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第240話 万事休すか?


 そして当然、アイの起こした出来事は作戦失敗に繋がる。



 世界樹の下で【土塔】を出している大戦力は混乱していた。



 「おいキーさん!どうなってる!!てめぇこれ以上俺に魔力を使わせると殺すぞ!デカさだけじゃなく強度も保ってるんだからな!」


 「くっ!どうなってんの、キーくん……」


 クロエとオリバルはそれぞれ山亀の方へ両手を掲げながらキールを見ず叫ぶ。


 そしてそれはキールも同じ。


 「おかしい!もう合図は出ているはずだ!【最終生命破壊砲】がなぜ発動しない!」


 誰もが、限界の中で――“それ”を待っていた。




 放たれるはずだった一撃。

 戦局を決定づける最後の砲撃。

 勝利の希望、いや、勝利の“唯一の可能性”――




 それが、いつまで経っても――来ない。


 「くそっ……魔力が、めちゃくちゃ持っていかれる!!」




 クロエは歯を食いしばりながら、地面に手をつけたまま魔力を送り続けていた。




 彼女の適性は“治癒魔法”。

 攻撃手段は、自身の治癒力を活かした物理のカウンター主体。




 そんな彼女が今、

 獣人冒険者たちの何倍もの規模で【土塔】を維持できているという事実――




 それ自体、**常人ではない“異常”**だった。




 だが、その“慣れていない魔法”の代償は――尋常ではない魔力消費として、クロエの体を削っていた。






 「……どうなっている!!」




 キールは、さすがにおかしいと感じ、

 緊急通信用の魔皮紙を展開する。




 {此方も不明です!女王様との連絡も断絶状態!

  リュウトさんたちも通信不能!

  エスさんは緊急事態を察知し、アカネさんと共に世界樹へ向かいました!}




 「……一体、世界樹の中で何が起きている……!?」






 「なんかわかんねーけどさぁ……!」




 クロエが叫ぶ。





 「トラブル発生とかマジやめろよ!?

  今それ――洒落になんねーんだよッ!!」






 当然だった。




 この【土塔】は、山亀を一時的に持ち上げるため“だけ”に設計された魔法。

 発動後、即座に【最終生命破壊砲】が発射されることを前提とした、“刹那の支え”。




 ――だが。




 砲撃は来ない。




 その間にも、塔のあちこちから……

 **ピシィ……ピキ……ピシシ……**と、不吉な音が走り始めていた。


  「てめーら!! 気張れェ!!」




 「……もうやってる……!」




 「くっ!! 耐えきれねぇッ……!」






 ――限界だった。




 次々と、獣人騎士たちが膝をつき、

 魔力の尽きた者から順に――崩れるように倒れていく。




 それは、まるでドミノの連鎖だった。




 人数が減れば、魔力負荷は残された者へ。


 そして――




 【土塔】にかかる“維持の重圧”が――限界を迎える。






 「――――!!」




 バキィィィィイィイイッ!!!






 ――ついに。




 塔が、崩れ始めた。






 「みんな!! 脱出しろ!!」




 キールの怒号が響いた。

 だが――遅かった。




 「くそっ……!」




 足を動かそうにも、魔力は空。

 倒れた騎士たちに声は届かず、意識もない。




 キール自身の脚も、今や石のように重く。

 ただその場で、見上げるしか――なかった。






 「……もう、手がないのか……!」




 リュウトの――神級魔法【目撃突】。

 ヒロユキの――神級魔法【目撃斬】。




 あれば、打開できたかもしれない。

 だがこの魔法には、**“発動条件”**がある。




 それを知らないリュウトとヒロユキは、

 自分の意志だけでは、発動させることができなかった。






 騎士全員で接近戦を挑んだとしても、

 山亀の巨体はあまりにも“圧倒的すぎた”。




 だからこそ、

 砦からの魔法、戦術的な大規模攻撃を主軸としたのだ。




 ――だが、山亀はすべてを“突破”してきた。




 与えた傷は、すでに再生された。






 「……何か……何か、できることはないのか……ッ!!」






 そのとき――




 空が、陰った。




 巨大な影が、頭上を覆う。






 「ッ――!!」






 山亀が――落ちてくる。




 このままでは――全てが潰される。





 誰もが、死を――覚悟した。

 大地が軋み、巨影が落ちてくる。

 光は絶え、希望も尽きた刹那。






 ――その瞬間、響く声があった。





 「いいや、キーくん、君はまだ……全力を出していない!」




 「「「!」」」




 キール、クロエ、オリバルが反射的に振り向く。

 そこに立っていたのは――



 「ルコ!」


 「ルコさん!」


 「ルコ……!」


 「やぁ、みんな」




 「キーくん!これを!」


 ルコサは走り寄りながら、小瓶を取り出す。

 半透明の、小さな瓶の中には淡く輝くピンク色の液体――


 「これは?」


 「はやく飲んで!」


 猛烈な甘さが舌を焼き、全身に流れた。


 「こ、これは!」


 次の瞬間、キールの体内に凄まじい魔力の奔流が溢れ返った。



 見上げる空には、山亀の腹甲――

 ヒビの入った“白い死”が、落ちてくる。




 だが、キールは自分の中の“確かな感覚”があった。




 「今なら出来る!私はみんなを護る!」




 「【武器召喚】!」




 キールの手にあった盾が眩く輝き、砕ける。

 その破片の中から、新たな姿が姿を現す。




 黄金の輝き。

 巨大な装飾盾。

 神の意志を宿す、絶対の防壁。



 「今、私は全てを護る盾





 キールは唱える、その絶対の魔法を。



 「【神・護】!」





 その魔法は、例え何があっても。




 神の力で無傷の“結果”を残す、絶対の防御魔法。








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