放課後、輝は荘介と遊びに行くといって早々に帰ってしまった。僕は掃除当番のあとりを玄関で待つことにした。しばらく待っていると、あとりが夕羽斗に逃げられたといって悔しそうな顔をして現れた。どうやら、夕羽斗も掃除当番だったようだが、逃げられてしまったようである。校門を出たところで、立派な車が止まっていることに気づく。その車の横にはどこかで見たようなダンディーなおじさまがたっていた。
「ねえ、水鳥。あの人見たことない?」
「あの人は確か、輝の四番目の人じゃないかな」
「声かけようか。輝は荘介と遊ぶっていっていなくなったんだろ。待ちぼうけは流石に可哀想だよ」
「そうだね、声かけてみようか」
僕たちはそろそろと車の方へ歩み寄る。遠目に見て立派な車だなあと思ったけど、近くで見るとぴかぴかでよりすごい車だった。なお、車種とかについてはよく分からない。とにかく、立派な車に乗ったダンディーなおじさまだ。
「あの、春ちゃんさんですか?」
「あの、君たちは」
「輝の友人です」
「輝君の友人がいて、輝君の姿が見えないということは、どこかへ遊びにいってしまったんだね。今日は何番目だろう」
「一番目の人ですよ。一緒に買い物に行くとかいってました」
「そうですか。お二人時間はありますか。もしよければドライブなんかどうですか?」
「ドライブ、ですか」
「大丈夫、怪しいものじゃありません。おじさんの暇つぶしに付き合ってください」
春ちゃんはそういうと後部座席のドアを開けてどうぞといった。輝の恋人の一人だし、何もされないだろうと思い車に乗り込む。たとえ、何かしようとしたってこっちは二人だ、何とかなる。車内は広めで隅から隅までぴかぴかでいい香りがした。僕たちが乗り込むと春ちゃんさんは静かに車を走らせた。
「春ちゃんさん」
「春ちゃんでいいですよ。お二人のことはなんと呼んだらいいでしょう?」
「小さい方が水鳥で、俺があとりです」
「小さい方いうな」
「ああ、君たちが水鳥君とあとり君ですか。輝君から話は聞いていますよ」
「何て聞いてるのかが怖いんだけど」
「二人ともいい友だちだと楽しそうに話していましたよ」
「そうですか。春ちゃんは今日はお仕事お休みですか?」
「ええ、それなんですが。先ほど急な腹痛に襲われまして、早退を」
春ちゃんは急な腹痛に襲われたばかりにしてはぴんぴんしていた。これは、仕事サボったな。輝と会うために。僕は呆れてミラーに映る春ちゃんの顔を見た。おじさまがミラー越しに悪戯っぽく笑っている。やっぱりか。しかし、仕事をサボるったってこのくらいの年の人なら、それなりの地位も体面もあるだろうに。輝のためにそんな危ない橋渡ってていいのだろうか。この様子からすると、サボるのは初めてじゃないぞ。過去に何度もやっていると思われる。
「これからどこへ向かうんですか。この道だと郊外の方かな」
「ええ、郊外にいいソフトクリーム屋さんがあるんですよ。本当なら今日輝君と行く予定だったのですが」
「俺たちが相手でいいんですか?」
「もちろんです。ソフトクリームの代わりに輝君の話を聞けると嬉しいなどと思ったりしますが」
「輝の話ですか。輝はいい子で学校の成績もいいです。クラスの人気者ですよ」
「シモの方がだらしないのが玉にキズですが」
「でも、あれだけ愛らしくて性格もよければ当然のようにモテますよね」
「確かに、上級生からも教師からもモテてますね」
「他校の女子からもモテてますよ。相手にしてないですけど」
そう、輝は正統派の美少年なのでモテるのだ。全然相手にしてないけど。特に他校の女子とか可哀想なくらい相手にされていない。その話に春ちゃんはモテますよねといって、少し寂しそうな顔をした。車は郊外を走り、やがて小さな建物の前で止まった。ここがソフトクリーム屋さんなんだろうか。のぼりも何も出ていないけど。
「ソフトクリーム屋さんに着きましたよ」
「へえ、ここなんですね」
「バニラを三つお願いします。といっても、ここはバニラしかないんだけどね」
「ありがとうございます。うわあ、なめらかで美味しい」
「やっぱり今の高校生ってなかなか甘えてくれないものですか?」
「そんなことないと思いますけど。輝、甘えませんか?」
「甘えませんねえ」
それはびっくりだった。輝のことだから、べたべたに甘えているものと思っていた。少なくとも荘介にはべたべたと見ているこっちが恥ずかしいほどに甘えている。まだ遠慮をしているのか、それが四番目ってことなのか。どちらかというと遠慮かな。春ちゃんの甘えるの基準も分からないな。輝はいつも通り甘えてて、春ちゃんからしてみると甘えていないという構図かもしれない。そこに考えがたどり着いたとき、ソフトクリームの上だけ食べ終わった。