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第49話 再会・1

 僕は重たい気分を引きずりながらユキの家へ向かった。最近、夢見がよくない。ユキがあとりのことを想っているのを分かっているのに、関係を終わらせることが出来ないからだ。終わらせることが怖い。かといって、ユキがあとりを想っているのに、僕を見てなんていえない。それは僕のワガママだから。そんなこんなで、夢見は最悪である。いつもユキがあとりの名前を呼ぶところで目が覚める。けど、それとユキの世話は別だ。ユキは何も出来ないんだから。


「忙しいのに、いつも悪いな」

「いいんだよ。時間は作ろうと思えばいくらでも作れるし、好きでやってることだから。僕がやらなきゃユキが飢えるでしょ」

「そうだな、そうかもしれない。マミがいるから生活出来てるんだよな、俺」

「ユキは何も出来ないもんね。何で一人暮らししようと思ったのかが分からないよ」

「うちの親父も何も出来ないし、一緒に住んだところでどうにもならん」

「でも、おじさんの世話をしてくれる人はいるわけでしょ」

「親父の交際相手に俺の世話は頼めないしな」

「それはそうだよね」


 ユキのところもうちと一緒で母親を亡くしている。今、おじさんには交際相手がいるみたい。だけど、子どもの世話ならまだしも、こんないい大人が世話をしてもらうわけにはいかないだろう。なら、僕が世話するしかないんだろうなあ。思えば、ユキが一人暮らしを初めて少しの頃からだもんな。今更無理ともいえなくて、精神的には結構辛い。ユキの顔を見るだけで辛いのだから。掃除と洗濯を終わらせて、料理に取りかかる。


「今日は何が食べたい?」

「マミ」

「それを食べるとおなか壊すよ」

「俺はそれがいい」

「はいはい、それはあとね。今は何が食べたいの?」

「とんかつ」

「とんかつ用の肉あったかな。冷凍庫の中探してみるね」

「とんかつはどうでもいいんだよ、とんかつは」

「どうでもよくないよ。きちんと食べなきゃダメ。ただでさえ生活が不規則なんだから、食べるものくらいちゃんとして」

「分かった」

「あったよ、とんかつ用の肉。キャベツたっぷりつけるからね」


 そして、いつものようにご飯を食べて、いつものようにベッドへ。片づけも済んでいないのに。辛くなるだけだって分かってるのに、なんで断れないんだろう。ユキのことが好きだから抱かれたい。でもユキは。ユキは。


「あとり」


 そう、寝てるときに決まってあとりの名を呼ぶんだ。胸が苦しくなって起き上がる。僕はなんでこんなつらい思いし続けないといけないんだ。ユキを恨むべきなのか、あとりに嫉妬すべきなのか、想いを断ち切れない自分に腹を立てるべきなのか。どうしていいのか分からなくて頭を抱える。僕が起きあがったせいか、ユキがもぞもぞと動く。


「マミ、起きてたのか。俺の寝言がうるさかったか?」

「寝言いってる自覚はあるんだ」

「よくいわれるんだよ、寝言いうって。それに夢も見たし」

「へえ、どんな夢?」

「忘れた。なんかこう夢見てて、こんな感じだったようなって遠くなっていく感じ分からないか」

「分かるよ、結局思い出せないんだよね」

「おい、マミ。何で泣いてるんだ」


 何でだろうね。自分でもよく分からないよ。あとりの夢見てたんでしょっていいたい自分が嫌い。いえない自分はもっと嫌い。もうどうしていいのか分からない。ユキが触れようと手を伸ばしたのを、思わず振り払ってしまった。今は触れられたくなかった。今触れられたら、僕の中の何かが壊れそうだ。僕はごめんとだけいって、すぐに着替えてユキの家を出た。けど、自分の家には帰りたくなくて、マンションの前で立ち尽くす。ユキが追いかけてくる様子はない。行くところがないや。こういうときは飲みに行ってみようか。ぱっと思い浮かんだのが銀次郎だったので電話してみた。


「銀次郎、お店開いてる?」

『マミちゃんどうしたの、涙声で。行くとこないのかしら。遊びにいらっしゃい、飲んで発散しましょ』

「今日は楽しい話出来ないけどいいの?」

『あら、楽しませるのは私の仕事よ。気にしなくていいわ』

「じゃあ、いくから待ってて」

『大丈夫、一人で来られるかしら。お店空いてるからタクシーで迎えにいきましょうか?』

「大丈夫、一人でいけるよ」

『じゃあ、待ってるわ』


 こういうときは銀次郎のところにいくのがいい。いろいろ気は遣ってくれるけど、深くはつっこんでこないから。距離感がちょうどいい。距離感といえば奏でもいいんだけど、あそこんちには聞きたがりの真昼がいる。円城寺家は人が多くて疲れる。銀次郎の店でひっそりと飲んで気晴らししよう。家にぽつんと一人でいたらきっとさっきのユキを思い出すし、こういうときはどうすればいいんだろう。お店が閉まってしまったら、僕はどこに行けばいいんだろう。銀次郎なら朝までやってる店知ってるかな。

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