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第42話 浮気疑惑・2

 奏はお茶を入れ直して、アップルパイを出してくれた。アップルパイはほんのりと温められている。外さくさく、中身はとろとろで本当に美味しい。俺は紅茶を飲んで一息吐く。奏はそんな俺を優しい目で見て、美味いかと聞いた。頷くと奏は満足げに微笑み、俺の頭をなでた。真昼とはえらい違いである。どうせ付き合うならもう少し大人にしておけばよかった。もう少し大人っていうとユキちゃんか。それは無理だな。


「悪いな、あいつ相変わらずお子ちゃまでな。あとりにも何か事情があったんだろ。本当にすまん」

「確かに家の前からユキちゃんの車に乗ったよ。けど、そのあとマミちゃんを乗せたんだよ。だから、ユキちゃんと二人きりではなかったんだ」

「だろうな。真昼の勝手な勘違いだったわけだ」

「もともと、マミちゃんがユキちゃんに相談したいことがあるっていてたらしくて。俺はユキちゃんに一緒に相談にのってくれって呼ばれたんだよ」

「そうなのか。本当にすまんな。嫌な思いしただろ」

「いや、俺の方も売り言葉に買い言葉で何も説明しなかったから。ちゃんと説明しておけば真昼も納得したと思う」

「おーい、お子ちゃま。話は聞こえてただろ。謝れよ」


 奏が真昼の部屋のドアを叩いてそういうと、真昼は少し間をあけてゆっくりドアを開くと、複雑な表情でこちらを見ていた。俺は真昼の部屋の前までいってごめんと謝る。真昼は小声でわりぃといって、俺を部屋の中に引っ張り込んだ。真昼の部屋は相変わらずものが多くてごちゃごちゃとしている。真昼は下に落ちているものを猫のようによけながら進み、俺はそのあとを覚束ない足取りでついていった。真昼は俺をベッドの端に座らせ、自分も隣に腰を下ろす。


「本当にマミもいたんだな」

「いたよ。今ここで確認してくれてもかまわないよ。ユキちゃんが信用できないならマミちゃんに聞いてみてよ」

「そんなのめんどくせーよ。じゃあいってみろよ。マミの相談って何だったんだ?」

「真昼が服作ってくれたけど、お礼はどうしようっていう相談。今回はたくさん作ってくれたし、お礼がしたかったんだって」

「別に、好きで作ってるんだから、礼なんていらないのに。何を悩んでるんだあいつは」

「それがマミちゃんって人だよ。マミちゃんはちゃんとお礼がしたいみたいだよ」

「そうなのか。それが相談だったのか。じゃあ、全部は俺の」

「うん、これで疑いは晴れたかい」

「ああ、納得した」


 よかった。真昼はようやく納得してくれたようで、ため息を吐きながら俺を抱きしめる。しかし、何だって真昼はユキちゃんのことになると頭に血が上ってしまうのだろう。実は、こういうことは初めてではなくて、前にも同じようなことでもめていた。真昼はユキちゃんに過剰反応しすぎる気がする。けど、いくら考えてもその理由が分からない。真昼とユキちゃんが仲が悪いのかっていうとそうでもないし。普段普通に喋っているから仲はいいだろう。


「ねえ、真昼。真昼はどうしてそんなにユキちゃんに過剰反応するの。別にユキちゃんが嫌いとかそういうわけじゃないでしょ」

「ユキのことは嫌いじゃねーよ。嫌いとかそういうんじゃねーんだよ」

「じゃあ、どういうこと」

「ユキがお前のことを好きだから、警戒してるだけだ。お前はユキに迫られて断れるか。断れないだろ」


 何それ。どういうこと。ユキちゃんが俺のこと好きだって。わけ分かんないんだけど。真昼はユキちゃんが俺のことを好きだからって警戒してたんだ。ふといつだったかマミちゃんがいってたことを思い出す。ユキちゃんのことは諦めたのかって。それはそういうことだったのか。でも俺には真昼がいる。俺の目を盗んで真由さんと浮気するようなヤツだけど、それでも俺の恋人だ。


「断るよ。俺には真昼がいるんだから」

「嘘だな」

「俺は嘘を吐かないよ。それに、ユキちゃんだって俺に迫ってきたりはしないよ」

「信じられないな。好きなら抱きたいだろ。ユキだってお前を抱きたいはずだ」

「けど、ユキちゃんはそうする人じゃない。俺のことを思っているんだとしたら、俺の気持ちを尊重してくれるはずだよ」

「お前の気持ちなあ。お前は俺のことどう思ってるんだ?」

「そんなことも分かんないの。俺は真昼のことが好きだよ。真昼のそばにいたい」


 真昼は無言で俺を抱きしめると、そのまま押し倒した。真昼は不安なんだと思う。そう、不安にさせているのは俺だ。俺がはっきりと真昼のことを好きだっていってやらなかったから不安になってたんだ。どうしようもなく疑い深くて不器用で、俺が面倒見てやらなきゃだめなんだ。マミちゃんは前に浮気は関係解消の理由になるっていってたけど、俺がユキちゃんを求めたらこいつはダメになる。俺はダメになる真昼は見たくなかった。それだけで、そばにいる理由としては十分だった。

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