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第40話 間違いの延長・2

 輝は無事に食事に間に合い、みんなで食事をしたあとお喋りを楽しんでいる。俺は後かたづけに追われていた。結局、水鳥と幸せそうに話している坂戸に声をかけるわけにいかず、高津と二人で片づけをすることに。ごはんの支度も手伝ってもらったので悪いなと思ったが、一人で片づけるには食器が多い。俺が食器を洗って高津が片づけていく。息はそれなりに合っているようだ。


「翔、今日は部屋割りどうするの。くじ引きだとカップルから文句が出るし」

「そうだなあ。適当でいいんじゃないかな。高津は小早川とがいいんだろ」

「どうだろう。ユキが僕でいいっていうなら同室でいいけど」

「積極的じゃないな」

「いろいろあるんだよ。ところで、夕羽斗を連れてきたみたいだけど、部屋どうするの。一人でおいとくわけにいかないでしょ。ここに慣れてないんだし」

「そうだなあ。連れてきたのは俺だから、俺が同室でいいんじゃないか」

「へえ、涼じゃなくていいんだ」


 高津はそういうと悪戯っぽく笑った。涼と同じ部屋なんかにしたら、敏が泣くだろうし、俺は眠れないだろう。誰も得をしない選択である。片づけは高津のおかげで早く終わり、俺たちも会話に参加した。楽しいお茶の時間だった。楽しい時間はあっという間で、そろそろ寝ようかという時間になる。俺は夕羽斗に声をかけ、俺がいつも使う部屋へ連れて行った。学校から真っ直ぐ来たので、俺のパジャマを貸す。


「翔さん。よろしくお願いしますねえ」

「ああ、こちらこそよろしく。夕羽斗はどっちのベッドを使うんだ?」

「僕は翔さんと同じベッドがいいです」

「冗談いってないで選べよ。俺はもう片方を使うから」

「一緒に寝てくれないですか」

「お前、そうやって甘えるのか」

「僕がこうやって甘えることは多くないですよう。相手が翔さんだから甘えてるんです」

「そんなこといったってダメだぞ」


 夕羽斗はそうですかといってしょんぼりするとパジャマに着替えた。何だか、涼に似た感じがする誘い方だなと思う。もし、これが涼でも拒否していたわけだが。俺は制服をハンガーに掛ける夕羽斗に背を向けてパジャマに着替える。そのとき、ふっと後ろから夕羽斗が抱きついてきた。振り払うことも出来たが、それでは傷つくかと思い、そっと逃げようとするが逃がしてくれないようだ。


「寂しいんですよ。どうしていいか分からないくらいに」


 夕羽斗は泣きそうな声でそういった。これが誘い文句だとは思えなかった。正直な、夕羽斗の気持ちなのだろう。胸が締め付けられる。結果、俺は気がつくと。


「俺は何をやっているんだ」

「翔さんはやっぱり優しいです。触れ方が優しい人って珍しいんですよ」

「お前、普段どんな相手とそういうことしてるんだよ」

「内緒です。でも、こんなに大事に扱われたことはないですよう」

「夕羽斗、このことは」

「なかったことにはしませんよう。けど、誰にもいいませんから安心してください」


 こんなことが知れたらどういう扱いを受けるか、想像するだに恐ろしい。俺が連れてきて同室にして、こういう関係になってしまった。最初からそのつもりだっただろうといわれても反論のしようがないのだ。俺は頭を抱えてしまった。高校生に手を出すとかどうかしてるだろ、自分。どう責任をとれというんだ。その場の雰囲気に流されるとろくなことにならないとはこういうことか。


「ねえ、翔さん。僕はずっと貴方のことが好きでした」


 夕羽斗はそういって身を寄せた。


「いや、お前は子どもだし」

「子どもは抱けても付き合えませんか。僕一人を見てくれなんてワガママはいいません。涼さんのことを見ていてくれてもいいです。ただ、そばにおいてください」

「涼のことは誰から」

「輝です。翔さんのことが好きなのだと話したら、こっそり教えてくれました」


 いや、ダメだろう。涼のことを好きでいながら、高校生の夕羽斗に手を出すとか。ダメすぎて落ち込む。そんな俺にすり寄る夕羽斗。この色素の薄い綺麗な目に心が乱される。この目で見られるとおかしくなるようだ。そうでなければ、抱いていないはずだ。


「付き合えないですよね。それでもいいです。今日のことはいい思い出にします」


 そんな風にいわれたら、俺は罪悪感しか感じない。流されてしてしまったこととはいえ、責任はとるべきだろう。


「涼のことは忘れるようにする。だから、危ない遊びはやめてくれよ」

「翔さん」


 結局、付き合うという選択しか出来なかった。涼のことは忘れよう。付き合うと決めたなら、夕羽斗のことを大事にしなければ。この子を寂しがらせてはいけない。もう、危険な遊びに身を投じることがないように、俺が守らなければ。夕羽斗は潤んだ瞳で俺の名を呼んだ。俺は夕羽斗の頭をなでて、そっと口づけた。

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