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第173話 『絶対に許さない。』



「ユキちゃんに何をしたの!」




「あ? お前がなんで心配すんだよ。

その荷物を見るに、ただの家事奴隷でもしてたんだろ?」




「いいから答えて!」




「誰に命令してんだ、あぁ?」




「……取引、聞こう」




「分かってんじゃねーか、じいさんよぉ」




(くっ……!)






「これが何かわかるよな?」




牛獣人がポイッと放り出したのは――

見覚えのある、魔皮紙。




(……これ、たしか……)




奴隷契約書。

売買の時に交わすやつ。

血で拇印を押したら、その瞬間に絶対の契約が成立する――!




「俺が渡すのはあの小娘だ。

今は家の中に居るだろうが……

早くしねーと危ないかもなぁ?

子供であんなの使うのは命削るしかねーしな! ゲハハハハ!」




「っ!」




じいさんが、すごい顔で牛獣人を睨みつけてる。

その目が、一瞬だけ僕を見た。




「僕のことは気にしないでください!

それより……早く、ユキちゃんを!!」




(僕なんかより……絶対にユキちゃんを……!!)




「……」




じいさんの顔には、はっきり「すまない」って書いてあった。

目が、悲しかった。




じいさんは、自分の親指を拾った木の枝でスパッと切ると、

血で契約書に拇印を押す――




ボウッ!!




契約書は炎とともに燃え、消えた。

契約成立。




「よーし、これで交渉成立。

あばよ」




「っ!」




「え……!」




その言葉を吐いた直後――

じいさんの心臓を、牛獣人の拳がぶち抜いた。




「マスター!!」




「何言ってんだテメー?

マスターはもう俺だろ?

前の奴なんていなかったんだ。

早くこんなところ出て行くぞ」




「う……ぐっ……!」




(……ッ!! ぶっ殺してやる……!)




叫ぼうとしたその瞬間、

喉が――きゅっと締めつけられた。




(っぐ……!?)




奴隷の刻印が作動してる。

「余計なことを言うな」って、設定されてたんだ……!




「あーあ、人間の血でまた汚れちまったなぁ……

お? そうだそうだ!

あの小娘、どうなったか見に行ってみるか?」




(っ!!)




走った。

考えるより先に。




僕は、全力で家のドアを開けた――!







荒れ果てた室内。

ぐちゃぐちゃになった家具。




そして、中央には――




服をビリビリに裂かれ、股から血を流し、

過呼吸でぐったりしてるユキちゃんが倒れていた。




「ユキちゃん!!」






「おかぁ……さん……」






焦点の合ってない目。

僕の方を見てるようで、見てない。




「そうだよ、おかぁさんだよ……!」




(……こんなの、ひどすぎる……!)




涙が、止まらなかった。




「おかぁ……さん……」




僕の声を聞いて、

ユキちゃんは少しだけ安心したみたいに、

涙を流して――

そのまま、静かに意識を失った。






「おーおー、感動的な別れだったなぁ?

それにしてもよぉ、俺たち獣人の性器がデカいって言うけど、

俺たちからしたら人間の女が小さすぎんだよ」




「次はお前の番なんだから、覚悟しとけよ? ゲッハッハッハ!」






「……っっっっ!!!」






「あぁ? なんだよ、その目は?

ご主人に向かって生意気だなぁ?」






(……ゲスが……)




「……」




「あ?何ボソボソ言ってんだ?」




「……」




おい……聞こえてるだろ?


お前だよ。

お前に言ってんだよ。


もう――大体分かってんだよ。


 お前が――

 俺の中にいるってことは。



































『キャハッ♪』





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