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第205話 キール!動き出す!


 《とある森の中》




 「アオイさんと……私の娘が、なぜ一緒に……」




 グリード王国代表騎士・キールは、森の奥深くで小さな焚き火を囲みながら、静かに過去の出来事を反芻していた。




 「それに――あの魔物。かつてアバレー王国には何度か訪れたが……見たことがない。新種か?」




 アオイと別れた直後、黒い狼は何かに呼ばれるようにその場を立ち去った。

 キールは急いでアオイを追ったが、自分が使う予定だった転移魔皮紙は、あの時アオイに渡してしまった。


 追いつけるはずがなかった。




 「……どういうことだ。娘の居場所は、本来ならば女王が知っているはず……」




 キールが王を裏切る決断をした最後の一押し――それは、“娘の命”だった。




 ゆえに、娘の情報は王宮には一切頼らず、独自に調査していたが……成果はゼロ。

 そんな中で、あの出来事が起こったのだ。




 「…………もう少し、この国で調べてみる必要がありそうだ」




 呟きながら、携帯食糧を取り出す。




 手のひらに乗ったそれは、直径五センチほどの球体。

 口に入れると膜がぷちりと弾け、栄養ジェルが広がる。




 「――うっ……やっぱりまずいな……」




 金属っぽい匂いと、どろりとした舌触り。

 栄養は満点だが、味覚への配慮は皆無だ。




 「開発者を殴りたくなる味だな……」




 それでも、体内にはしっかりとエネルギーが満ちてくる。

 この国の過酷な環境では、貴重な補給源だった。




 「……彼女たちは、確実にこの国のどこかにいる。

 人間嫌いが多いこの国で情報を集めるのは骨が折れるが……確実に、“娘に近づいた”」




 今、女王に問いただしたところで、真実ははぐらかされるだろう。

 最悪、グリード王国への帰還を命じられる可能性すらある。




 「……せめて、自分の姿を獣人に変える魔法があれば……

 いや、それが可能ならこの国にスパイ天国ができてしまうか……」




 小さく吐息をつきながら、キールは立ち上がる。




 その手は、背に背負った剣へ――




 「____来る!」






 直後、奥の茂みから飛び出してきたのは、赤髪に獣の耳を持つ獣人の少女。

 首元には、34番を示す奴隷刻印が刻まれていた。




 「君は……!」






 「――私を匿ってください!」





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