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第184話 GR犬のクロエ先輩!



「あ、えと、これはですね」


鏡の前でポーズしたまま固まってた俺を見て、なんとなく察してくれたのだろう。


「まぁいい。俺の名前はクロエだ、新入り。師匠から案内を頼まれた。よろしくな」


クロエ先輩って言うのか……よし!覚えたぞ!


先輩も獣人の格好で、ゴールデンレトリバーのような垂れた耳とフサフサの尻尾がある。

金髪のショートカットで、女になった俺よりも背が小さい女の人だ。


「よろしくお願いします、クロエ先輩」


俺は何事もなかったかのように頭を下げる。


いや、うん、ナニモシテナイヨ、オレ、ポーズナンテトッテナイ。


「お、礼儀正しいじゃねーか。よろしくな」


あ、尻尾がフリフリしてる。機嫌いいんだ。


「さて、と。まずは自分の部屋からだな。何か荷物はあるのか?」


「服くらいしか……」


そりゃそうだ。荷物なんて持ってきてない。

あるとすれば、今脱いだ服――グリードで一番最初に貰った、あの青い服くらいだ。


「そうか。まぁ、ここじゃ一文無しで来るやつも多いしな。それ持ってついて来い」


「押忍!」


「? オス? なんだそれ?」


「え? あ、いや何でもないです」


あれ? こう言うノリじゃないのかな……?


「? 俺たちの滞在するここ、龍牙道場は知っての通り、弱い奴が本当に強くなりたいと思ったらたどり着く場所だ。

まずはこの長ぇ廊下だが、ここは魔法で師匠の部屋から見えるようになってる」


「他のところは見えてないんですか?」


「ああ、たぶんな……もっとも、俺たちを監視するってより、外からの侵入者とかを見るためだからな」


「あ、なるほど」


「どこの部屋に行くにもこの廊下を通るから、そういう意図があるってことは覚えとけ」


「はい」


「んで、最初に紹介するのがここ。大広間だ」


そう言ってクロエ先輩がドアを開けると、学校の体育館4つ分くらいの広さの大きな部屋が現れた。

壁にはぎっしりとドアが並び、そのうちの一つから俺たちが出てきたのだろう。


かなりの数の獣人たちが、それぞれドアに入ったり出たり、大広間の中で組み手をしてい……たのだが。


俺が入った瞬間、みんな動きを止め、シン……と静まり返った。


例えるなら、全校集会でザワザワしていた体育館が、校長先生の登壇で一瞬にして静まる、あの空気。


「あ……えーっと」


みんなが黙るのに、たぶん3分かかりました!

ってそんなこと考えてる場合じゃない!


うぅ、気まずい……なんて言えばいいんだろ。


そのとき、一人。一番近くにいた鳥の獣人がこちらに歩いてきた。


「お嬢さん」


「へ? 僕?」


明らかに俺なのだが、“お嬢さん”って呼ばれると、無意識に反応してしまう。


「はい、麗しいお方。貴方ほど美しく綺麗な獣人は見たことがありません」


「は、はぁ……」


「怖がらなくてもいいのですよ。これから先、私たちは同じ“強さ”を目指す、家族のようなもの。何か分からないことがあれば――」


そのまま鳥の獣人は俺の前で膝をつき、手を取ってきた。


……って、うおい! このパターンって、アレだろ!?


「今後とも宜しくお願いします」


そう言って、手の甲にキスをされた。

……いや、実際はくちばしの先が手の甲に当たって、ちょいチクっとしただけだが……


「よ、よろしくお願いします」


ひきつった笑顔になってしまう。

うわ、なんか、なんかこそばゆい……! 手、洗いたい。いや、洗っちゃダメか……?


そのキスを皮切りに、周りの獣人たちが集団でこちらに押し寄せてくる!


「おれも!」「わたしも!」「おらも!」「おいらも!」「わたしも!」


「え!? ちょ! ま!」


その人たちが近づいてきたとき、“バンッ!”と、俺のすぐ横から大きな音が響いた。


「うへ!?」


見ると、クロエ先輩が床を足で思いっきり踏み抜いていた。


その音で、獣人たちが足を止める。


「てめーら……」


まるで『ゴゴゴゴゴ……』って効果音が入りそうな雰囲気。


「誰が“新入り”に群がっていいって言ったァ……? 俺のときと対応が全ッ然ちげーじゃねえかぁぁああ!!!」


「や、やべっ! クロエさんが怒ったぞ! みんな逃げろ!」


「おせえぇ! 逃さねえええ!」


そこからクロエ先輩の百人組み手が始まった。

圧倒的な力で、次々と獣人たちをねじ伏せていくその姿――


俺はもう、目が釘付けになっていた。



クロエ先輩……かっけぇ。



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