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第69話 勝利とは何か?

 「どうだ?みや」


 少女はまた不気味な目でクリスタルドラゴンを見る。


 「ぅん!死んでるょ!」


 「ふぅ……サンキュウみや」


 「サンキュウ?」


 「ありがとうってことだな」


 「えへへ、どういたしましてっ」


 リュウトはレイピアを腰の鞘に収納して少女を撫でている。



 此方は武器召喚、限界突破を行い、立つのもやっとだと言うのに目の前の勇者は普通にしているのだ。


 銀騎士の名に恥じぬ程、防具をまったくよごさずに…。


 …………………………


 …………


 「勇者リュウト様、お見事です」


 私は国代表としてお礼を言うべく勇者に近付くと撫でられている少女が警戒してこちらを睨み付けてきたのをリュウトは軽く頭をチョップして注意する。


 「こら、みや、この人は王宮の騎士さんだ、味方だよ」


 「うぅ......」


 「この度はクリスタルドラゴン討伐をしていだき心から感謝を致します。」


 ……この言葉、嘘だ……


 何故かはわからない。


 クリスタルドラゴンの脅威は去った。

 勇者が倒してくれた。

 これから起こる被害を考えると本当に感謝するべき立場なのだろう……


 ……だが私の中で何かが引っ掛かっている。


 「いえ!俺は最後のとどめを刺しただけできっと弱っていたんでしょう、“みなさんのおかげ”で倒せました」


 …………みなさんのおかげ…………


 この少年はこっちの気も知らずにそんな事を言う……いや、知らないのも当たり前。


 いや、待て、なぜ私はこんなにもイラついているのだ。


 「そんなことはありません、私達は一旦引き上げて被害の確認や救助に行きますが、後に城から直々にお礼の招待が来るでしょう、リュウト様はこれからどうしますか?」


 あぁ……理解した。


 私は本当にしょうもない……



 私は______




 「ご免なさい!救助を手伝いたいのですが、俺たちは少し行くところがありまして」


 どうしてその力があるのに____


 「それは残念です、ちなみにどこへ?」


 どうしてその力があるのに“もっと早く来なかったんだ”というどうしようもない事で怒っているのだ。


 「ジャックスタウンです!」



 ________________



 __________



 ____あれから……勇者リュウトと別れてある程度時間が経ち、回復した私達は山を掘り起こしていた。


 「ゴールド冒険者は周辺をよく探してくれ、まだ生き残っている人間がいるかもしれない」


 「なぁキーさん」


 「なんだ、クロ」


 「あいつとは知り合いなのか?」


 アイツとは勇者リュウトの事だろう。


 「仕事の都合上お客みたいなものだ」


 「…………」


 「………」


 「嘘だな」


 「いや、嘘はついて__」


 「__じゃぁ言い直してやる、半分は嘘だ」


 「……」


 クロは昔からの仲だ……私のことなどすぐに見破る。


 「クロ……察してくれ」


 「解ってるよ、口に出しちゃいけない様な事なんだろ?だがキーさん、甘いぜ」


 「?」


 「……まぁいい、それで……俺のこの気持ちは何にぶつければいい?」


 「……」


 「なぁ、おい」


 「…………」


 「聞いてんのか!」


 胸ぐらを掴まれた時、オリバルがその細い腕を握り止めてくれる。


 「んだよオリバ!殺すぞ!」


 「それ以上何も言うな……」


 「ちっ!」


 オリバの手にも必要以上の力が入っていたのだろう。

 クロの掴まれていた腕は青痣になっている。


 「くそが!おっかしいだろ!俺たちだって__」


 「……」


 「……」


 俺たちだって全力を出した。


 それを簡単にあの少年は踏みにじったのだ……踏みにじったと考えるあたり私もクロと同じだな……


 ここまで来てまだ悔しいと言う思いをするとは……


 「あの少年が私たちが弱らせてたから勝てたって言ったんだ……それで納得するしかない」


 「はぁ!?まじで言ってんのか?あれだけの力を見せつけられて!」


 「言うな!」


 「あ?」


 「すまない、怒鳴ってしまって……」


 「言ってやんよ!俺たちくそ雑魚共、俺もお前もこいつもそこら辺の奴もなんっにも役に立たずに死にました!必死こいて【限界突破】使って!身体ボロボロになって!それでも何も意味もなく!それをアイツは!......ちきしょう......」


 「クロ......」


 最初は勢いよく怒鳴っていたクロだったが声は細くなり、最後は涙を流していた。


 冒険者にはリュウトの言うとおり、みんなのおかげで最後にリュウトがとどめを刺した事になっている。


 だからこそ、実質ここにいる三人だけが真実を知る。


 「......帰る。萎えた。」


 「……」


 「結局ルコさんの死体もないし......あの人が死ぬなんて考えられないしな、後はがんばれ、国の代表騎士、いくぞ、オリバ」


 「すまん、キー君、ルコにあったらよろしく言っといて......」


 ......私だけではない、やはりあの二人も悔しいのだ。


 「......」


 {キール様}


 「なんだ?」


 {女王様からの連絡です。}


 「わかった。」







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