ユキちゃんが車で迎えにきた。俺はユキちゃんの車に乗り込む。その後、マミちゃんの家に寄って拾うと、車は景色のいい郊外の方へ向かう。今日はマミちゃんが何か相談があるみたいで、俺も呼ばれたのだ。俺がマミちゃんの相談事の役に立てるとは思えないけど、それでも来てくれとユキちゃんに頼まれた。マミちゃんが買っておいてくれたお茶を飲む。マミちゃんは困ってるんだよねと腕組みをした。
「いったい、何をそんなに困ってるんだ」
「いや、真昼に服作ってもらったけど、お礼してないんだよ。それで、お礼はどうしようかと思って」
「何だ、そんなことか。それなら、放っておけばいい。あいつが勝手にやってることなんだから」
「でも、マミちゃんは何かお礼したいと思ってるんだよね」
「何もしないのは流石に悪いかなあと思って」
「真昼を食事に招待するとか。マミちゃん料理上手なんだし」
「料理なら奏も上手いから、いいもの食べてると思うんだよね。好きなもの作ってもらってるでしょ」
そうか。それじゃあ、料理はダメかな。いい案だと思ったんだけど。ユキちゃんは何も思いつかないといって、お茶を口にした。ものに対してはものなのかなと思うけど、真昼ってあんまり集めてるものとかもないし、お礼の品が選びにくい。マミちゃんは大きくため息をついた。以前はどんなお礼をしていたのかと聞くと、特にお礼はしていなかったらしい。
「じゃあ、今回もスルーでいいだろ」
「でもさ、今回は忙しい中を五着も作ってくれたわけだよ。流石にお礼しなきゃマズいかなと思って」
「そうだ。マミちゃん、パン焼くの得意じゃない。それにしたらどうかな。奏もパンまでは焼かないし」
「ああ、その手があったか。パンなら作るの好きだしちょうどいいよ。あとり、ありがとう」
「うん。パンにありがとうって言葉添えれば伝わると思うよ」
「あとり、ありがとうな。俺じゃアドバイスしてやれなかったよ。このまま、もう少し遠くに行くか?」
「いや、真昼と約束があるんだ」
真昼との約束の時間はとうにすんでいる。どうせいつもは俺が待たされているんだ、たまに遅れたっていいだろう。真昼はかなり時間にだらしないのだ。今日だって約束の時間にちゃんといるかどうか分かったものではない。そんな気持ちでいたんだけど、真昼のとこに行ってみると超不機嫌で目も合わせてくれない。自分はさんざん遅刻してくるくせに、俺の遅刻は許せないというのか。自分勝手なヤツめ。すると、奏は呆れたような笑顔を浮かべてお茶を入れてくれた。
「あとり、お菓子食べるか。真昼はそんな顔をするな。せっかくあとりが来たのに」
「あとり、ユキとどこに行った?」
「え?」
「え、じゃねーよ。お前さっきユキと二人で出かけたろ。お前んちに迎えに行ってみたら、ユキの車に乗るのが見えたんだよ」
「ああ、確かにユキちゃんの車に乗ったよ。でも」
「ユキと何してたんだ。こんな時間まで二人でベッドの上で過ごしてたのか」
「どうやったらそういう発想になるんだよ。真昼だってこの間真由さんと一緒にいたくせに。俺だけ浮気者扱いしないでよ」
真由さんといたのを見て腹が立ったけど、奏が平謝りするから丸く収めたんだ。自分はがっつり浮気しておいて、俺のことを浮気扱いするとかどうかしてる。確かに、ユキちゃんは今でも気になる存在だ。だけど、たとえ二人になったからって、そういう関係になりようがない。ユキちゃんは俺のことなんか何とも思ってないんだから。真昼はそこのところを分かってない。
「今は真由さんの話してるんじゃないだろ。そんなことはどうでもいいんだよ」
「よくないね。お隣の新妻と不倫してる人に、浮気だ何だっていわれたくないよ。汚らわしい」
「俺が浮気するからお前も浮気するっていうのか」
「俺はお前と違うからそんなことしないよ。だから浮気なんてしてないって、何回いったら分かるんだよ。バカじゃないの」
「ああ、俺はバカですよ。ユキとは違うからな」
「さっきから聞いてればユキユキって、何でそんなにユキちゃんを敵視してるわけ」
「それはユキが」
真昼はもう一度ユキがと小さくいって俯くと、そのまま立ち上がった。そして、俺の顔を見ることなく自分の部屋へ入っていってしまう。何だっていうんだ。何で俺がユキちゃんと浮気したことになってるんだ。意味分かんないんだけど。自分の浮気は棚に上げてよく人のことを浮気扱い出来るもんだ。俺が真昼と真由さんのこと何とも思ってないと思ってるんだろうか。真昼みたいに騒がないだけで、俺だって腹が立ったよ。これ以上ここにいても意味がないなと思ったので立ち上がると、奏が俺の腕をつかんだ。ちょっと待ってくれと。俺は奏に止められて、もう一度座った。