうなら、俺は全力で阻止する」

「真昼には悪いが、ユキの意見に俺も賛成だ。今の状態で付き合うっていうなら俺も止める」

「何でだよ」

「自分の胸に手を当てて考えてみろ。あとりと付き合う気なら、今の遊び相手全員と縁を切れよ。でないと絶対認めないからな」

「全員と縁を切るってどういうことだよ」

「俺もユキのいう通り、遊び相手とは縁を切るべきだと思う」

「あとりを泣かせたらただじゃおかないぞ」


 こいつ、本当にあとりのこと好きだな。だからしつこくいうんだ。けど、何でだ。いつもみたいに付き合うんじゃだめなのか。俺は切り干し大根をかみしめる。あとりだけ会う回数を増やすとか、それじゃあダメなんだろうか。ダメなんだろうな。難しいんだな、付き合うって。


「分かっているのかいないのか」

「何しろ初めてだからな。作法が分からないんだろ」

「遊びのヤツらを切らないとあとりが悲しむ。そういうことか?」

「そうだ」

「それなら全員と縁を切ってやるよ。その上で告白すれば問題ないんだろうが」

「全員と切れないまま付き合ったらどうなるか、分かるな」

「ユキ、その辺は俺が監視しておくよ。心配するな」


 兄に監視される俺。全く信用されていない。あとりを傷つけたくないので、俺は遊び相手と縁を切る決心をした。ここまでいわれたらやらなきゃならないだろう。そこで一つ疑問が。どこまでを遊び相手と呼ぶんだ。それがまず分からないんだが。とりあえず、よく会ってるヤツから順番に縁を切っていこう。あとりを諦める気はさらさらない。ユキがあとりのことを好きだとしても、あとりがユキに懐いていても。

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