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第243話 【勇者アオイ】誕生!

 「久しぶりです、アオイさん」


 「……え!? えっ!? ええええ!?」


 思わず声が裏返る。


 目の前の――いや、今までずっと俺を助けてくれていた“黒騎士”の正体が、まさかリンだったなんて!


 「ど、どうして……!? なんで……!? え、え、今まで……ずっと……?」


 「話すと長くなるので、手短に言います」


 リン――いや、エスは少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。


 「俺はあの後、いろいろあって『女神の翼』の用心棒になりました。……すべては、アオイさんを守るためです」


 「僕を……?」


 ぽつりと漏れた俺の問いに、彼は頷いた。


 「はい。俺はあの時――神に見捨てられて、死ぬはずだったんです」


 彼の声は穏やかだった。でも、言葉の奥には深い闇と覚悟があった。


 「……でも、それを変えてくれたのは――あなたです」


 「どういうこと……? 神に見捨てられて……って……?」


 混乱の中、言葉がうまくつながらない。


 だけどリンはそれ以上、過去を語らなかった。


 「だから……今ここで、その恩を返します」


 そう言って、リンは一歩引き――


 静かに、再び頭の装備を被った。


 その姿は、再び“黒騎士エス”へと戻っていた。


 「俺は、すべて知っている」


 エスの声は静かだった。


 「あなたが“勇者”であることも……そして『女神』であることも」


 「…………」


 俺は言葉を返せなかった。


 「だから――あなたは、ここで死ぬべきじゃない。

 あなたには“やるべきこと”があるはずだ」






 “やるべきこと”。


 たしかに……もし、俺が“勇者”で、『女神』だとするなら――

 これから先、リュウトも、ヒロユキもいない世界で、やらなきゃいけないことは山ほどある。


 けど――






 「……そっか。それじゃあ――」






 俺は、そっとリンの手を握った。


 そのまま、






 「なっ――!?」






 彼の手から、真紅の魔皮紙を奪い取った。


 そして――迷わず、魔力を流す。






 「何をやっているッ!?」






 紙はドロッと溶けて、俺の手に染み込んでいく。


 体が軽くなる。

 一気に、内側から“力”がみなぎってくる――!






 「リン……君の言ってることは、わかるよ」


 俺は、力強く彼を見据える。


 「でも――俺は、“今ここで頑張らなきゃ、明日絶対に後悔する”んだ!」


 「っ……!」






 「僕は、馬鹿だからさ」


 思わず笑ってしまう。


 「何も考えずに突っ走って、何も考えずに生きてるって、そう思ってる人も多いと思うよ」


 「……!」


 「でもね――“馬鹿でいるため”に、俺は、全力で今日を生きてるんだよ!」






 「明日、何も考えずにのほほんと笑って生きるために!」


 「……だが!アオイさんは――!」


 「そうだよ!俺は、力も才能もない!」


 「……!」


 「だけど――馬鹿だから、ここで1人だけ逃げるなんて絶対できない!!」






 「それに!」


 「……?」


 「この魔皮紙、君が使って逃げるって選択もあったんだよね? でも、そうしなかった!」


 「…………」


 「君には、君なりの理由があるんでしょ? だったら――!」






 すでに、触手は目前まで迫っていた。


 俺は、ぼうっとしているリンの腰の剣を一本引き抜き――


 不恰好な構えのまま、振り抜く!


 「――せぇいっ!!」


 刃が、触手を切り裂いた。






 「理由はわからないけど……!」


 俺はそのまま剣を構えて、叫ぶ。


 「俺は戦う!! “勇者”として――最後まで!!」










  「――よく言った」






 「……え?」






 どこかから聞こえた声に、思わず周囲を見回す。


 けれどそこには誰もいない。






 ――自らの命を省みず、敵に立ち向かう姿勢。






 「合格だ」






 「エス……? いや、違う……」


 この声は……この気配は……


 「まさか……っ」






 ――今、お前にかけていたリミッターを外すときが来たようだ。






 空間が震える。


 まるで世界そのものが――何かを“承認”しているような感覚。






 【唱えよ、その魔法を】






 その声は、どこか懐かしくて、けれど圧倒的で――

 まるで世界の理そのものが語りかけてくるようだった。






 【そして。女神の作り出した“その魔物”を――倒せ】






 (女神が……生み出した……魔物?)


 問いかける暇はなかった。


 でも、今は――それよりも。






 俺の頭の中に、言葉がある。


 初めてなのに、何故か知っている魔法。


 力が、熱が、光が、俺の中心に集まっていく。






 俺は、静かに――けれど確かに、言葉を紡いだ。








 「――【武器召喚】」

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