今日はうちの別荘にみんなで集まって泊まりがけで遊ぼうということになっている。俺は今日は仕事が早く終わったので、高校生たちを迎えにきたのだが、今のところ通りかかる気配はない。学校にまだいたらと思うと迂闊に連絡も出来ないし、困ったものだ。うーん。もう少し校門の前で待っていようか。しかし、ここに車を止めて待つなっていう学校側の規則があるから、長い時間は待てないが。通りかかるの待つくらいなら問題はないか。何かいわれたら移動すればいい。どうせ掃除当番か何かなのだろう。しばらく待っていると、ちょっと色素の薄い美少年が近づいてきた。
「翔さん、こんにちは」
「おお、夕羽斗じゃないか。今帰りか?」
「はい。今日は円城寺家の別荘に遊びに行く日ですよねえ」
「ああ、あとりから聞いたのか。そうなんだ、今日は別荘に行く日だから迎えに来たんだが、みんないなくてな。今日は掃除当番か何かなのか?」
「ああ、今来たんですかあ。だったら会わなかったかもですねえ。あとりと水鳥は真昼さんの車で現地に向かってます。輝は誰かと向かうとかいってました」
「そうだったのか。知らせてくれてありがとうな、夕羽斗」
おいおい、それなら俺が迎えに来なくてもよかったんじゃないか。全く、あとりも水鳥も真昼が迎えに来るならいってくれよ。それと、輝はどこに行ったのだ。どこに行ったのだじゃない。誰と一緒にいるんだ、だ。変な男につかまっていなければいいのだが。一応、遊ぶなとはいわないが、ほどほどにはして欲しい。いつも心配する俺の気持ちにもなって欲しいものだ。いつか輝が何かに巻き込まれて傷つくんじゃないかと思うと気が気じゃない。
「じゃあ、僕は行きますねえ。楽しんでくださいね、翔さん」
「夕羽斗、よかったら遊びに来るか。遊びに来てもお茶飲んだりするだけで面白くないかもしれないが」
「いいんですかあ?」
「乗れよ。で、まずは家に連絡入れておけ」
「はい、分かりましたあ」
夕羽斗は助手席に乗り込むと、スマホを取り出して家に連絡しているようだ。俺は車を出す。輝たちが乗ってきたら、どうせ飲み物をねだられるんだろうなと思っていたから、あらかじめ何種類かの飲み物を買ってあった。夕羽斗に好きに飲んでくれというと、サイダーを手に取ってこれをいただきますねと笑った。礼儀正しい、いい子である。話によると夕羽斗も遊んでいると聞くが、そういうイメージは一切ない。
「輝が心配だな。遊んで変な男に引っかからなきゃいいんだが」
「大丈夫ですよう。輝は結構しっかりしてますし。今日は確か、四番目の人と会うといっていたような」
「四番目って何だ?」
「四番目の恋人ですよう。輝は誰彼かまわず会っているんじゃなくて、ちゃんと自分で決めた恋人とだけ会ってますよ。だから大丈夫。僕とは違う」
「その恋人が四人はいるっことだろ。それが心配なんだよ。それと、夕羽斗もな。誰彼かまわず会うんじゃないぞ」
「ふふふ、叱られちゃいましたねえ」
「親は何もいわないのか?」
「うちは母さんが忙しいんで、僕を叱ってる暇もないですよう。その上放任だから、何もいわれないです」
確か、夕羽斗のところは片親だったな。お母さんが忙しくて何もいわないか。夕羽斗は寂しいんじゃないだろうかなどと勝手に推測してしまう。寂しくて遊んでるなら、うちの涼や輝と似ている気がして少し胸が痛い。信号が赤になったので、夕羽斗を見やるとサイダーを飲んでから、こちらを見た。視線を感じたのかもしれない。そう思うと急に恥ずかしくなった。向けられた笑顔が眩しく感じたのだ。本当に綺麗な子だ。何だかどきどきしてしまう。
「今日はお泊まり会ですかあ?」
「あ、そういえばそうだった。あとで送るのも面倒だな。家に連絡して泊まってもいいかどうか聞いて欲しい」
「母さんは仕事だし、返事はないと思いますよう」
「それでも連絡だけ入れておけ。あとで見たときに安心するだろ。どこにいるか分かるだけで安心するものだよ」
「そうですね。連絡入れておきます」
「うん、いい子だな」
「家に連絡するだけで褒めるんですねえ。僕、あんまり褒められたことないから新鮮です」
「そうか。うちではこれが普通なんだが」
「輝が羨ましいですよう」
夕羽斗といろいろ話しているうちに別荘に着いた。あとりと水鳥はもう着いていて、輝は少し遅れると連絡があった。俺はついてすぐに晩ごはんの支度に取りかかる。いつものメンバーに坂戸と真昼、小早川と高津。それに荘介が来るし、途中で拾ってきた夕羽斗もいる。この人数の食事を作るのはそれなりに時間がかかる。と思ったら、高津がヘルプにはいってくれたので、少し負担は減った。問題は後片づけなんだが、これは坂戸にも手伝ってもらおう。