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第34話 円城寺家の飲み会・1

 今日は父さんと母さんの命日だった。いつもだったらおじさんやおばさんが来るんだけど、今日は忙しいらしく来たのはイトコの銀次郎と月菜の二人。一番下の愛菜は風邪を引いて来なかったし、ちょっと寂しい命日である。俺と翔に、銀次郎と月菜の大人が四人集まったということで、バールームで飲むことにした。翔はちょっとしたおつまみを用意し、銀次郎がカウンターの中に入りお酒を用意する。それじゃあ、いつもの仕事と変わらないだろうに。こういうときくらい翔に任せちゃえばいいのに。


「お父さんがおじさまとおばさまの命日に来られなくて申し訳ないっていっていたわ」

「おじさん忙しいんだろ。気にしないで欲しいって伝えてくれ」

「残念だなあ、おじさんと飲むチャンスだったのに」

「お前、うちの親父をつぶす気か?」

「月菜、口が悪いわよ。涼は親と飲みたかったっていってたものね。うちのお父さんでよければ」

「うん、おじさんは父さんとそっくりだし、いつも面白い話してくれるし、今度一緒に飲もうって伝えて」

「さ、簡単だがおつまみも作ってきたし、飲むか」


 飲むか、なんていってるけど翔はあんまりお酒が強い方ではない。缶ビールにして二本も飲めば寝てしまうのである。銀次郎はそこのところをよく分かっていて、めちゃくちゃうっすい焼酎の水割りを作っていた。月菜はグラスに注がれたビールを一気に飲み干すと、美味いと満足げだ。銀次郎と月菜は正反対である。銀次郎は美女な男だし、月菜はカッコいい系の女子。生まれてくる性別を間違えたように思える。


「翔は最近うちの店に来ないけど、お仕事は順調?」

「ありがたいことにな、おおむね順調だよ。銀次郎はどうなんだ?」

「私は相変わらずよ。人のいいお客さんも、面倒なお客さんも来るわ。それに、私を口説きに来るお客さんもね」

「銀次郎を口説きにくるって相当な変わり者だな」

「月菜、銀次郎って結構モテるんだよ。美人だし、人当たりもいいしね」

「何だ、涼も銀次郎が好みか?」

「俺は敏一筋だよ。一部の好みの話だよ」

「おい、涼。敏とは上手くやってるのか。今朝、泣いてたように思えたんだが」


 うん。女の子と遊んでるところ見られちゃったな。敏が泣くから昨日は寝られなかったのだ。今日も泣いてるようなら翔のところに避難しないと。翔の顔を覗き込むと、俺のところには来るなよといわれてしまった。全く、どうしろっていうんだ。輝は荘介のところに行くだろうし、俺の行く場所がないよ。銀次郎は呆れたように俺の顔を見ている。銀次郎とはちょくちょくあって話をするから、だいたいの関係性は分かっているんだろう。


「涼、翔のところに泊まりにいったりするのか?」

「まあね。うちは兄弟仲がいいから、一緒に寝たりもするよ」

「いいなあ、兄弟で一緒に寝るとか。俺は愛菜と寝たいよ、愛菜と。あの可愛い寝顔を」

「やだあ、月菜ったら。愛菜の寝顔ならわざわざ一緒に寝なくたって、昔さんざん見たじゃない」

「そういう意味じゃねえんだけどな。今見たいんだよ、今」

「確かに、愛菜は可愛いからなあ。寝顔見たら癒されるんだろうな。うちには妹がいないからよく分からんが」


 違うよ、翔。月菜は可愛い妹だから愛菜の顔が見たいんじゃないぞ。そいつは愛菜を真剣に想うオオカミだ。全く、姉としての自覚が足りないよね。そこは我慢すべきだよ。銀次郎と月菜は変わってるけど、愛菜は普通の女の子なんだから。


「妹っていうか、愛菜なんだよな。あんなに可愛い女がいないぞ」

「でも、怖いお姉さんがついてるせいかフリーだよね」

「当たり前だろ。愛菜に彼氏なんて冗談じゃない」

「あらあ、奇遇ね。私もその意見には賛成だわ。愛菜に彼氏は早いわよ。大学生くらいになってからでいいんじゃないかしら」

「ふうん。愛菜なら大丈夫だよ。好みのタイプが翔だからね」

「何だよ、それ。愛菜の好みが俺なんて聞いたことないぞ」

「聞いたことないだろうね。翔本人にはいえないだろうから」

「涼、いつ愛菜の好みのタイプなんて聞いたの。私たちだって知らないわよ」

「いつだったかな、みんなで集まったときに翔のこと見てたから、カッコいいよねっていったら、恥じらいながらうんって。で、好みのタイプなのっていってたよ」


 隣の月菜が誰にも聞こえないような小声で一言、悪趣味といった。悪趣味ではないと思うけど。翔はこれで結構モテる。愛菜の好みのタイプが月菜だったら、いろんな意味でマズいだろう。翔の方が平和でいいと思う。高校生くらいのときって、カッコいい近所のお兄さんとか親戚のお兄さんに憧れるもんよ。月菜は悪趣味と繰り返し、銀次郎は驚いているけど、俺的には普通かなあと思う。これが憧れの相手が俺っていうんだったら、悪趣味とも思うけど。

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