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第196話 ジュンパクの居場所!



 「……ルコサ?」




 ユキが名を呼んだその人物は、リビングに置かれたソファーで寝そべっていた。




 全身真っ白な神父服をまといながらも、どこか気だるげで覇気がない。

 20代ほどの若い男。だが“ただの青年”には見えなかった。




 「……」




 この男――危険だ。


 そんな直感が、ヒロユキの脳裏をかすめる。




 「やっほ〜、驚いた? 実際は鍵を開けて入ったんじゃなくて、この部屋に軸を合わせて転移してきたんだけどね。

 ちょっとイタズラで玄関の鍵だけ開けといたよ。……焦る顔が見たくてさ」




 「趣味が悪いですね……」




 「転移〜? この家にできるの〜?」




 「いえ、うちに転移ポータルなんてありません。

 そもそも転移魔法って、初級や中級――いえ、上級でも防犯魔法が張られてる個人宅には入れないんです」




 「……てことは、超級?」




 「……」




 「ふふっ、余計な詮索はやめたほうがいいよ。お互いにね……たまこさん」




 「……ふ〜ん。私、まだ名前名乗ってないんだけど〜? 最近プライバシーがダダ漏れな気がするわ〜」




 ――たまこもそれ以上は追及しなかった。





 「それで、そちらの女性は誰ですか?」




 ちゃっかり皆にお茶を準備しているユキが話しかける。

 ……敵ではないと判断してるようだが、家に勝手に入ったことはもっと怒ってほしい。




 「あぁ、この人は――」




 ルコサが紹介しようとした瞬間、その女性がすっと前に出て自己紹介を始めた。




 「私の名前は【ルダ】さね。このだらしない神父の“愛人”さね」




 「……なるほど」




 「うーん、全然違うけど……まあ話がこじれるからそれでいいや。言っとくけどババ――」




 その瞬間、ルダの目が鋭く光る。




 「……っ」




 ルコサはごくりと唾を飲み込み、続きを飲み込んだ。




 「言っとくけど、僕のストライクゾーンからは大外れになってるから」




 「フン……まぁいいさね」




 「それで、ルダさんのことも話すつもりはないんでしょうから、単刀直入に訊きます。

 ……何しに来たんですか? まさか、私たちの装備や武器を盗みに来たわけじゃないですよね?」




 ユキは盆を抱えたまま、皆の前に一杯ずつお茶を置いていく。

 ……おもてなし精神は染みついているらしい。




 「盗んだのは――これだよっ!」




 ルコサはズボンのポケットから何かを取り出す。




 青と白の、しましまパンツだった。




 「「???」」




 ヒロユキとたまこは、同時に首をかしげた。




 「__っ!?!?!?」




 だがユキだけは違った。


 顔を真っ赤にしながら、手にしていたお盆を落とし、パンツを取り上げた。




 「ななななななななななな!?!?!?!?!?」




 「……ユキ、落ち着け」




 「変態! 変態です! ヒロユキさん! すぐにギルドに通報を!!」




 「あらあら〜、ユキさんは可愛いパンツ穿いてるのね〜?」




 「ちちちち違いますっ!! 大人の下着は……その……恥ずかしいというか……モニョモニョ……」




 「……?」




 こちらを見ながらユキはモニョモニョと恥ずかしがっている。

 小さい子のパンツを見ても特に何も思わないが――何かあるのだろう。




 「ええい! 話をややこしくするんじゃないさね!!」




 ――ゴッ!!




 ルダの拳が唸りを上げ、ルコサの腹に突き刺さった。




 「ゲハッ!!」




 骨の鳴る鈍い音が部屋に響く。




 「私たちの来た目的は、これさね」




 そう言って、ルダは懐から黒い何かを取り出し、無言で壁に投げつけた。




 「……!?」




 「これは……ジュンパクの……!」




 「ん〜?」




 「この忌々しい鎌と、その持ち主の居場所を教えに来たさね」




 「えっ!?」




 「ゲホッ……ゲホッ……そうそう。

 僕たちはそれを伝えるために、わざわざ遠い遠いアバレーからまたここに戻ってきたんだよ。

 しかもこの後、まだ仕事が山ほどあって、急いでるんだ」




 ……ならパンツ盗んでないで最初から本題に入れ




 「本当にアナタ達は……いえ、やめましょう。

 ジュンパクの居場所を教えてくれてありがとうございます。

 情報代として、通報はやめておいてあげます――変態」




 「ふっ、変態なんて誉め言葉だぜ☆__っと、君まで僕を殴ろうとしないで!?」




 「さっさと居場所を言え♪」




 ――ユキの笑顔は、目が笑っていない。




 「う、うん……彼? 彼女? 今は“龍牙道場”にいるよ」




 「……!」




 たまこがその言葉に目を見開く。




 「どうしてその道場を知ってるのかな~?」




 「さっき言ったよね? お互いに詮索しないって」




 「……」




 「まあ、確かにいじわるだったね。

 じゃあ最後に――僕たちのこと、少しだけ教えてあげよう」




 ルコサはゆっくりと、神父服の胸元を整えながら告げた。








 「僕たちは“神の声”を聞き、君たち【勇者】を導く者だ」








 そして――

 空間に魔方陣が展開され、ルコサとルダの姿は一瞬で消えた。




 「……何だったんだ……」




 「ユキさん〜、知り合いでしょ〜? あとでゆっくり話してね〜?」




 「え、えぇ……(ルコサさんは知ってましたが……ルダ……あの人はいったい……)」






 ____その日、たまこの荷物を整理して町で魔皮紙の補充をして、三人は一日だけ滞在した。




 どうやら“龍牙道場”というのは、秘密の道場らしく――

 一定の人物しか、場所すら知らないという。


 明日、俺たちは“ジュンパク”を迎えに行くために、またアバレーへ戻ることになる。






 ……そして、もう一つ事件があったとするなら。








 「あんの変態神がぁぁぁぁああああ!!!!!」








 ――ユキのパンツが、もう一枚無くなっていたらしい。




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