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第236話 騎士達の集中を削いでしまう!

 「し、死ぬかと思った……」




 「ははっ、慣れてないとそうなりますよね、アオイさん」




 何わろてんねん。




 「……一応さ、前にも似たようなことあったんだけど……そのときも、こんな感じだったんだよね」




 なんだろうね。

 “命を預ける”って、だいたい地面から数十メートル浮いたところから始まるの?

 この世界、スリル強制搭載すぎでしょ。




 そんなこんなで――

 リュウトにお姫様抱っこされたまま、俺たちは“無敵要塞”みたいな世界樹のそばまでやってきていた。




 山亀と世界樹の距離は、もうあとわずか。




 けど……




 いや、世界樹も相当デカいけどさ――

  山亀の方がさらにデカいって、どういうことだよ!?


 「……ここら辺で良いだろう。リュウト、エス。今からユキに報告する」




 3人がぴたりと立ち止まり、俺もついに――

 お姫様抱っこから、解☆放。




 久しぶりに足が地面に触れた……けど――




 「うわっ……」




 ぺちょ。




 そう、今ここ、豪雨でドロッドロなんですよ。

 おかげで俺の靴底(ていうか裸足)から跳ねた泥が、

 見事にリュウトの鎧へ命中。




 「ご、ごめん……」




 いや、わざとじゃないのよ!?

 でもめっちゃ鎧が“泥のグラデーション”になってるの、ホントごめん!!




 キールは気にせず魔皮紙を取り出し、魔力を流し込む。

 すると、紙が光を放って――




 ふわっと空中にモニター出現。




 「うぉ……」




 そこに映し出されたのは、ヒロユキのパーティーの――

 ユキさん!?え、今テレビ電話!?




 なにこの通信手段、めっちゃハイテクじゃん!?

 もうこれファンタジーじゃなくてSF!

 魔法かテクノロジーか知らんけど未来感じるわこれ!!!



  「ユキ、此方はアオイを救出した」




 {流石です!さすが国を代表する騎士さん!では――}




 「……あぁ、これで心置きなく、やれる」




 {了解です!それでは――

  【ヒロイン救出作戦】、成功です!これより最後の仕上げに入ります!}




 ……。




 ……おい、待て。




 今、今なんつった!?

 ヒ、ヒロイン……?

 誰のこと!?俺じゃないよな!?なぁ!?



