「リュウトさん!?」
「ガァアア……ッ!」
牙をむき出しにし、明らかにこちらを威嚇している。
だが、まだ――わずかに理性は残っているのか、攻撃はしてこない。
「……どうなってるんだ?」
「わかりません! 私がこの国に来るまでは、こんなこと一度も……!」
リュウトの背後から、人の気配が近づいてくる。
おそらく彼のパーティーメンバーだ――ならば。
「私たちで、勇者リュウトを食い止める!」
「は、はい!」
こちらが構えた瞬間、リュウトの動きが変わった。
気配を察知したように、地を蹴り、一瞬で距離を詰めてくる。
「ガァアアッ!!」
「フンッ!」
空中で一回転し、勢いを乗せた拳が飛んでくる。
キールは咄嗟に盾を構え、それを正面から受け止めた。
――ゴンッ!!
「……くっ!? なんて力だ……!」
普通の拳とは思えない。
魔力強化なしで、ここまでの破壊力――もはや人の域ではない。
衝撃で足がズリ込む。
受け止めた側が押し返されている。
「リュウトさん!」
「ガ、ァアア!」
その隙を突いて、アカネがリュウトの腕にしがみついた。
「リュウトさん! どうしたんですか!? これは一体……!」
「ガァァア!!」
「きゃっ――!」
リュウトが腕を大きく振り払った瞬間、
アカネの身体は空中へと投げ出され、そのまま拳が直撃する。
「アカネさん!」
咄嗟に飛び込み、吹き飛ばされたアカネの身体をキールが受け止めた。
「大丈夫か!?」
「……は、はい……っ!」
アカネは震える手で懐から魔皮紙を取り出し、自分に貼る。
それは、以前キールから預かっていた治癒魔皮紙だった。
光が彼女の傷をゆっくりと癒していく。
「ガァァァァァアッ!!」
「来い……!」
私はリュウトの攻撃を誘導するように前へ出て、構えた盾で次々と打撃を受け止めていく。
「ガァァッ! ガ、ガァァァアアラァァァ!!」
その咆哮とともに、リュウトの動きが一変する。
「……!? これは――」
彼は急に拳を止め、腕を大きく広げた。
すると、身体を包む鎧の一部が変形を始め――
「な……!」
両腕に生えたのは、まるで魔物のような鋭い五本爪。
そのまま振りかぶって、斬りかかってくる。
「くっ……まるで、本物の魔物だ!」
防ぐたびに、盾の表面がきしむ。
振るわれる爪の重さも鋭さも、人間のそれではない。
――そのとき、奥の林から人影が現れた。
「……!」
白い髪に紅い瞳の少女。あの時、リュウトと共にいた――『みや』!
「!? アカネっ……!」
「みやさん!? これは一体どういうことなんですか!」
みやが説明しようとするが後ろから来た子供に遮られる。
「あのねあのね!ご主人様がガーってなってバー!って!」
「あんたは黙ってなさい!」
「いてっ、アンナひどーい!」
「アカネ聞いてっ」
「聞いてます!」
「今リュウトは“魔物化”が進んじゃってるのっ!
隙を見て取り押さえて! そしたら――私がなんとかするからっ!」
「ざっくりすぎますが……了解です! 取り押さえるだけなら、やれます! キールさん!」
「了解した!」
リュウトが腕を振り上げた瞬間、私は片手剣を抜いて、その爪を弾いた。
「ガッ……!?」
「そこだ!」
爪を弾かれ、リュウトの体勢がわずかに崩れる。
その瞬間、私は全体重をかけて盾をリュウトの顔面へぶつけた。
「グァッ!」
顔面に直撃した衝撃で、リュウトの身体が後方へ傾く!
「今です!」
「さすがです! よいしょっ!」
「ガァァッ!」
いつの間にか背後へ回っていたアカネが、
渾身の力でリュウトの腕を固め、背後から羽交い締めにする。
「みやさん、今です!」
「――とりゃっ!」
みやは合図と同時に、リュウトの胸元めがけて何かを投げつけた。
銀色の筒がリュウトの鎧の隙間に突き刺さる。
(……これは、魔注射を改造した何かか?)
刺さった瞬間、内部の薬液が自動的に注入されていく。
「っ!?、ガ、ぁ……ァ……オ……イ.……」
するとリュウトは気を失って倒れた。
「これで少しの間大丈夫だよっ」
「ご主人様すやすや~!」
「アカネ、大丈夫?そ、その方は?」
1番歳上の女の方が私の事をアカネに聞く。
……?
何故か私を見て顔を赤らめる。
「この方はグリードの代表騎士のキールさんです」
「みやさん以外は初めましてですね、私はグリード代表騎士、キールと申します」
「グリード代表!?えぇ!?あ、えと、私はアンナと申しますわ騎士様」
「はい、よろしくお願いします」
「アンナっ、今は良いからリュウトを運ぶの手伝ってっ」
「良いとこなのに……しょうがないわね……」
「それとアカネっ、おかえりっ。」
「は、はい、みやさん、ただいま」
「さっそくで悪いけどっ、そっちで何があったか教えてっ?」
「はい、解りました!」