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第169話 ちいさな魔法と、あたたかいごはん!

《おじいさんの家》


あの日から、何事もなかったかのように、

何気ない日常が戻ってきている。


……大マスターとおじいさんが、何を話していたかは――聞いてない。


(だってさ、だいたい想像つくじゃん。

延滞料金とか? 違約金とか? ……あーもう、聞きたくねぇ)


「おかぁさん、見てみて!」


「お、すごいねぇ!」


ユキちゃんはあの一件以来、

魔法にドハマリしてしまったらしく、

今も外で何かやってる。


ちょうど今――

手に持った葉っぱを、俺の目の前で一瞬で蒸発させた。


(……燃やすんじゃないんだよ?蒸発。

もう火力バカ上がってんじゃねぇか……)


「子供に火遊び教えるって、気が引けるよねぇ……

あ、もちろん夜の火遊びじゃなくて物理的なやつだからね?」


「? なにいってるのおかぁさん」


「気にしないで!」


「ねぇねぇ! おかぁさんもやってみせて!」


……来たな、この瞬間が。


フフフ……驚くなよユキちゃん……

俺はこの世界に来て、結構経った――

結果、最近ようやく!

魔皮紙を発動できるくらいにはなったのだ!


(まあ、今のユキちゃんでも普通にできるレベルだけどな!)


でも安心しろ、こういう時用に俺には最終奥義がある!


「いいよ、見ててね!」


「うんっ!」


ユキちゃんの目がキラッキラ。

まさにワクワクてかてか!な顔で俺を見つめてくる。


――よし、いくぞ。


両手を上げて、某有名アニメキャラみたいにポーズを決める。


オラに、みんなの元気を分けてくれ!!


「はいっ!!」




シーーーーーーーーーーーン。




あたりに静寂が走った。


「……え?」


そりゃそうだ。

だって――




なにもしてねぇもん。




だがしかし!

俺には生まれながらに持ったスキルがある。




「フフッ……ユキちゃんには、まだ難しすぎて分かんないかな?」


名付けて、「子供騙しLv.MAX」!


「すっごーい! すごいすごいすごいすごい!

やっぱりおかぁさんはすごい!」


何が起こったかわからないけど純粋に信じて喜ぶユキちゃん。

(ああああああああああああああ!!!

子供って純粋!! 心が痛い!!!)


「こ、これが大人の魔法ってやつだよ……。

目に見えるものだけが魔法じゃないからね?」


「うんっ! ユキもっとがんばる!」


「でもね、魔法はむやみに使っちゃダメだよ?

自分だけじゃなく、他の人にも危ないから」


「はーい!」


____________


「じぃじ……また帰ってこないね……」


「うん……どうしたんだろ?」


あの日以来、じいさんは朝早く出かけ、

深夜に帰ってくる生活になった。


しかも、帰るなり即寝。

飯も食わずに、バタンキューだ。


(なんか裏でヤバいことしてるんじゃないだろうな……?

……いや、ありうるな。じいさんだし)


「今日のローストビーフ、上手くできたのに……」


俺は、魔物の肉を使った特製ローストビーフを一口。


スパイシーな香りと、ルモンの酸味が相まって――

おいすぃ~!


「ろーすとびーふっていうの?」


「あ、そっか。こっちじゃ名前違うか……

うーん、お母さん特製の料理だよ。ユキちゃん専用ね♪」


「おかぁさんの特別おごはん!? やったー!!

ユキね、おっきくなったらおかぁさんみたいに、おいしい料理いっぱい作るの!」


「ふふっ、それはいい目標だね」


「そしたらね! じぃじとおかぁさんに食べてもらって、

おいしいって言ってもらいたいの!」


(……おぅ、健気すぎて泣きそうだわ……

オジサン(※性別だけ女)、涙腺決壊しそう)


「楽しみにしてるよ。

あと、もう一人――ユキちゃんが将来、すっごく大切に思う人にもね?」


「たいせつなひと?」


(あ、そっか……この子、同年代の男の子に会ったことすらないんだ……)


「うん。お母さんみたいに、すっごく好きになる人……かな?」


「わかった! じゃあユキ、そういう人に出会ったら、

おっきいお肉料理してあげる!」


「いいね! そしたらその子の胃袋も、ガッチリ掴めるよ!」


____________


こうして今日も、二人だけの一日が過ぎていく。


そして、夜更け。

また――じいさんは、何事もなかったかのように、

そっと帰ってきて、何も言わず、眠りについた。


____________


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