 「それと、もう1つ、いい報告がある」


 {なんですか?}


 「リュウトが見つかった」


 {本当ですか!なら早くリュウトさんに作戦を説明してリュウトさんのパーティーの所に合流してください}


 「わかった」


  ユキは、それだけを言い残すと――




 ぷつん。




 通信を切った。




 「キール、その作戦って……?」




 「あぁ。今から【山亀】の最大の弱点を突く。

  そのために、あちらには何万ものアバレー騎士が集まっているはずだ。

  リュウトのパーティーも、ここからそう遠くない」




 「なるほど……わかった。じゃあ、アオイさんはもういっかい――」




 ……たぶん、その先のセリフは「俺が運ぶよ」だ。

 だってリュウト君、優しいし。たぶん自分から言いたいタイプだし。




 でもね――




 その“言い切る前”に、俺の身体は宙に浮いていた。




 「………………は?」




 無言で。

 そしてまったく迷いなく。

 今までずっと黙ってた黒騎士・エスが――

 俺をお姫様抱っこしてた。


 「おい!!」




 「お前のパーティーに行くのに、お前がアオイを抱えて行ったら……修羅場になるぞ」




 「……何いってんだ?修羅場?」




 いやほんと、ナニイッテルンダロネ








 「二人とも時間がない。行くぞ」




 「くそっ……後でその意味、絶対聞くからな!!」




 「あはは……」




 俺はもう完全に**“お荷物”ポジション**だと理解している。

 下手に逆らってもロクなことがないので、ここはもう――




 流れに、身を任せるとしよう。






 ……ということで。




 配達、ご苦労様でーす。



  そして――




 「……見えてきたぞ」




 キールがフードを深くかぶった頃、ついに俺たちは世界樹に到着した。




 下には、黒い着物みたいな装備をした獣人たちがずらっと整列して待ち構えている。

 なんか、某ジャンプ漫画の護廷十三隊感ある。こわ。




 「さて、確かアカネが持ってるな……ん?」




 キールが周囲を見渡し、何かに気づいた。

 いや、俺も正直、気づいてる。 




 なんか……すごい視線を感じるのよ。




 俺たちに、じゃない。

 俺だけに向けられてる視線。




 「なんて美しいんだ……」


 「こんな女が実在していいのか……」


 「俺、山亀倒したらプロポーズするわ」


 「お前、妻子持ちじゃ……」


 「関係ねぇ!離婚だ!俺はあの女に全てを捧げる!」


 「ちょ、おま――聞こえてるぞ!!」




 ……ちょっと待って、なにこの修羅場寸前会議!?

 なんか俺の存在が、恋と戦争を同時に巻き起こしてるんだけど!?




 「なんで人間なんかがあの女を抱えてんだ……?」


 「まさか、できてるんじゃ……」


 「マジかよ……これは人間全滅ルートじゃね?」


 「いや、落ち着け。あいつを殺せばいいんじゃないか?」


 「そうか!強さで勝てば……!」




 エス、ターゲットになり始めてるぅぅぅ!!

 というか、エスさん!!今のあなたの目つき完全に「かかってこい、全員まとめて葬る」状態になってるからやめて!?

 俺もびびるから!ガチで!!




 「これは……まずい。エス!アオイさんを隠して!これを着せろ!」




 キールが黒いローブを渡し、俺は木陰へ避難。




 そして、渡されたローブを羽織ってみると――




 「うおおお、なにこれめっちゃ魔法使いっぽい!!」




 ちょっとテンション上がってる自分がいるのが腹立つけど、しょうがない。

 袖の内側、金刺繍で紋章入ってて超オシャレなんだけど!?




 そのローブを着たまま、俺は戻った。

 すると――




 「……あれ?あの綺麗な女どこいった?」


 「さっき森に入って、出てきたの人間の男だけだったぞ?」


 「え、食われた……?」


 「いやいや、人間が人間食わんだろ」


 「じゃあどこいったんだ……?」




 あれ!?俺、認識されてない!?




 「エス、アオイさんには……ローブ、着せたか?」




 キールが問う。

 ……目の前にいるぞ?俺。




 「あぁ。たぶん、今は近くにいるはずだ」




 なるほどね、理解した。


 このローブ、つまり――透明マント機能付きってことでOK?

 ハ○ーポッターのやつだこれ!!

 ファンタジー、ついに洋画と融合したな?




 「危なかったな。今ここで騒ぎを起こすわけにはいかない」




 ……ちょっと待って?

 俺が騒ぎ起こしたみたいな言い方しないでもらえます!?

 こっちはずっと“無”ですよ、“空気と同化”してるんですよ。




 「アオイさんは、勇者である俺の側を離れないでください!」




 うん、うん、いいこと言ってる。

 でもね、俺も勇者だからね!?

 それと君の背中に、今!いるんだよ俺!!




 「さて……では」




 キールが再び通信を開くと、モニターには――




 うおおおおお!!!アカ姉さん!!




 {キールさん!待ってました!妹ちゃんは!?妹ちゃんは無事ですか!?}




 どうやら……モニター越しにも見えていないらしい。

 俺、ガチで“存在してない扱い”されてる。




 「あぁ。今はちょっと事情があって、あのローブを着てもらっている」




 {むぅ……妹ちゃんのあの可愛い顔を見れないのは惜しいですね}




 ちょ、え、それは聞こえてる!聞こえてるぞ俺!!?

 褒めてくれるのはうれしいけど、ちょっと気恥ずかしいぞコラ!!




 「それと、もうひとつ。いい知らせがある」




 {はい?}




 「リュウトも、無事救出した」




 {ほんとうですか!? みんな、絶対喜びます!!}




 キールが現在地を伝えると――

 まるで“合言葉”でも決まってたかのように、パーティーメンバーが即到着した。












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