僕は円城寺家に遊びに来ていた。輝と会う約束があったのだけど、残念ながら留守だった。いわゆる約束をすっぽかされたという状態である。円城寺家には同じく涼に約束をすっぽかされた敏さんと、あとり君が出かけて一人宿題中の水鳥君がいた。敏さんと僕は約束をすっぽかされたもの同士お茶をしようということになり、退屈だからとまざった水鳥君がお茶を入れにいく。今日のお茶菓子は水鳥君の作ったココアクッキー。若干歪だが美味しそうだ。
「約束、すっぽかされたんだね。輝も他に約束があるなら荘介にちゃんといえばいいのに」
「何か、慣れちゃった気がします。僕、輝だけでなく涼からもすっぽかされるんで」
「輝も涼も困ったもんだよね。恋人放っておいてさ」
「涼は何か用事があるっていってたから、用事が終わったら帰ってくると思うからいいけど、輝はどうなんだろうね」
「用事があると聞かされてるならいいですね」
「いいかなあ。俺との約束はだいぶ前からなんだけど」
「そこはほら、涼だから」
「そういわれると何ともいいようがないなあ。輝の方は遊びにいっちゃったのかな」
「輝ならさっき三番目と会うっていってたよ」
三番目。輝は恋人をランク付けしているのだけど、一応僕は一番目ということになっている。体の関係は三番目まで許してるとのことだった。ということは、体の関係がある人と会ってるっていうことか。何だか、心がざわざわするな。それにしても、三番目って誰だろう。僕は怖いからランキングに関して追求したことはない。輝もそこをつつかれるのは嫌だろうし。けど、気にはなる。
「三番目って響きがすごいよね。そこまでたくさん恋人がいて、それぞれに相手のことは隠してるんでしょ。俺にはそんな器用なことは出来ないなあ」
「僕もすごいと思いますよ。一切、他の人の話はしませんし」
「けどさ、荘介はその三番目って気にならないの?」
「それは気になるけど、輝が嫌がるのを無理に聞けないしなあ」
「ねえ、水鳥。水鳥は三番目の人の情報とか知らないの?」
「知らないなあ。三番目の人のことは三番目としか呼ばないから、名前も分からない。年上とは聞いたことあるような気もするけど、はっきりとした情報は僕たちにも話してくれないよ」
「そうなんだ。そこら辺の情報管理はしっかりしてるんだ」
まあ、情報の管理がしっかりしてないと上手くいかないよね。ランキングにはいっている人が分かってしまえばいらない混乱を招くだろうって思ってるんだろうな。僕自身、他の人のことを知ってしまったら混乱するかもしれないし、嫉妬するかもしれない。輝はそれが嫌なんだろう。けど、やっぱり気にはなるなあ。今会っているっていう三番目の人。どんな人なんだろう。
「僕、三番目の情報は知らないけど、四番目の人なら知ってる」
「四番目の人知ってるの?」
「前に嬉しそうに話してたことがあるから」
「嬉しそうに、ねえ」
「珍しく写真も見せてもらったし」
「どんな人だったのって聞いてもいいのかな。この場合は。どうしたらいいと思います、敏さん」
「うーん。自分から流してるってことは知られても問題がない情報なんじゃないかなあ。だから、荘介が知るのは別に悪くないと思う」
「水鳥君、四番目の人のこと教えてくれるかな」
「いいよ。確か前に写真が送られてきてるはず」
水鳥君はスマホを取り出すと、写真を見せてくれた。そこには一人のダンディーなおじさまと輝が仲良く頬を寄せ合って写っていた。この人が四番目の人。四番目っていうことは体の関係はないんだな。見たところ知らない人だ。何だか知っている人じゃなくてほっとしたような。輝のことだから、顔見知りに手を出している可能性は十分にある。それだけ、高校生の世界は狭い。
「確か、輝は春ちゃんって呼んでたね。すごくいい人だから、ランキングを見直すかルールを変えたいって」
「ルールを変える?」
「体の関係は三番目までって決めてるからじゃないのかな。春ちゃんの存在は大きいみたい」
「そういわれちゃうと、荘介としては複雑だよね」
「ちょっと複雑ですね」
「まあ、気にすることないよ。輝は荘介のこと一番だと思っているから」
水鳥君は明るくそういってくれたけど、僕としてはその春ちゃんというおじさまの存在が気になって仕方がない。今まで守り通したルールまで変えたいっていうことは、輝はあの春ちゃんというおじさまに抱かれたいという気持ちがあるということだ。僕は春ちゃんという人のことが気になって、今まさに三番目と遊んでいるという事実を忘れそうになっていた。はっきりと相手の正体が分かるということには、それだけのインパクトがあった。だから輝は隠すんだろうな。