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第37話 サプライズ・2

 日曜日に、僕はマミちゃんの家を訪ねた。すると、何故だかそこには真昼もいて、並んでお茶することになった。お茶菓子が出てきたので見てみると、昨日円城寺家で食べたのと同じ物なので、マミちゃんではなく奏が作ったものだろう。マミちゃんはお菓子は作らないのかな。真昼はお茶菓子を摘みながら、茶をすする。僕はマミちゃんに今日訪ねた理由をかいつまんで説明した。そして、お菓子が作りたいと力説する。するとマミちゃんは腕組みをしてうんうんと頷いた。


「なるほど。水鳥ちゃんはサプライズで奏にお菓子を作りたいんだね」

「それは奏が喜ぶと思うぞ。水鳥が作ったもんなら焦げてても炭になってても食うぞ、あいつ」

「出来ればちゃんとした物を食べさせたいよ。ていうか、何で真昼がここにいるの」

「マミの服作るのに採寸しにきた」

「サイズは全然変わってなかったけどね」

「流石、マミちゃん。体型全然変わらないとか」

「今は僕の体型より水鳥ちゃんの話だよ」

「お菓子ならマミが作れるんじゃないか。何でもいけるだろ」

「お菓子作りは専門外だよ」


 やっぱりそうだったか。マミちゃんは料理はするけど、お菓子は作らないのか。うーん。どうしたものかなあ。この企画は無理ってことなんだろうか。すると、マミちゃんがちょっと待っててといって、本棚から一冊の本を取り出す。見せてくれたのはお菓子作りの本だった。しかも、初心者でも簡単とか書いてある。これは希望の光なのでは。初心者でも簡単ってことは僕でも作れるってことじゃなかろうか。


「この本を見ながらなら教えられると思うよ」

「あれ、マミってパティシエの友達いなかったか?」

「あいつは流石に忙しいよ。僕で我慢しておいてよ」

「そこまでのレベルは求めてないよ。普通に食べられる物が出来れば、それでいいんだ」

「奏に美味しい物食わせてやりたくないのか?」

「食べさせたいけど。結局、作るのは僕だからね。僕の腕じゃ普通に作るのが精一杯だと思うよ」

「食べられる物っていうんなら誰にでも作れるよ」


 マミちゃんはそういって僕の頭をなでてくれた。心強い言葉である。ひたきや涼みたいな料理音痴ではないと思うけど、キッチンに立つことはめったにない。そんな僕でもちゃんと食べられるお菓子が作れるのかが心配だった。マミちゃんに教えてもらえば出来そうな気がする。マミちゃんはぱらぱらと本のページをめくる。本にはいろいろなお菓子が載っているようで、何ページか開いて見せてくれた。


「水鳥ちゃんは何が作りたい?」

「見映えするのはケーキとかじゃねーの?」

「お前はバカなのかい。そんなもの素人には作れないよ」

「マミちゃんのおすすめは何。僕に作れそうなものって何だろう」

「クッキーとかなら作れると思うよ。挑戦するならちょうどいいかな」

「でもよ、クッキーだけってのも何か寂しくないか?」

「おまけとしてゼリーでも作るか。焼き菓子と冷たいお菓子で。ゼリーなら簡単だしね」

「いいね、クッキーとゼリー」


 僕はお菓子作りのクッキーのページを見せてもらった。手順ごとに写真も載っていて、たぶん分かりやすい。マミちゃん曰く、分量をきちんと守ればそうそう失敗はしないものらしい。本当はココアとプレーンの渦巻きとか、少し凝った物が作りたいけれど、今は無理そうなので簡単な型抜きクッキーにする。クッキーの型はマミちゃんがいくつか持っているらしいので、それを借りることにした。マミちゃんはお菓子作りが苦手なんじゃなくて、単純にあんまり興味が持てなくて、チャレンジしたもののやめたんだとか。


「決行はいつにするんだ?」

「水鳥ちゃんの予定にもよるね。練習はうちでしようか。オーブンもあるから、材料がそろえばすぐに練習出来るよ」

「いいの、マミちゃん」

「今の気持ちを大事にしたいなら急ごうか。今週の平日にうちで練習して、今週末に決行」

「なるほどな。じゃあ、水鳥が来る日は俺が奏をつかまえておいてやるよ。いきなり来ていきなり渡す方が面白いだろ」

「確かに、その方が面白いね。じゃあ、奏は任せたよ、真昼」

「じゃあ、時間ももったいないし、今日は僕の家にある材料で練習しようか」

「いいの?」

「いいよ。僕で力になれるのなら」


 それから、マミちゃんの家にある材料でクッキーを作ってみることにした。最初なので流れを覚えるという意味で、工程のほとんどはマミちゃんにやってもらう。僕はほぼほぼ見ているだけだ。合間合間に、マミちゃんが説明をしてくれるので、僕はそれをメモしていく。僕はこの本を見ながら一人で作れるようにならなければならないのだ。一週間、僕はマミちゃんの家に通って練習することになる。その間、奏には寂しい思いをさせてしまうけれど。きっと喜んでくれると信じて頑張る。

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